銀座の中心地で半世紀以上にわたり、超一流の腕時計を扱ってきた「和光」。世界最高峰の時計を輩出してきた「クレドール」と「グランドセイコー」から、この店だからこそ手に入れたい2つの腕時計をご紹介します。
上の写真は、セイコーの最上級ブランド「クレドール」から今年発売された「叡智Ⅱ」のケースバックです。ムーブメントはぜんまい駆動ながら日差±1秒以内の高精度を実現した、セイコー独自のスプリングドライブ。高度な機能はもちろんとして、美観を徹底的に追求。軸受けやネジ穴などの面取り部分は、どの角度からの光も歪みなく反射するよう、職人の手作業によって磨き上げられています。
パワーリザーブ表示の長い針やネジは、ムラのないクリアなテンパーブルー(ブルースチール)。防錆効果もありますが、焼き込みの際に茶色から青に変わる瞬間を見切って取り上げる、熟練した技能によってつくられています。これに合わせて彫り文字もブルーで統一しており、軸受けのルビーの濃い赤と美しいコントラストに。2枚に分割されたブリッジ(受け)のプレートも、表面に筋目模様をほどこす一方で、面取りしてエッジを鏡のように仕上げています。それによって、硬質な金属(洋白)が華やかな煌めきを放つ宝石に生まれ変わったといっても過言ではないでしょう。
職人が手作業で磨き上げた至高の腕時計、「クレドール 叡智Ⅱ」
ムーブメントの最終仕上げは、ゲンチアナという植物を研磨に使用しています。これは独立時計師のフィリップ・デュフォー氏などが愛用しているジャンシャンと同種であり、セイコーエプソンの「マイクロアーティスト工房」が日本中を探し求めて発見したものです。ゲンチアナの茎を乾燥させてダイヤモンドペーストと合わせて使用しますが、金属を傷めない絶妙な柔らかさが特長といわれています。
また、文字板のバーインデックスとCREDORロゴは、驚くことに筆による手書きです。こちらも独自調色による艶やかで深みのあるブラックで描かれ、盛り上がった塗料も手をかけた証といえるでしょう。このように、ベテランの職人が心底から納得いくまで手間と知恵を尽くした結晶が「叡智Ⅱ」なのです。
それだけでなく、時計技術でも世界唯一の「トルクリターンシステム」を搭載しています。これは、主ゼンマイを収めた香箱に別の輪列を追加して、その回転力の一部を香箱に戻すかたちで自らを再び巻き上げるという画期的なシステムです。具体的にはいっぱいに巻かれた状態から約35時間まで、精度と運針に影響を与えない程度(約30%)のエネルギーを利用。以後はゼンマイのパワーが弱くなるので、トルクリターンシステムは自動的にオフになります。それによって従来の手巻キャリバーに比べて持続時間が約25%向上し、約60時間のパワーリザーブを実現しています。
セイコーの高級時計を製作する工房は国内に2つあります。機械式時計の聖地とされる「雫石高級時計工房」と、高精度クオーツ時計やスプリングドライブを生み出した「信州 時の匠工房」です。どちらもムーブメントの設計、開発、製造、組立、調整から、検査、出荷まで一貫して行う世界有数のマニュファクチュールですが、「信州 時の匠工房」の一部である「マイクロアーティスト工房」は2000年に新設されました。世界でも最高峰の時計技術はもちろん、歯車のアームなどにも面取りをほどこすなどハイレベルな装飾技術を追求し、次世代に継承することを目的としてきました。
特に、スプリングドライブを搭載した「クレドール」では、2006年に音で時間を告知する「ソヌリ」、続いて2008年にはピュアな時計美を表現した「叡智」、2011年には「ミニッツリピーター」を発表。いずれも高く評価されています。このうち「叡智」は、2014年にパワーリザーブ表示を裏側に配置してシンプルビューティを究めた「叡智Ⅱ」にリニューアル。そして2018年に「叡智」誕生10周年記念の18Kピンクゴールドモデルが登場という経緯になります。ベルトをケースに接続するかん足(ラグ)の付け根をシャープでメリハリのある形に磨き込むなど、これまで以上に細かな部分にまで手をかけており、いわば10年をかけて飽くなき改良を繰り返してきた結実といえるでしょう。「美は細部に宿る」という至言を見事に体現したモデルなのです。
実用性を極めた、グランドセイコー「スプリングドライブ8DAYS」の魅力。
「マイクロアーティスト工房」が初めて手がけた「グランドセイコー」が、「スプリングドライブ8DAYS」です。1960年に誕生した「グランドセイコー」は精度、視認性、使いやすさ、耐久性など、腕時計本来の実用性を追求した日本を代表する高級ブランドですが、約8日間、1週間以上のパワーリザーブを得たことで、さらに利便性が向上しました。週に1度、手で巻きあげることを習慣にすれば、別の時計に着け替えても1週間以内であれば止まることはなく高精度を保っているので、使うたびに時刻を合わせる必要がないからです。搭載されている「キャリバー9R01」は、主ゼンマイを収めた3つの香箱を直列に連結するだけでなく、部品と部品の摩擦によって生じるエネルギーロスを抑える工夫を随所に採り入れています。
