大阪・北新地から東京・銀座へ。バー「Serpent」が掲げる、唯一無二のスタイルと新たな試みとは。

  • 写真:杉田裕一
  • 文:小久保敦郎
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高感度な大人が集う大阪・北新地のバー「Serpent(セルパン)」が、この秋に東京・銀座へ移転することになりました。オーナーバーテンダーを務める山崎聡さんと、同店を訪れたファッションディレクター・干場義雅さんとの会話から、その独自のスタイルと新店への思いが浮かび上がります。

鮮やかな手つきでつくられた季節のカクテル。飲み手をうならせる一杯が、この秋から東京・銀座で味わえる。

ウェブマガジン『FORZA STYLE(フォルツァスタイル)』の編集長をはじめ、ファッションディレクターとしてさまざまなメディアで活躍中の干場義雅さん。仕事で国内外を飛び回る日々ですが、大阪では仕事が終わると北新地に足を向けることが多いそうです。この日も新幹線に乗る前に、クールダウンを兼ねて一軒の店へ。そこはレトロなビルの一室で営むバー「Serpent」。知人から「北新地でバーに行くならここ」と聞き、前々から気になっていた店でした。

ゲストのわがままを叶えるのも、バーテンダーの仕事。

写真左:干場義雅(ファッションディレクター)●東京都生まれ。『LEON(レオン)』『OCEANS(オーシャンズ)』などのライフスタイル誌の編集者を経て、ファッションディレクターとして独立。ウェブマガジン『FORZA STYLE』の編集長も務める。写真右:山崎聡(ネオロジムズ代表取締役、オーナーバーテンダー)●大阪府生まれ。ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル勤務を経て、大阪・北新地のバー「Serpent」の店長に就任。2009年より同店を継承し独立開業する。

バー「Serpent」を訪れた干場さんを出迎えたのは、オーナーバーテンダーの山崎聡さん。「いらっしゃいませ」と穏やかな声でカウンター席に誘います。バックバーはシックな格子扉で閉ざされ、お酒の品揃えがひと目でわからないつくり。ならば、と腰かけた干場さんは店のお薦めメニューを探るべく、山崎さんに話しかけます。

干場義雅(以下、干場) 知り合いに勧められて、今日は寄らせてもらいました。こちらのお店はどのようなお酒が多いのですか?

山崎 聡(以下、山崎) シャンパーニュとシングルモルト、そしてカクテルに力を入れています。それぞれの販売比率は同じくらいですね。だから全員シャンパーニュという日もありますが、基本的にはお客さまが好みでいろいろなものを飲まれています。

干場 シャンパーニュですか、いいですね。どれくらい揃えているのですか?

山崎 だいたい1000本くらいでしょうか。専用の倉庫を借りていて、店内には300本くらいご用意しております。

干場 それはすごい! どんな銘柄が人気なのですか?

山崎 いまは自然派のシャンパーニュがよく出ますね。ジャック・セロスとか、そのお弟子さんがつくっているものとか。生産本数が少ないのであまり市場に出回らないのですが、毎年フランスに行くなど努力を重ね、然るべきルートから仕入れてストックしています。

干場 スター生産者のシャンパーニュですか。ファンにはたまらないですね。

写真左は、ジャクソン社が1975年にリリースしたヴィンテージシャンパーニュ。右はゴードン&マクファイル社のシングルモルトウイスキーで、世界に61本しかない希少品。ファン垂涎のお宝級の銘柄をストックする。
写真左のカクテルは、シャインマスカットでアレンジした「フレンチ75ツイスト」。右は仕上げに薔薇の香りを添えた、薔薇と白桃の「ベリーニ」。季節ごとに用意するカクテルも工夫を凝らしている。

シャンパーニュ専門店ならともかく、通常のバースタイルにもかかわらず1000本のシャンパーニュをストックしているという話に、干場さんは度肝を抜かれた様子。他のお酒の品揃えにも、俄然興味が湧いてきます。

干場 シングルモルトはどのようなものがあるのですか?

山崎 主にスコットランドのシングルモルトを揃えています。ストックは800本くらいですね。

干場 皆さん、シングルモルトはどのように飲んでいるのでしょう。やはりストレートがお薦めですか?

