ものと人が共鳴する、ミナ ペルホネンの新たな試み。

    Share:
    写真:永井泰史 文:小川 彩

    #18ものと人が共鳴する、ミナ ペルホネンの新たな試み。

    ファッションアイテムとアートピースや工芸品が共存する、ミナ ペルホネンの新ショップ「call」。

    ファッションブランド「ミナ ペルホネン」のデザイナー・皆川明さんが、東京・青山のスパイラルビル5階に「call」をオープンしました。ファッションアイテムやオリジナルファブリックはもちろん、暮らしを豊かに彩る工芸品の比重がぐっと高まり、食材も扱うなど、より生活全般へと目を向けた新しいショップになっています。

    これまでミナ ペルホネンでは、店舗の基本設計から素材選びや什器に至るまで、皆川さんが細やかに目を向けてきたといいます。しかしここは、皆川さんがいままで交流を重ねてきたクリエイターや作家とともにつくりあげた場。たとえば空間設計は、ランドスケーププロダクツの中原慎一郎さんに期待をこめてお任せしました。自身がファッションを表現するうえで、アートや工芸などの作家にインスパイアされることも多く、素晴らしいつくり手との交流を表現する場をもちたいと長年思い続けていた皆川さん。それを実現させた「call」という店名には、そのような人たちとつながりながらみんなで店をつくっていく“creation all”という意味と、皆川さんが共感するものづくりをする仲間を呼び寄せるというメッセージが込められています。

    ドロワーの上には、メキシコの民族衣装を着た人形のチェス。サンフランシスコで自らみつけたもの。

    ケース内に佇む作品もお見逃しなく。こちらのムラーノガラスはカルロ・スカルパによるアートピース。

    ガラス作家、辻和美さんによるマウスブロウの大きな片口。鮮やかな色とゆらぎある作品が窓辺を彩ります。

    アラビア社のバレンシアシリーズ。職人による絵付けの筆致が生きたものを皆川さんがセレクトしました。

    ヴェネツィアの手漉き紙を使った鉛筆とノート。モノトーンのマーブル模様がエレガントかつマニッシュ。

    女性に向けたアイテムが中心のミナ ペルホネンにフェミニンな印象をもつ人も多いかもしれませんが、「call」には陶芸・木工・金工作家の作品をはじめ、男女問わず魅了される古今東西のアートピースやアンティーク、暮らしの道具が集められています。

    服が並ぶメインフロアに足を踏み入れて、真っ先に目に飛び込んでくるのは冒頭の写真にあるシャンデリア。ガラス一枚一枚の表情とどこかアールデコを思わせる重厚さが新鮮な、ガラス作家・辻和美さんによる作品です。その下にはスウェーデン製のアンティークのコーヒーテーブルが。アノニマスなものと作家の作品、そして国境や時代もボーダレスなアイテムの連なりに目を奪われます。あらゆる要素が混在しながらも不思議な一体感のある店内に、ミナ ペルホネンというブランドのものづくりを通して、暮らしを豊かに彩るものを追求してきた皆川さんの審美眼が、すみずみまで通っていることにあらためて気づきます。

    緻密に紡がれた、めくるめく“ものづくり・ものがたり”の世界。

    こちらのドイツ製のカヌーももちろん販売中。男性の遊び心を秘めているアイテムもcallの魅力です。

    コルビュジェ建築にも使われた1880年代後半のガラスブリック。MoMA収蔵の知る人ぞ知る作品です。

    ドイツ製の一点もののペーパーナイフや、ネジも溶接もしない職人の仕事が光るヴェネツィアの眼鏡店「micromega」のアイウエアなど、作家性や工芸的な性格をもつヨーロッパのものの一部は、皆川さんが親しくしてきたベルリン在住のキュレーターが買い付けてきたものといいます。そして、伝統的な技法で製造されているドイツ製のカヌーがディスプレイされたコーナーは、男性にとって遊び心をくすぐられる一角ではないでしょうか。その下にさりげなく置かれたガラスブリックもル・コルビュジエの建築に使われたギュスタフ・ファルコニエの作品で、工芸的な表情がインテリアオブジェとして魅力を放ちそうです。

    ヴェネツィアのマーブルペーパーで装飾したノートと鉛筆は、皆川さん自身が旅先で出会ったアイテムの一部とか。ものの背景をひとつひとつ聞いていると、ストーリーを引き継ぐことがものを手にする喜びの一部であることをより強く感じます。

    木工作家・森永省治さん、陶芸家の安藤雅信さんと竹村良訓さんの器は、内に秘めた力強さが魅力的。

    リチャード ジノリの白磁のアイテム。皆川さんによるモチーフを、イタリアの職人が絵付けしました。

    ユーモラスな表情のサンボネ社のカトラリーは、ジオ・ポンティによるデザイン。カフェでも使っています。

    皆川さんが長年交流してきた木工家・三谷龍二さんと陶芸家・安藤雅信さんには、オブジェやアートピースなど一点ものを中心に参加してもらったといいます。ほかにも、沖縄の風土を表す力強い作風で知られる陶芸家・大嶺實清(おおみねじっせい)さんや、木の個性を引き出す鹿児島の木工家・盛永省治さんなど、男性にも人気の実力派作家の大作や逸品を手にすることができるのも、特筆すべき点でしょう。

    日常づかいの器も充実していて、皆川さんが提案した3種類のモチーフをイタリアの職人がダークブルーで絵付けした、リチャード ジノリのミナ ペルホネン限定シリーズや、ジオ・ポンティがデザインしたカトラリー、そしてミナ ペルホネンオリジナルのプロダクトも揃います。ジノリの器では、職人の手がまだ慣れていない朝一番に描くことを皆川さんから工場に依頼しているとか。長年信頼関係を築いてきたからこそ、プロセスから相談できる。これ以外にもcallに並ぶものの魅力の背景には、人と人とのつながりと緻密な手仕事のストーリーが流れているものが少なくありません。

    ミナ ペルホネンのファブリックが張られた丸天井が圧巻のカフェ。涼やかなビオトープを望むテラス席も。

    めくるめくものづくりとものがたりの世界を体感したら、カフェ「家と庭」で一服しましょう。ここでも、ハギレを生かしてプロダクトを生み出すなど、皆川さんが生産のプロセスで大切にしている姿勢が投影されています。例えばメニューにスープを採用しているのは、野菜の見栄えが悪くても生かせることや、半端が出てもスープストックとして素材を活かしきれるから。ちなみに、家と庭で供されるスープの素材である野菜や調味料は、供するコーヒーやナチュラルワインとともにショップで販売しています。

    カフェを出たらオリジナルモチーフ“tambourine”を写した多治見焼のタイルを施工した壁やオリジナルカーペット、そしてストックホルム在住のイラストレーターでグラフィックデザイナーのヘニング・トロールベックさんによるエレベーターホールの壁画など、こだわり抜いた空間のディテールも見逃さないよう! 新しいものづくりの殿堂の揺るぎない力に、ぜひ触れてみてください。

    call

    東京都港区南青山5-6-23 SPIRAL 5F
    TEL:03-6825-3733
    営業時間:ショップ11時~20時 カフェ「家と庭」11時~19時30分L.O.
    ※夏季は8月15・16・17日のみ休業