音楽の都でしか 誕生しえなかった、 名スピーカー
「ハイドン」は音楽の都、ウィーン郊外に本拠を置く、オーストリアでは珍しい、世界的に高評価を得ているスピーカーメーカーだ。そもそも、名作曲家が生まれる処に名スピーカーなしとは、オーディオ界の常識。街中に生の音楽があふれているので、スピーカーで音楽を聴かずとも、充実した音楽生活が送れるからだ。本スピーカーの形やユニット構成は、ごく一般的なブックシェルフ型。15・2㎝のウーファーに2・5㎝のツイーターによるシンプルな2ウェイ2スピーカーだ。一般的でないのは、その音質。音のすみずみにまで、音楽的活性が与えられている。
たとえば、内田光子とマーク・スタインバーグのコンビの名盤として名高い、モーツァルトのヴァイオリンソナタ。ハイドンで再生すると典雅で優雅なだけでなく、深い精神性と、峻厳(しゅんげん)な音楽性を色濃く感じる。ピアノとヴァイオリンのそれぞれの倍音感、響きの透明感、濃密な空気感がたっぷり堪能できた。ピアノが主役のソナタだから、内田光子の鍵盤の速いパッセージの燦めき、一音一音から発する神々しさを痛感する。
音楽がまさに生まれる瞬間の立ち上がりのスリリングさ、複数の倍音による重層的な音楽の彩り……などの濃厚な音楽的ドラマが、このスピーカーなら心底、堪能できるのだ。
業界的、技術的にも見るべきところは多い。凹状に湾曲させたラバーエッジをもつ、ウーファーユニットは、同社独自の高機能樹脂〝X3P〞と3種類のポリプロピレンを混合した制動性の高いコーン紙を使用している。「音の立ち上がり、立ち下がり」というオーディオ用語があるが、スピーカー的には「内部損失」がポイントだ。つまり本ユニットは内部損失が、高い。別の言い方をすると、音が鳴り始めるとすぐに振動を開始し、終わるとすぐに振動を止める制動能力が高いということだ。このような技術的な話題に加え、やはりスピーカーメーカーとしててウィーンに本拠を置くことの環境的、精神的、そして音的なメリットはとても大きいのではないか。音楽を常に身近に感じ、体のすみずみにまでクラシックが染みいっている設計者がチューニングしたスピーカーには、問わず語りにして「ウィーンの音」がインプリされるのであろう。
そのハイドン、日本のみ限定100セットのウォルナットカラーモデルがリリースされた。同社創設者であり、開発・設計者のピーター・ガンシュテラーの直筆サインが入り、さらにピリオド奏法の開拓者、ニコラウス・アーノンクール指揮、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスによるハイドンの交響曲30、53、69番を収めたCDも付属させた。オマケがあってもなくても、名スピーカーであることのステイタスには、何の変わりはないが。
高剛性・超軽量のポリプロピレンを含んだ高機能樹脂「X3P」をウーファーに使用し、極めて高い制動性を実現。