アート・ディレクター大貫卓也、25年ぶりの作品集『Advertising is』でその仕事のすべてを語る。

  • 写真:宇田川 淳
  • 文:土田貴宏

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日本を代表するアート・ディレクター、大貫卓也さんが発表した25年ぶりの作品集『Advertising is』が話題です。数々の広告によって時代をつくってきた大貫さんは、現在のデザイン、ビジネス、そしてクリエイティブを、どのように捉えているのでしょうか。

としまえんの新聞広告、ペプシコーラの「ペプシマン」、カップヌードルやソフトバンクのCM、資生堂の「TSUBAKI」……。アート・ディレクターの大貫卓也さんは、日本の広告史上に残る数々の名作を手がけてきました。その活動の集大成と言える作品集が、昨年11月に刊行された『Advertising is / Takuya Onuki Advertising Works 1980-2010』です。30年以上にわたる活動を、約1500ページという圧巻のボリュームに収めたこの大著は、きわめて充実したカタログレゾネであるとともに、現在のクリエイティブ・シーンに対する熱い力のこもったメッセージでもあります。

普段はあまりメディアに登場しない大貫さんに、この作品集を世に発表した経緯と、その背景にある思いについて聞きました。その言葉は、広告やデザインはもちろん、あらゆるビジネスにかかわる人々の心に響くものです。

いかに人の気を引くか。作品集自体が「広告」です。

表紙に選んだのは、1998年のラフォーレ原宿のキャンペーンビジュアル。インパクトのある70年代風の広告写真は、ロケーション、キャスティング、メイク、そして下着のセレクトまで、あらゆる要素に大貫さんの考えが反映されています。

大貫卓也さんの新しい作品集『Advertising is』を手にした人は、まずそのボリュームに目を見張ることでしょう。この本は、多摩美術大学で学んだ70年代のイラストレーションに始まり、広告代理店の博報堂で制作した「としまえん」「カップヌードル」などの広告、そして1993年に独立してから近年に至るまでの仕事のほとんどを網羅したものです。

「この本の厚さも大きさも、僕にとっては広告なんです。いかに多くの人の気を引くものになるかを、常に考えているからです。自分がやってきたすべての基本は広告であって、それは機能するコミュニケーションをつくるということ。本をつくる時も、発想の仕方は変わりません」と大貫さん。印象的な表紙の写真は、1997~98年のラフォーレ原宿のキャンペーン「NUDE OR LAFORET」のために制作されたものです。

「いま、世の中で主流になっているフラットでノイズのないデザインに対して、僕の本としてアイコンになるビジュアルがなにかを考えて、これにしました。自分の作品集だからといって、好き嫌いで選んでいるわけではないんです」

大貫卓也さんは1958年生まれ。多摩美術大学卒業後、博報堂に入社して早々に頭角を現し、1993年に独立。数多くの商品やブランドの広告を手がける、この分野の第一人者です。

そもそも、なぜこのタイミングで、大貫さんは作品集を発表したのでしょうか。

「この本が、デザインというものに興味をもっている多くの人たちのためになればいいと考えました。自分が若い頃とは違って、いまは広告やデザインが憧れの対象ではありません。クリエイティブの仕事が、なにか新しいものを生み出していくというよりも、要領よくクライアントの条件を埋めていくだけの作業になってきています。しかし、僕は多くの広告制作を通してコミュニケーションの本質を学んできたし、広告コミュニケーションによって世の中だって変えることができることを実感してきました。さらに広告コミュニケーションはあらゆることに応用できるんです。僕もこんな年齢になって、その力を伝える責任があると感じるようになりました」

世の中にはデザインのハウツーを簡潔に伝える書籍があふれています。しかし、それでは伝わりきらないことが、この本にはぎっしり詰まっています。ビジュアルカタログとしての充実度はもちろん、今回のために自身で書き下ろしたテキストも1冊の本が出来上がってしまうほどのボリューム。個々の仕事のプロセスに、想像を超える努力があったことがわかります。

「スマートで簡単でかっこいいことばかりではなく、汗をかくことの価値を伝えるべきだと思いました。ブックデザインもすごくシンプルにするか、すごく過剰にするか、どちらにしても極端なもののほうが確実に世の中に届く。これも広告と一緒です」

2000年に展開したペプシコーラの「ペプシマン」のフィギュア付きキャップ。当時、店頭に並ぶ商品自体を広告メディアと捉える視点はとても斬新でした。作品集には多くのバリエーションを掲載しています。
言葉に頼らず情報を伝えるアメリカのビルボードアートに大きな影響を受けたという大貫さん。2002年のラフォーレ原宿の広告グラフィックは、そのビルボードアートをモチーフに。
よく目立ち、わかりやすく、個性的で、見れば見るほど好きになる。だから商品が売れ、その蓄積効果としてブランディングになる。カップヌードルの1992年のテレビCMは、大貫さんが理想とする広告手法が確立された時期のもの。

店頭からペプシコーラが姿を消すほど話題になった「ペプシマン」、ファッションビルのラフォーレのイメージを確立した屋外広告、そして「hungry?」というひと言を際立たせてカップヌードルの魅力を訴えたテレビCM。これらの有名な仕事の裏側にも、さまざまな苦しみと楽しさがあったのです。さらにこの本の中には、効果的なコミュニケーションを生み出すコツが、随所にちりばめられています。20年以上前の広告も昨日のことのように詳しく説明できる、大貫さんの記憶力に驚かずにはいられません。

