“現実”として存分にひたれる、VR時代が到来。

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    青野 豊・写真photographs by Yutaka Aono

    “現実”として存分にひたれる、VR時代が到来。

    610ℊと重さもぐっと抑えられたVRヘッドセット。希望小売価格¥48,578

    プレイステーションVR(以下、PSVR)を初めて体験したのが、今年1月のラスベガスの家電展示会、CESのソニーブースだった。一角が異様に混雑しているので、なにか?と寄ってみたら、PSVRのデモ。早速、専用のVRヘッドセットを着け、『TheLondonHeist-Getaway』を体験。高速道路を疾走するクルマの中から、オートバイで襲ってくる敵に、画面では銃になる手許のコントローラーを使って射撃するタイトルだ。驚くことに、横を向くと右のドライバーシートで、同僚(?)がなにやらわめきながら運転しているではないか。 

    帰国後、さまざまなVRゲームを試した。ドキドキしたのが『サマーレッスン』。自分が家庭教師になって女子高生の部屋で会話するVRだ。彼女がだんだん迫り来て、耳元で囁かれる。いくら立体的な3Dテレビでも、画面から飛び出て、見る人の眼前に迫るなんてことは絶対にないが、VRなら、実際に超接近されるのだから、心臓に悪い(?)。

    開発で重視された、登場人物を等身大に感じられるシステム設計。技術的なポイントは2点ある。ひとつが画角と解像度。ソニーには従来、数m先に巨大な仮想スクリーンを表示するヘッドマウント・ディスプレイがあるが、それは遠くから客観的に観ているという印象。VRは客観ではなく主観だ。自分の周りを映像が囲む「その場感覚」が得られるよう光学システムを設計した。仮想世界の中に入り込む没入感覚のためには広い視野角が必須。ディスプレイは5・7インチのフルHD有機ELパネル。これを左右で2分割して右目用・左目用の3D映像にしている。縦は1080、横は960画素だ。この解像度では視野角があまりに広いと、ぼけが生じるので、視野角は100度に設定。周辺視野を多少ぼかし、中心視野部の解像感を相対的に高めた。 

    2番目はフレーム周波数。いくら1枚の画に迫力があっても、動画用の枚数が少なければ、ちらつきや顔を動かしたとき残像となりVR酔いにつながる。そこで、通常のHDテレビの2倍の秒速120枚の連続画を表示させ、なめらかに動かす。ゲームソフトはそもそも3Dデータでつくられ、ゲーム機で3Dのリアルタイムレンダリング処理をしてから、2Dのテレビ画面に表示。その動きは手許のコントローラーが指示していた。VR対応にするには従来のコントローラー操作をヘッドセットの動きに読み替えればよい。これからどんどんVRゲームが登場する。ゲーム以外でも、旅行案内、家具の配置シミュレーションなどの産業用途も前途洋々。いよいよVR時代の到来である。

    プレーヤーの動きを読み取るための「プレイステーションカメラ」が必要となる。同梱版は¥53,978

    麻倉怜士
    デジタルメディア評論家。1950年生まれ。デジタルシーン全般の動向を常に見据え、巧みな感性評価にファンも多い。近著に『高音質保証!麻倉式PCオーディオ』(アスキー新書)『パナソニックの3D大戦略』(日経BP)がある。
    ※Pen本誌より転載