プロダクトデザイナー深澤直人が語る、15年間愛されてきた「INFOBAR(インフォバー)」の進化とデザイン

  • 写真:宇田川 淳
  • 文:土田貴宏
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ミニマルにして斬新なフォルムと色使いで、多くのファンに支持されてきた携帯電話「INFOBAR(インフォバー)」。その初期モデルを彷彿とさせる「インフォバー xv」が新たに発売されます。このプロダクトを手がけた深澤直人さんに、インタビューを行いました。

深澤直人(プロダクトデザイナー)●1956年山梨県生まれ。多摩美術大学卒業後、サンフランシスコIDEOなどを経て2003年に自身のデザイン事務所を設立。2018年5月、イサム・ノグチ賞を受賞。

いまから15年前、auの「インフォバー」は画期的な携帯電話として誕生しました。かつてなかった個性と存在感をもつ、高度にデザインされた携帯電話は、やがて日本国内で大ヒット。さらにニューヨークのMoMAに所蔵されるなど、世界的にも高い評価を得ます。その後も時代ともに革新を続けたこのシリーズに、この秋、ニューモデル「インフォバー xv」が登場。初代「インフォバー」の佇まいを受け継ぎながらも、その姿には確かな現代性も備わっています。インフォバーの生みの親であるデザイナーの深澤直人さんに、そのデザインについて語ってもらいました。

折りたたみ型全盛期に登場した、異形の「バー型」。

2001年にコンセプトモデルとして公開された「info.bar」。その後に製品化されたインフォバーのルーツです。

初代インフォバーが発売されたのは、2003年秋のこと。当時の日本の携帯電話は折りたたみ式が全盛で、デザインに力を入れたモデルはあっても、それはかたちのバリエーションに過ぎませんでした。そこに登場したインフォバーは、すっきりしたバータイプの本体にディスプレイとタイル型のキーを配置し、まったく新しい存在感を放っていました。このデザインは、携帯電話の新しい原型として多くの人々に受け入れられます。そのデザインを手がけた深澤直人さんは、こう語ります。

「当時から僕の仕事すべてに共通するのは、『こういうものが好き』と人が感じるかたちを具現化して提案すること。インフォバーは、その読みがうまく当たりました。機能も、生産技術も、インターフェイスも、将来的にどう変化していくかを自分なりに見きわめた上で、あのデザインになったのです」

コンセプトモデル「info.bar」は、すでにタイル型のキーを備え、キーの縁に枠がない仕様でデザインされていました。

そもそも深澤さんがインフォバーの原点となるモデルを発想したのは2001年のこと。そのミニマルでカラフルなオブジェは、レゴブロックでつくられていたといいます。同年、バータイプの筐体にタイル型のキーをはめ込んだコンセプトモデル「info.bar」が発表され、一部で話題を呼びました。そして、かたちとともに色使いの感覚も、初代のインフォバーへと受け継がれていきます。象徴的なのは赤、白、水色のキーをランダムに組み合わせたモデル「ニシキゴイ」です。

「あのキーの配色はかなり過激なトライでしたが、最も人気が出たのも『ニシキゴイ』でした。それだけは予想に反していましたね」と深澤さん。ただし色使いも含めて、ファッションの要素を携帯電話に取り込むことは、インフォバーにおいて当初から意図されたことでした。

歴代のインフォバーの数々。ディテールや機能は変化しても、一貫したインフォバーらしさがあります。

インフォバーは、2007年に「インフォバー 2」へと発展します。デザインのイメージを継承しながら、全体的に丸みを帯びたフォルムには、やはり大きな反響がありました。その後もいち早くスマートフォンモデルを発表したりと、インフォバーは常にチャレンジを続けてきました。興味深いのは、長年にわたってこのシリーズを愛好するファンが存在し続けているということです。

「今回、最初のモデルに近いインフォバーを再び手がけたのも、そんなインフォバーのファンがいるとわかったからです。最もインフォバーらしいインフォバーを、現在の技術でやってみようと。同時に、そろそろ最初のインフォバーを知らない世代も出てきた。スマートフォンはすでにOSが確立されて変化が起きにくい状況ですが、それとは違う方向からデザインとしておもしろいものを出したいと考えました」

常に目指しているのは、”愛されるかたち”

