【『VISUALIZE 60』対談企画】前編:色部義昭と植原亮輔が、デザイナーが自ら発信する時代を語る。

  • 写真:前中寿方
  • 文:山田泰巨

Share:

  • Line

日本のグラフィック・デザインを牽引してきた日本デザインセンターが創立60年を迎えたことを機に、『VISUALIZE 60』と題した展覧会を開催中だ。ディレクションを担当した同社のデザイナー・色部義昭と、彼と同世代で、ともに日本におけるグラフィックの現在を牽引するデザイナーの植原亮輔(KIGI)に、「VISUALIZE」を語り合ってもらった。

アート・ディレクターとして、デザイナーとして、多方面で活躍するふたり。色部義昭さん(左)と、グラフィックデザイナーの植原亮輔さん(右)。

企業とともに、そして自発的に。日本デザインセンターは、空間、ウェブ、映像、プロダクト、UX、インタラクションなど、さまざまな分野でデザイン活動を行ってきた制作プロダクションだ。彼らはいま、本質を見極めて可視化する「VISUALIZE」という言葉をテーマに、全4回にわたる展覧会を開催している。そのうち前後期にわたって同社の60のプロジェクトを紹介する展覧会『VISUALIZE 60』は、日本デザインセンター本社を会場にするもの。1月まで行われた前期の展示会場を植原さんが訪れ、色部さんが解説とともに案内してくれた。まずは会場を巡った植原さんに、率直な感想を尋ねてみよう。

「どれも完成度が高くて隙がない。やはりよい意味で(日本デザインセンター代表でデザイナーの)原研哉さんの影響があるのでしょう。KIGIはたとえて言うならパンツのゴムが見えていたり、靴下に穴が空いていたりするようなところがあるんだけど……」と笑う。改めて、日本デザインセンターを次のように評する。

「日本におけるデザインの歴史を牽引し、つくってきた会社です。そして多くのスターデザイナーを輩出してきました。そしていまもまた、新しい才能が輩出されています」

状況を活かし、遊び心もあるデザインに魅力を感じる。

会場構成は、プロジェクト全体のディレクションも担う色部さんが担当。前期後期で各30、計60のプロジェクトが紹介される。内容が多岐にわたるため、ジャンル別などのソートは行わずにリズムを見ながら展示構成を行った。

アート・ディレクターとして、デザイナーとして、多方面で活躍するふたり。色部さんは原さん、植原さんはかつて所属した「DRAFT」代表である宮田識さんに学んだ経歴をもつ。そして宮田さんもまた、日本デザインセンター出身のクリエイティブ・ディレクターだ。ふたりはともに師をどう見るのか。原さん、宮田さんは、ともに「言葉で人を動かす」人物だと色部さんは評する。

「原さんは『無印良品』でアート・ディレクションだけでなくコピーライティングからアドバイザリーボードまでさまざまに関わり、まさに職能の拡張を続けてきたデザイナーです。近年は自らプロジェクトの構想を立ち上げた『HOUSE VISION』で、会場もゼロからつくり、企業に出資を募りました。来るボールを打ち返すのではなく、自らボールを投げて、さらに打ち返してしまう人物です。一方、宮田さんは著作『デザインするな』のタイトルからもわかるように、明確で的確なメッセージを送る人物です」

そんな色部さんの読み解きに、「原さんの展示は自分を出さず、必然性があってやっているという状況をつくり出す。社会にすごく溶け込みますよね」と植原さんは応える。では植原さんにとって宮田さんはどのような人物か。

会場を案内する色部さんと、解説を聞く植原さん。展示のコンセプトとともに、既知のプロジェクトの制作エピソードを聞きながら、改めて関心を寄せる。
会場に展示された『無印良品「住む。」雑誌広告』。毎号変わる雑誌向け広告の中に、無印良品のもつ普遍性を表現する。展示そのものも、連続性を示すように両端が半分で切れている。

植原さんは語る。

「DRAFTはクライアントとしっかりと組んで仕事を進める会社です。仕事は長期にわたり、常に打ち上げ花火を上げるのではなくブランディングの意思がないといけない。だからていねいにいろいろなものをつくる仕事を学びました。宮田さんは仕事そのものを変えようとする人。グラフィック・デザイン界に新しい風を送ろうと『D-BROS』というブランドを立ち上げました。ときには自ら出資し、オーナーと協業して事業を始めることも。僕も、まさに新しい領域を広げることの大切さを学びました。いま、そうした視点が必要な時代を迎えているのを感じます」