山崎 ある程度値が張るものは、「もったいない!」からとストレートで飲まれる方が多いですね。でも個人的には、水割りやソーダ割りで飲んでもおいしいものがあると思っています。やはりカジュアルなウイスキーと比べると、水やソーダを加えた時の香りの開き方が違ったりして……。おいしいものはどう飲んでもおいしかったりするんですよね。

干場 確かに、そうかもしれません。カクテルはどのような感じですか?

山崎 クラシックなレシピだけでなく、斬新な組み合わせもご用意しています。たとえばいまの時期でしたら、旬のフルーツであるシャインマスカットを使ったものとか。

干場 その斬新なカクテル、気になりますね。一杯いただけますか?

山崎 承知しました。ベースのお酒は、抹茶をジンで抽出したものです。そこに皮ごとすり潰したシャインマスカットを合わせて、シャンパーニュを注ぎます。「フレンチ75」のツイストですね。

干場 ツイストとは?

山崎 ジンとレモンとシャンパーニュのカクテルがあって、それが「フレンチ75」という名前なのですが、もともとあるカクテルにヒネリを加えたものを“ツイスト”って呼ぶのです。さあ、どうぞ。

干場 あぁ、これはおいしい! シャインマスカットの甘みと煎茶の苦味と香り、そしてシャンパーニュの爽やかさが見事なハーモニーを奏でていますね。これ、“気絶するやつ”じゃないですか(笑)。

チャームとして出すことが多いカヌレは、こだわりの自家製。生ハムもイタリア・パルマ産の希少部位を用意するなど、フードメニューも吟味したものを提供する。

おいしいお酒を口にして、ほっとひと息つく干場さん。その様子を静かに見守りつつ、山崎さんは新たな会話の糸口を探ります。

山崎 普段はどのようなお酒を飲むことが多いのですか?

干場 その時の気分だったり、シーンだったりで変わりますね。シングルモルトは好きですが、カリブ海のリゾートだったらラムも飲みますし、イタリアのカプリ島だったらリモンチェッロをオーダーしたり……。やはり、その場所で楽しめるものが違ってきますから。飲む時はできれば優雅にグラスを傾けたいのですが、いかんせん時間がない。でも一杯だけ飲みたい、ということもある。そんなわがままなお客さん、いませんか(笑)。

山崎 それでいいんです。わがままを言っていただいて、それを叶えるのがバーテンダーの仕事だと思っていますから。店に来ていただくというのは、お客さまの時間を頂戴するということ。可能なかぎりご要望に合わせた場の提供を心がけています。たとえば会話の中で「こんな曲が好き」という話があれば、次回いらした時にその曲をスッと流してみたり。

干場 それは素敵ですね。やはり記憶力がすごいんですね、きっと。

山崎 私自身もバーに行くのが好きで、客として素晴らしいサービスをたくさん受けてきたからでしょうか。諸先輩方に、そういうふうに接客していただいた経験が活きているのだと思います。

東京・銀座を足がかりに、世界的に評価されるバーへ。

ゲストがなにを求めているのか、常に先回りして考えながらもゆとりある態度で対応する山崎さん。その接客のスタイルが安心感と居心地のよさにつながっていく。

お酒を手にした干場さんは、すっかりリラックスした様子。初めて訪れた店特有の緊張が解けるにつれ、店内のさまざまな設えが気になりだしたようです。

干場 先ほど音楽の話がありましたが、店内の音響システムもいいですね。

山崎 少しでも心地よい時間を過ごしてほしいという思いから、高音質なスピーカーを導入しています。「JBL 4331B」という、JBL社の歴史だと3ウェイに移行する直前のモデルになります。最新のスピーカーはクリアな音質が求められていますが、ハイエンドスピーカーの真骨頂とも言える独特のクセがあるんです。

干場 そのクセが活きるのは、どのような音楽ジャンルなのですか?