装飾・造形的な技法も工夫されており、ケースは熱を加えない常温で鍛造する「冷間鍛造」。プラチナを高圧でプレスした上で切削するため、密度や硬度が髙まるだけでなく、やわらかな素材にもかかわらず平滑で歪みのない鏡面とシャープな稜線が造形されています。この稜線は、かん足(ラグ)の先端にまで至っており、細やかな磨き作業が必要なため、通常に比べて10倍の時間をかけたそうです。キラキラと粒立った煌めきが見られるダイヤルも、ラッカーなどの塗装を何層も重ねることで光を複雑に反射。細部を見れば見るほど感嘆させられるモデルです。
「叡智」のシリーズと同じく、「スプリングドライブ8DAYS」もケースバックに「マイクロアーティスト工房」の繊細な工夫と遊び心が表現されています。ムーブメントの主要部分の軸を受け止め固定するブリッジは、一般的には複数のプレートで構成されていますが、このモデルは1枚のみ。しかも約3倍の厚さでしっかりとパーツを押さえ込むだけでなく、落下などの衝撃を受けても歪みや軸がズレにくい構造になっています。さらに厚いブリッジを富士山の形にカット。右側に位置するローターは山腹から昇り始めた太陽を、右下のパワーリザーブ表示は諏訪湖をイメージしています。軸受けの赤い人工ルビーは、諏訪の街の灯りだそうです。とすれば、文字板のダイヤモンドダストは、信州の山々が纏うパウダースノーといえるでしょうか。ブリッジの輪郭や軸穴などは、どの角度からも輝くように卓越した職人による手作業で磨き上げられ、一見するとシンプルでプレーンな雰囲気ですが、細部に職人の粋な精神とプロとしての心意気が込められたモデルです。
銀座の中心、和光で腕時計を手にするという特別な体験を。
高級時計は特別な買い物ですから、特別な店で買うべきだといわれます。和光は、それにふさわしい時計店といえるでしょう。東京・銀座のど真ん中という立地だけでなく、シンボルとなっている屋上の時計塔は2009年に近代化産業遺産(経済産業省)に認定。いわば日本の発展を見守ってきた存在なのです。その歴史は1894年に始まり、1932年には現在の時計塔である二代目時計塔が竣工、服部時計店の小売部門を継承した和光が1952年から現在の地で営業を開始。この時にウインドウディスプレイのデザインを気鋭のデザイナーたちが競作したことで、「銀座の顔」として定着しました。現在は宝飾品や陶磁器、バッグなどのラグジュアリーブランドを扱う高級専門店であり、6階には期間限定で美術工芸品を展覧する和光ホールも設置されています。1階が時計フロアで、落ち着いたベージュカラーで統一。長きにわたる歴史と伝統に裏打ちされた上質へのこだわりが感じられる雰囲気が漂っています。親子代々の顧客も少なくないことから、何よりも安心して高級時計を購入できる店といえるでしょう。
日本の近代時計史は、1881年に服部金太郎が創業した服部時計店から始まりました。その後のセイコーの時計づくりは大きく発展。時計の輸入や販売は銀座の和光が担ってきました。このため、セイコーのラインアップは文句なしの大充実。中でも「クレドール」は、ダイヤモンドなどをちりばめた華やかな宝飾系のレディースはもちろん、超薄型メカニカルの彫金モデルから、日本特有の漆芸の技巧を駆使したモデルなど、美術工芸と呼ぶべき逸品を展示。「グランドセイコー」もメカニカル、クオーツ、そしてスプリングドライブの全機種を網羅しています。また、11月29日(木)から12月25日(火)までは、グランドセイコー&セイコー クリスマスコレクションを開催しています。
時計は購入したら終わりではなく、その時点から販売店との末永い付き合いが始まるといわれます。機械式時計は定期的なオーバーホールが必要であり、これを欠かさなければ長期にわたって高精度を維持でき、子や孫など世代を超えて愛用することができるからです。販売店はこのオーバーホールの窓口になるだけでなく、夏の汗染みなどで傷んだ革ストラップの交換など、アフターサービスやメンテナンスも重要な業務。和光ではクロコダイル、オストリッチなどさまざまな素材と多彩なカラーバリエーションの革ストラップを在庫しており、個別のオーダーも日本のアトリエで承りから約3週間で納品可能。また、時計修理師が常駐する修理コーナーも心強い存在であり、クオーツの電池交換は言うまでもなく、ちょっとした不具合なども気軽に相談できます。
ビンテージウォッチの人気が高いことから分かるように、時計は寿命が極めて長いプロダクトです。思い出や愛着が次第に加わっていくことで、持つ人にとって唯一無二の存在にもなっていきます。それだけに、購入する時計店も永続性と信頼性が不可欠。和光は昨年に創立70年を迎えたほか、セイコーホールディングスに属しているので、信頼感と安心感は折り紙付きといっていいでしょう。セイコーだけでなく、スイスの有名時計ブランドのモデルも数多く揃えており、それらを腕にのせて比較しながら選ぶことができるのも見逃せないメリット。グランドセイコーとクレドールの和光限定モデルも要注目です。
和光
東京都中央区銀座4丁目5-11
TEL:03-3562-2111(代表)
営業時間 10時30分~19時
※12月21日(金)〜24日(月)は20時まで
無休(年末年始を除く)
www.wako.co.jp