会場を見た植原さんはまず、色部さんの作品から「市原湖畔美術館」のサイン計画を挙げる。

「つくり上げたというよりも状況を活かしていて、遊び心もあるのがいいですよね。サイン計画は成立させるのが難しい仕事。ノウハウが必要で、規模も大きいからチームを編成しなくてはいけない。色部さんのサイン計画は綺麗につくるだけじゃない、ちょっとしたアイデアに惹かれます」

会場では「Osaka Metro」のVI計画も展示され、MとOの文字がアニメーションで動くさまも動画で紹介された。他にも「天理駅前広場 CoFuFun」などのサイン計画、そして展覧会では取り上げられていないが東京都現代美術館のVI計画など、色部さんの作品は端正でありながら、独特のユーモアが寄り添う。

2013年にリニューアルオープンした「市原湖畔美術館」のVIやサイン計画を色部さんが担当。建築の躯体や金網のフェンスを巧みに用いたサイン計画が効果的に来場者を導く。
美術館入り口を案内する、金網のフェンスのサイン。

「少し前まではデザイナー自らのデザインコードで埋め尽くすように新たな世界に書き換えていくことが求められていたと思うのですが、いまはいろいろなことを受け入れながらクリエイションを構築する時代でもあるように思います。市原はよい面でも悪い面でも個性的な既存の環境があり、すべてをクリーンに書き換えてしまうのは違うと思ったんです。僕自身は、そのような毎回違う条件を積極的に受け入れて楽しみ、変化し続けていきたいという欲求があります。たとえば書体、素材、色も新しいものを探したいし、新しく接する状況をいかに楽しむかがもっとも重要なポイントなのかもしれません。テーマに合わせてアジャストしながら、できるだけ自らに制約をつくらずにデザインに挑戦したいと思っているんです」と、色部さんは言う。

かつて行われた展覧会の会場構成など、あらためて当時の制作背景を話しながら二人はじっくりと会場を巡った。
色部さんが、民営化に伴うVI計画を担当した「Osaka Metro」。会場では実際の地下鉄運行風景に寄り添うロゴマークの映像が流され、新たな空気をもちこみながら親和性の高さを備える姿が伝わってくる。
会場では映像作品も多く、指向性スピーカーを使って、マット上に立った時に音声が明瞭に聞こえてくる仕掛けも。他作品の鑑賞を邪魔しない配慮がなされている。

世界に出ることを、視野に入れた会社になってほしい。

デザイナーとして、経営に携わるものとして、互いの仕事に注目しながらふたりの対談はこれからの仕事の在りようにまで拡がっていった。

一方、色部さんは植原さんの仕事をどのように見ているのだろう。

「KIGIはどの仕事でも確固たる世界を表現しています。プロジェクトに応じてテーマが変わりつつも、そこにKIGIがやったなにかが残っている。ものとしての雄弁さ、パワーを感じます。植原さんがDRAFTに在籍されていた時代から仕事を見ていますが、独立後はますます加速した印象です。OFS(KIGIが白金に構えるショップ「OUR FAVOURITE SHOP」の略称)という自分たちの場をもちながら、次のステージに向かわれている印象があります」

色部さんは『VISUALIZE 60 Vol.1』と同時期に東京・南青山のスパイラルで開催され、植原さんが会場構成を手がけた向田邦子没後40年特別イベント『いま、風が吹いている』を見て、KIGIのデザインがもつ物語性に着目した。

「もともと向田邦子さんという物語をつくる人の展示ですが、会場構成はそれをさらにナラティブに見せてくれるものでした。それこそ言葉をもう一度編み直し、ビジュアル体験として提示する内容です。会場には不思議なところに線があったりするのですが、細かなディテールにも納得させられました」

色部義昭●1974年、千葉県生まれ。日本デザインセンター取締役。東京藝術大学大学院修士課程修了後、同社に入社し、2011年より色部デザイン研究所を主宰する。2019年、地下鉄のCI計画「Osaka Metro」で第21回亀倉雄策賞を受賞。
植原亮輔●1972年、北海道生まれ。多摩美術大学デザイン学科テキスタイル専攻卒業後、DRAFTに入社。2012年、渡邉良重とともにKIGI設立。CI、VI、ブランディング、広告などを手がける他、D-BROSの商品デザインなど、ジャンルを横断した仕事で高い評価を集める。

