東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第77回 BENTLEY MULSANNE SPEED/ ベントレー ミュルザンヌ スピード
これぞ年の瀬“東京クラシック”!? ミュルザンヌが、ベントレーのリアルである理由。
ベントレーのフラッグシップにして大いなる遺産でもあるミュルザンヌには、「機会があれば乗ってみたい」とずっと思っていた。それも新型になる前に。ちょうどラッパーのナズのドキュメンタリー映画を観ていたら、アニメの回想シーンで、乗り回していたのがこのクルマだったというのもある。希代のリリシストとベントレーっていう個人的な興味もあった。
それはともかく、このミュルザンヌはベントレーの“レガシーの塊”とも言える車種。そんなベントレーのレガシーを語る上で外せないのが、搭載された6.75ℓのV型8気筒OHVエンジンの存在なんだな。
ベントレーには改良されたW型12気筒エンジンがあり、本筋であればこのエンジンを搭載するのが望ましい。だがこのクルマに搭載されたのは、伝統的なV型8気筒エンジンだった。これはかつての兄弟会社であるロールス・ロイスの遺産そのままの、通称Lシリーズ(L410)エンジンに他ならない。このLシリーズのV型8気筒エンジンはそれこそ1950年代から使用されていて、ロールス・ロイスとベントレーの心臓を50年近くも支えてきた。その特性は脈々と受け継がれてきていて、今日に至る。ベントレーはとにかくこの排気量、この気筒数にこだわっていて、ミュルザンヌに乗ることは、つまりこの歴史と遺産を携えて走るということに等しいというわけなんだ。
クラシック音楽が似合う、高級サルーンの佇まい。
見る者を圧倒する巨体と、控えめだけど記憶に刻まれる丸目4灯のフロントフェイス。調和のとれたプロポーションは、これが9年前のデザインだなんて微塵も感じさせない。インテリアは木製の弦楽器とハンドメイドの調度品に囲まれているかのよう。木材のなめらかなカーブを描いた仕様や、張りのある高級革材にきっちり縫い込まれたステッチは重厚で、エンジンをかけると交響曲が始まるように空気が濃密な世界へと変調する。完全にクラシック音楽の世界だし、オペラやカンツォーネを聴くべきクルマなんだ。
走り出すと、波ひとつない湖面を滑っていくかのような静粛性となめらかさに驚嘆する。レガシーである6.75ℓのV型8気筒エンジンは、その存在感を慎みをもって隠すことを美徳にしていて、それがベントレーのアンダーステイトメント性なのだと気づかされる。アクセルを踏めば1000Nmを超えるトルク。2.77tの巨体が、外洋に出たクルーザーのように加速していく。太い木製のハンドルは船のステアリングホイールのようだし、シフトショックでさえ波頭に当たった船体が上下に揺れているかのように感じられる。大いなる航海へ出よう。気分はボン・ヴォヤージュである。
対照的なのはそんな船が大海を進むような祝祭感に対して、走り出す前の静粛性と遮音性なんだ。外の東京の景色も非現実的に感じられる空間には、リアルな孤独感があったね。この孤独を感じられない人はミュルザンヌを運転する理由がない、とさえ思ったな。いつのまにか同乗者と空間を共有したくなってくるし、その遮音された密室を最上なものにするのは間違いなくクラシック音楽だった。師走の東京を眺めながら、交響曲第9番でサヨナラ2018年。「歓喜の歌」とともに、ようこそ19年。でも自分はナズのデビューアルバム『イルマティック』を聴いていた。これがヒップホップ的には“クラシック”ってね(笑)。
●エンジン形式:V型8気筒OHVツインターボ
●排気量:6752cc
●最高出力:537PS/4000rpm
●駆動方式:FR(フロントエンジン後輪駆動)
●車両価格:¥38,550,000~
問い合わせ先/ベントレーコール
TEL:0120-97-7797
www.bentleymotors.jp