「感覚的に見える仕事もすべてロジカルに考えていたので、ずっと忘れないんです。すべてのデザイン行為には理由があるわけです。僕は昔からすべての広告はブランド広告だと思ってきたから、チラシ1枚のデザインまでも無駄にせず、積み重ねることでブランドにつなげてきた。さらに頼まれなくても社長みたいに5年先のことまで考えるんだから、相手にとっては迷惑かもしれない(笑)。でも大風呂敷を広げているわけではなく、5年先までのビジョンが見えてから、目の前の一つひとつのことをやっていくということです」

大貫さんのプロフェッショナリズムは、あらゆる仕事の考え方や進め方に一貫しているのです。

ボツ案も収録することで、試行錯誤や戦略をも伝えたい。

「目先の結果を求める広告では、コストを無駄にするだけ。ブランディングという言葉が流行っているけど、本当にブランドをつくれている広告はとても少ない」と大貫さん。

『Advertising is』は時系列で作品を紹介しながら、大貫さんの意識の変化をふまえた3部構成のつくりになっています。まず最初は、いかに人と違う新しい表現を開発するかに注力した表現の時代。その次は、広告の最大の意義であるビジネスを伸ばすことにフォーカスした時代。さらに約10年前からは、クライアントのニーズを超える「志」をもつ時代を迎えたと言います。

「僕が若かった頃の広告業界は、みんな“広告という作品”をつくるのに熱心で、表現ばかりが注目されて、ものを売ることに関心がなかった。それはおかしいと思って、自分は結果を出すことに傾倒していきました。そしてデザインという、それまで感覚的だったものを言語化して、デザインを戦略にしようと考えました。もう誰にも負ける気がしませんでしたね。次の転機は愛知万博の仕事で、その中で自分の価値観が大きく変わるようなアイデアを思いついたことで、デザインで世の中を変えられると確信したんです。社会のためのデザインなんていまでこそ当たり前ですが、当時、そんなことを言う人はほとんどいませんでした」

常に時代の流れの逆を行くように見える大貫さんですが、それは単なるアンチテーゼでなく、無垢な目で本質をつかもうという姿勢の表れ。だから、いつか時代が追いついてくるのです。

大貫さんが提案した2020年の東京オリンピックのエンブレムは、名作とされる1964年の東京オリンピックのマークの一部を切り取って拡大するという大胆な発想。そこに至る無数の試作も収められています。

この本のユニークな見どころのひとつは、過去のラフ案やボツ案を巻末に多数収録していること。現在でも話題になりそうな表現や、驚くほど革新的なアイデアがいくつもあります。

「僕の仕事は、感覚的に思いついたように見えるものが多いらしいのですが、水面下ではいろいろな試行錯誤があるし、戦略やロジックがある。世の中に出ていない、膨大な作業を見せることで、アイデアには多くの夢や可能性があることを伝えたいと思いました」

なかでも注目したいのは、2020年の東京オリンピックのエンブレムのコンペの際に、大貫さんが提案したデザインです。これは1964年の東京オリンピックで亀倉雄策が手がけたマークの一部を拡大して用いるという画期的なもので、「自分のデザインの中でもベスト3に入る」という自信作でした。あくまで表層的なデザインではなく、ストーリーありきのデザインだったのです。

「このオリンピックは、日本文化を再確認して世界に提示する場になるべきだという思いがありました。これからは、なんでも壊して新しくするのではなく、いいものは変えないという、伝統をもう一度再認識する機会ではないかと考えた。亀倉さんのデザインをトリミングするデザインは、その考え方の象徴としてふさわしいものでした」

大貫さんの30年間にわたる軌跡を収めた作品集『Advertising is』は、すべてのクリエイターに感銘を与える力をもつ本。現在、初版は完売状態のため、増刷が待ち望まれます。

『Advertising is』の中には、「新しい価値観をもったアイデアは典型となり、やがて原型となっていく」という言葉があります。大貫さんは、それこそがアート・ディレクターの本当の仕事だと確信をもっているのです。これは、物事の見た目をきれいに整え、市場の中で最適化させていく作業とは正反対のクリエイションです。

「僕はロマンチストだと言われることがあります。こんなものが将来に生まれたら、社会がこうなって、人がこんなふうに幸せになる。そんな夢をみんなで実現することに成功してきた経験を、臨場感をもって伝えようとしたのが、この本なのかもしれません。僕にとって広告みたいに面白い仕事は他にないし、いままで本当に楽しかったですね。もう引退したような言い方ですが(笑)」

一方で、大貫さんが徹底したリアリストであることも、この本からは伝わってきます。彼は現状を正確に見極め、即効性のある、そして誰もが納得できるアイデアを常に提示します。こうしてふたつの能力を同時に発揮するのは、決して矛盾することではありません。いままで積み重ねてきた仕事のすべてが、その事実を証明しているのです。

『Advertising is(アドバタイジング イズ)』
大貫卓也[著]
ISBN:978-4-7661-3083-6
定価:本体¥10,800(グラフィック社刊)
www.graphicsha.co.jp

アート・ディレクター大貫卓也、25年ぶりの作品集『Advertising is』でその仕事のすべてを語る。

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