「吹き抜けのアトリウムに言葉が欲しいとのリクエストがありました。言葉の出し方は、映像で投影したり、長いのれんのようなもので見せたりといろいろな手法が考えられます。今回は展示のテーマを一度整理しようと言葉を書いていくうちに、”風が吹き抜ける”というキーワードが浮かび上がりました。アトリウムから風で上昇して言葉を浮かび上がる。そんなストーリーを描いているうちに、言葉を一度上に登らせて床に落下させるのはどうかと考えたのです。向田さんの最期のこともあり、天から言葉が届いてくるような感覚がいいかなと。僕はいつもどこかで文章を書きます。プレゼンでもイメージを伝える文書を提出することがあるので、ストーリーができやすいのかな。そのストーリーを絵本にしたこともあります」

色部さんは「意外なプロセスでした。確かに言葉があり、自然とナラティブな表現になるんですね」と応える。

「表現の軸になりながら表に出ない場合も多いんですが、文章で伝えるというのもいいことですよ。今回もコロナで向田さんの妹である和子さんに直接お会いできないことが多く、とにかく伝えなくちゃいけないから、文章を書いて提出したんです」

2021年1月にスパイラルで開催された向田邦子没後40年特別イベント『いま、風が吹いている』の会場構成とアート・ディレクションをKIGIが担当した。KIGIは会場の吹き抜けに高さ7.5mの「風の塔」を設置。向田作品から選んだ言葉の断片を長いロール紙に印刷し、滑車で頂点まで持ち上げ、カットされた言葉がふわりと落ちてくるインスタレーションを制作した。
2017年に宇都宮美術館で行われたKIGIの個展『KIGI WORK & FREE』。イメージやアイデアが、緻密なコンセプトと柔軟な想像力によって広がる過程を展示した。仕事はもちろん、プライベートワークの両面から、そのクリエイションに迫る展示を行った。

実は『VISUALIZE 60』もまた外に向けるだけではなく、日本デザインセンターの社員にどう届くかを想定したものだと色部さんは切り出す。

「会場にはクライアントをもたない自発的なプロジェクトも掲出しています。たとえばそのひとつである『MOUNTONE』は、山登り中に撮影した写真を記録するアプリケーションの提案です。興味のあることを形にして社会に投げかけると興味をもつ人に届き、それが仕事になるかもしれない。長期的な視点に立って、やっていこうと考えています」

植原さんは応える。「実は僕らが運営するOFSも近いところがある。それはいろんな人と繋がることです。ショップというメディアを通じた編集作業なので、いろいろな人と繋がりができる。するといろいろな表現に広がり、いろいろなクリエイターと繋がります。そうした繋がりこそがこれから重要であるし、時代が変化しているのを感じます」。

前後期の展覧会で展示される60のプロジェクトを紹介する『VISUALIZE 60』(誠文堂新光社)。こちらもは色部さんがデザインを手がけた。空間体験とは違うため、視覚的な連続性や面白さから展示とは別にナンバリングを行っている。

自分たちで自分たちの仕事をつくり、発信していく時代を迎えたとふたりは語らう。

「展覧会を通じ、表現し、発表する。『VISUALIZE』とは、日本デザインセンターの思想を謳うものではなく、いまデザインに求められるひとつの側面を表す言葉として提示しました。僕たちもまた、建築家、編集者など、いろいろな人にインタビューを行いました。植原さんがおっしゃるように自分たちもメディアになれるし、今回は『VISUALIZE』という言葉を接点に他者とつながり、発信していった。そんな双方向性が求められる時代になっていくように感じます」と色部さん。

「今回の展示は、どう残していくか、どう伝えていくかということへの真摯な取り組みが伝わってきました。僕たちはいま、発信をしていく必要があります。たとえば日本には一般にも広く読まれるようなデザイン誌がない。だから自分たちで発信するほかないんです。あらためて日本デザインセンターは世界に出ることを視野にいれてほしいと思いました」

そんな植原さんの言葉に、「まさに目指すべきもの」と色部さんは力強く答えた。


※後編に続く

『VISUALIZE60 Vol.2』

開催期間:開催中~2021年4月16日(金)
開催場所:POLYLOGUE(日本デザインセンター東京本社13階)
東京都中央区銀座4-9-13 銀座4丁目タワー
開館時間:10時~20時
休館日:土、日、祝
無料
※オンラインでの事前予約制
https://visualize60.ndc.co.jp

【『VISUALIZE 60』対談企画】前編:色部義昭と植原亮輔が、デザイナーが自ら発信する時代を語る。

  • 写真:前中寿方
  • 文:山田泰巨

Share:

  • Line

Hot Keywords