山崎 個人的にはピアノや弦楽器かなと思っています。でも普段は、オールジャンルでかけています。クラシックやジャズ、AORなど、お客さましだいですね。

干場 店内の明るさもいい感じですね。

山崎 ライティングはかなり意識していて、全体的にギリギリまで暗くしています。お酒だけがライトで浮かび上がり、飲んでいる人は暗闇に身を任せるイメージですね。

干場 そのおかげで、すっかり寛ぎモードに入っています。そういえば海外のレストランも、食事をするところなのにすごく暗かったりしますよね。この間、ロンドンでイタリア人の友だちとレストランに行ったんです。ミシュランの星付きの店だったのですが、そこも暗くて。食事中は暗くてよくわからなかったのですが、近くのテーブルにいた男女がすごくいい雰囲気で。これだから海外はいいなと思いながら帰りがけによく見たら、超有名なセレブリティでした。ちょっと羨ましかったですね、日本ではなかなかできないので(笑)。

山崎 適度な暗さというのは、パブリック性を保つ効果があると思いますね。

ルネ・ラリックのアンティークグラスやバカラのシェーカーなど、厳選された上質なクリスタルガラス製品を使うのもおもてなしの一環と言える。

大阪出張の際、北新地で立ち寄りたくなる店がまたひとつ増えた――。そう思っていた干場さんは、ここで山崎さんから思いがけないことを告げられます。

干場 こちらのお店は、開業してから長いのですか?

山崎 今年で18周年目を迎えました。実は8月いっぱいでこの店を閉め、移転することになっているのです。

干場 えっ、どちらに移られるのですか?

山崎 東京の銀座です。

干場 そうなんですか! 18年も続けられていると、常連の方たちもたくさんおられますよね。

山崎 もともと横浜のインターコンチネンタル ホテルで働いていたんです。その頃から、いずれ東京で自分の店をもちたいと思っていたのですが、実家の都合で大阪へ戻らざるをえなくて……。北新地で店を構え、ここでの夢がある程度叶ったので、いよいよ東京かなと。北新地で飲むお客さまは、銀座で飲む比率も高いんですよ。

干場 なるほど、大歓迎です。場所は銀座のどちらですか?

山崎 銀座6丁目になります。泰明小学校の近くですね。

干場 それはいい。あの辺はめちゃくちゃ盛り上がっています。週末の夜とか、若い人たちがたくさん集まっていますし。いま銀座で店を出すなら、ベストな場所じゃないですかね。

JBL製のクラシカルなスピーカーから流れる音楽はジャンルレス。音響システムまでこだわるのは、ゲストに五感で心地よさを感じてもらうためだという。
格子状の引き戸で開閉できるバックバー。銀座の新店もデザインの方向性は変えず、木や石、和紙などナチュラルな素材を中心に空間をつくり上げる予定だ。

干場 新しい銀座店は、この店と大きく変わるのでしょうか?

山崎 いえ、コンセプトや空間設計は基本的に変えません。これまでに積み上げてきたものを、さらにブラッシュアップしたイメージです。内装や設えも、この北新地の店を手がけてもらったデザイナーにお願いしています。

干場 東京に進出するに際して、やってみたいことはありますか?

山崎 まずは新しい店を軌道に乗せることですが、同時に人も育てたいと思っています。どうしても労働時間が長くなりがちな業種ですが、お客さまのさまざまな要望に応えるためにはインプットもすごく大切です。そのような時間をしっかりと確保できる体制を整え、後進を育てていきたいですね。それは次なる店の布石になるし、バーテンダーの社会的地位の向上にもつながると考えています。視野に入れているのは、世界的な評価。そこから新しい日本のバーカルチャーが生まれるかもしれません。

干場 銀座店のオープンはいつですか?

山崎 10月上旬を予定しています。

干場 それは本当に楽しみですね。お酒はヴィンテージシャンパーニュから斬新なカクテルまで幅広いし、立地もいい。銀座で飲む時間が、また増えることになりそうです。本日はごちそうさまでした。次は銀座でお会いしましょう!

Serpent

東京都中央区銀座6-3-18 La・La・Grande GINZA 2F
※2019年10月上旬にオープン予定。

問い合わせ先/ネオロジムズ
http://recruit.neologisms-inc.com