「セイコー プレザージュ」の腕時計に息づく日本の伝統技術を、職人と芸人で小説家の又吉直樹さんとの対談からひも解くシリーズ。第4回は、七宝ダイヤルの魅力を語り合ってもらった。
100年を超える時計づくりの伝統を受け継ぐセイコー プレザージュ。日本の優れた伝統工芸を取り入れ、伝統と先端技術とを融合させたモデルを意欲的に展開している。尾張七宝の施釉師(せゆうし)、戸谷航(わたる)さんが手がけた七宝ダイヤルモデルもそのひとつだ。
古代エジプトから日本へ、独自の進化を遂げた伝統工芸。
「この独特な青色にまず目が行きますね」と語る、芸人で小説家の又吉直樹さん。七宝ダイヤルの透明感と奥行きがある色合いに興味をもったようだ。
戸谷 航(以下、戸谷) 七宝はエナメル装飾の一種で、地金の上にガラス質の釉薬を盛り、800℃前後の高温で焼成したもの。古代エジプトの王、ツタンカーメンのマスクの青い装飾はエナメル装飾の原型と言われています。日本にも奈良時代にシルクロード経由で伝来しましたが、当時のものはガラス質が透明ではありませんでした。現在のようにクリアなものは、日本では明治初期に改良され、愛知県海部郡七宝町で発展して全国に広まりました。
又吉直樹(以下、又吉) 透明感がある濃い青に惹かれますが、この色合いをつくるのは難しいのですか?
戸谷 七宝の独特な色合いは、原料のガラスに着色剤として酸化金属を配合し、それを高温で焼成することでつくり出しています。同じ配合のものであっても、焼く温度や時間などが少しでもずれてしまうと仕上がりの色みが変わってくるので大変です。
又吉 光の当たり方で色合いが変わってくるので、とても面白いですね。
戸谷 ガラスを焼き重ねて深みのある色合いを出していますが、濃い青に白の文字が映えるので見やすく機能的になっています。日光の下で見るとさらに青が映えるので、ぜひそこを楽しんでいただきたいです。他の色だったら、どんな色が合いそうですか?
又吉 ……緑。濃い緑は合うと思います。また赤と橙の中間、夕焼け色もいい。光を当てたらよさそうですね。
困難に挑む過程でわかった、創作を続ける心構えとは。
釉薬の塗りと焼成を繰り返し、さらに独自の研磨加工を施すことで生み出される平滑で艶やかな七宝ダイヤル。色づくりに続き、その工程に又吉さんは関心をもったようだ。
又吉 色以外ではなにが大変ですか?
戸谷 仕上がった状態の厚みですね。通常の七宝は、ガラス質に1mm以上の厚みがあります。しかし腕時計の文字盤は0.3mm以下の薄さで、しかも平面であることが求められます。
又吉 その文字盤の上で、針を回さなければいけないからですね。
戸谷 だから釉薬を薄く、しかも表側だけでは焼いた時に反ってしまうので、表裏の両面に塗っています。また一般的な七宝は粘りを出すために釉薬に鉛を加えるのですが、このダイヤルはセイコーが掲げている高い環境保護基準に対応するために、独自の無鉛釉薬を使用しています。これは気泡が入りやすく、またそれを削る際に欠けやすいので非常に神経を使います。
又吉 なるほど。その難しいことに挑戦した中で発見はありましたか?
戸谷 何百枚何千枚とつくる上では、あまりこだわりすぎてはいけないということに気づかされました。試作時には完璧に整っていなければならないと思って製作に努めていたのですが、いざ量産の段階に入ると、肩の力を抜いて少し手を速めたほうがかえって歩留まりが上がったのです。
又吉 大事なのは、最初にまず100%でやってみることでしょうね。そこから短距離走から長距離走に切り替えるように、力を抜いていい状態を継続的に保つ方法を探っていく。それはどんな仕事にも共通することかもしれません。僕もずっと長い期間出演しているコントライブの場合は、毎回自分の全力を出そうとすると結果的に大げさになって、全体のリズムや流れができにくくなりますから。
つくり手同士だからこそわかる創作を続ける際の心構えに、又吉さんは深く共感したようだ。
セイコー プレザージュ 七宝ダイヤルモデル
セイコーの原点、国産初の腕時計である「ローレル」のダイヤルレイアウトを七宝で表現。地金に施したエングレービングが透けて見える奥行きのある青色は、高い環境保護基準に対応する独自の無鉛釉薬で製作されたもの。高精度・薄型ムーブメント「Cal.6L35」とボックス型サファイアガラスを採用することで、その薄さを強調したケース構造になっている。
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