「セイコー プレザージュ」の腕時計に息づく日本の伝統技術を、職人と芸人で小説家の又吉直樹さんとの対談からひも解くシリーズ。第3回は、有田焼ダイヤルの魅力を語り合ってもらいます。

100年を超える時計づくりの伝統を受け継ぐセイコー プレザージュ。日本の優れた伝統工芸と先端技術との融合を意欲的に行い、これまでに琺瑯(ほうろう)や七宝、漆のダイヤルを採用したモデルを生み出してきました。そして今年9月から新たにラインアップに加わったのが、この有田焼ダイヤルのモデルです。
製造条件によって変化する、生き物のような工芸品。

「普通の白と違って、実に味わい深い白色ですね」と語る、芸人で小説家の又吉直樹さん。有田焼ダイヤルの独特な色合いに興味をもったようです。
橋口博之(以下、橋口) 有田焼を象徴する青みがかった白色と、陶磁器らしい艶をこのモデルでは表現しました。
又吉直樹(以下、又吉) 製造する上でどんなところが難しかったですか?
橋口 陶土は高温で焼くほど収縮しますが、腕時計の文字盤は寸法が決まっているので、10ミクロンの精度が求められます。器を焼く場合は900℃ぐらいで素焼きをしてから、釉薬を塗って1300℃で本焼成するのですが、それでは収縮を管理できない。そこで通常とは逆に、あらかじめ高温で焼いた後、低い温度で焼き上げています。
又吉 大きすぎた場合は、後から削って調整はできないのですか?
橋口 インダイヤルの窪みなどがあるので、全体的に縮めないとダメなのです。収縮具合は、陶土の粒子の大きさや含水率、攪拌(かくはん)スピードなどにも左右されます。最初は失敗の連続でしたね。陶磁器はまるで生き物のようで、思い通りにならないということを改めて実感させられました。
又吉 すごいですね。材料は同じなのに、つくり方を少し変えると仕上がりも変わる。その繊細さが興味深い。僕は力技でなんとかするよりも、素材や状況に応じたやり方で仕上げていくのが理想的な表現だと思うのです。僕がコントをつくる時に気をつけているのは、自分のギャグをどの文脈で入れ込むかを考えるのではなく、状況設定が先にあって、その流れだからこそ出てくるボケを採用すること。仮にやりたいギャグがある場合でも、それが活きる最善の状況を考える。そうしてその都度やり方を調整していく、そんな感覚が似ているなと思いました。

つくり手同士で通じ合う、クリエイションの流儀。

通常は器などに使われる有田焼の陶磁器。それを腕時計の文字盤という精密パーツとして用いるための工夫。又吉さんはそこに共感を覚えるとともに、さらに関心を抱いたようです。
又吉 本来、有田焼にはここまでの精密さは求められていませんよね?
橋口 はい。でも精密であればいいというものでもない。自然の土を使っているので不純物を含み、表面にはかすかな凹凸もあります。でもそれは味わいで、同じものがふたつとない個性なので残しておきたい。それが精密な文字盤の中に有田焼らしさを出す、表現のひとつだと思っています。また普段、器を手がけている者としては、陶磁器はそれ自体では未完成品。そこに料理が盛られて、やっと光り輝くものだと思っています。それに有田焼は分業制を採っていることも特徴。各工程の職人の手を経て仕上げられます。腕時計もムーブメントやケース、針などが組み合わさり、それを身に着けることで初めて完成するもの。そういう意味では、器も腕時計も同じですね。
又吉 僕もライブで作・演出をする時、もっと自分をメインにしてもいいのではと言われたりします。でも僕はそれより、他の出演者の活かし方などを考えるのが好きなんですよね。
ジャンルは違えども同じクリエイターとして、相通じるものを又吉さんは感じ取ったようです。

セイコー プレザージュ 有田焼ダイヤルモデル
陶磁器特有の艶やかな立体感を表現したダイヤルは、初期の有田焼に用いられていた柞灰釉(いすばいゆう)の淡く青みがかった白色が美しい。国産初の腕時計であるセイコー「ローレル」のデザインを取り入れた印象的な赤と、有田焼の絵付けを連想させる青をインデックスに配している。


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