「インフォバーの開発にはエンジニアも熱心で、こちらがリクエストしないことも先回って提案してくれました」と深澤さん。

「インフォバー xv」の第一印象は、確かに最初のインフォバーによく似ています。手のひらに心地よく収まるサイズ感と、しっくりとくるフォルム。オリジナルを知っている人には懐かしい、知らない人にとってはおそらく新鮮な、ファッショナブルなキーの配色も受け継がれています。しかし個々の要素を観察すると、実はまったくの別物とも言えます。

「たとえば以前はあったキー周囲のフレームが、インフォバー xvにはありません。実は2001年のコンセプトモデルもフレームがなかったのですが、発売モデルでは製造上の理由でできなかったのです。しかし今回の開発過程では、エンジニアもとてもモチベーションが高く、実現することができました」と深澤さん。ディスプレイも、本体のサイズに収まりながら画質の優れたものを採用し、オリジナルに比べてクオリティを格段に向上させています。

インフォバー xvは左から「ナスコン」「ニシキゴイ」「チェリーベリー」の3色。「色については客観的に分析しながら決めていきます」と深澤さん。
待機中はアナログ時計を表示。深澤さんはインターフェイスのデザインにも関わっています。

インフォバー xvの機能は、最新のスマートフォンに並ぶものではありません。あえて機能も引き算することで、独自の立ち位置にある携帯電話であることを重視しているのです。

「たくさんのアプリケーションをダウンロードして活用するという考え方も、最低限これとこれだけでいいという考え方もあって、その両方の人格をひとりがもっているのは現代では当たり前です。だからスマートフォンとインフォバー xvを同時にもつというのも当然ありえるでしょうね。機能の少なさをポジティブに受け取る意見は予想以上に多くあるようです」

テクノロジーが常に進歩し続けるとしても、デザインはそんなテクノロジーと人間との適切な関係をつくり出すもの。インフォバー xvは、そんなデザインの思想を感じさせます。

深澤さんがデザインした、インフォバー xvの専用スタンドに本体をセットしたところ。

では、2003年に発表されたインフォバーから、今年発売されるインフォバー xvまで、そのデザインに一貫するものとは何でしょうか?

「かたちについて言うと、艶やかさは重要なポイントです。フラットだと光沢があってもキラッとした感じが出ないので、張りのあるフォルムを取り入れて、技術的には難しいグロッシーな仕上げをしています」

初期の直線的なインフォバーも、キーはタイルのように中央が膨らんでいて、確かに艶やかさがあります。またインフォバー xvではボディのフォルム全体に独特の張りがあり、さりげない存在感が生まれています。その存在感が訴えかけてくるものは、深澤直人が手がける数々のプロダクトと共通しているようです。

「電子機器のデザインだけが、電子機器らしくあろうとしていますよね。実際は電子機器も家具や日用品と同じように人のまわりで使われるものであって、僕は同じ意識でデザインしています」

SIMカード用のピンがインフォバーの形をしているのも、ファンの心をくすぐりそうなディテール。
深澤さんは、携帯電話のデザインも、家具や日用品などのデザインと同じ意識で取り組んでいるといいます。

今回、インフォバー xvの開発にあたっては、クラウドファンディングで開発資金を募集。また、塗装工場の見学会やファンミーティングも行われ、多くのインフォバーファンがイベントに集いました。そして10月31日から11月12日までは、21_21 デザインサイトにて『新・ケータイ INFOBAR 展』も開催されます。

「デザインというのは、コミュニティをつくっていくカルチャーでもあります。ある製品を買うのは、それに共感するということであり、同じように共感する仲間に入っていくこと。コミュニティを豊かにするのは、いまの時代に最も大事なクリエイティビティですが、ものを通じてそれが実現するわけです」

単にデザインの完成度を高めるだけでは、そのように人を引きつける力は生まれないと、深澤さんは言います。

「ものづくりのいちばん最後のフィルターとして、”愛されるかたち”をしているかを必ず客観的に観察します。その形がオーラを放っていなければいけない。そうでないと、褒められはするけど『いい人』で終わってしまうんです」

スマートフォンが世の中に定着して10年足らず。インフォバーには15年の歴史があり、その中で培われてきたものがあります。このモデルには、テクノロジーやデザインの未来を考える上で、大切なヒントがあるに違いありません。

『新・ケータイ INFOBAR 展』
開催期間:2018年10月31日(水)~11月12日(月)
開催場所:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3
東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン内
TEL:03-3475-2121
開館時間:10時~19時
会期中無休
www.2121designsight.jp