林信行がひも解く、FeliCa対応「Apple Pay」の使い心地と可能性。

  • 写真:江森康之
  • 文:三木 匡(クエストルーム)

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昨年10月、ついに日本でもサービスが始まった「Apple Pay」。日本発の非接触ICカード技術、FeliCaに対応したこの決済サービスについて、ITジャーナリストの林信行さんにそのポテンシャルと可能性をうかがいました。

テクノロジーだけにとらわれず、暮らしや社会といった独自の視点に定評があるITジャーナリストの林信行さん。

アップルはこれまでもずっと、私たちのライフスタイルを一変させるような“発明”をもたらしてくれる存在でした。1980年代にマウスで操作できるグラフィカルなユーザーインターフェイスでコンピューターをパーソナルなものとし、90年代終盤にはiMacでインターネットを日常に、2000年代に入るとiPod、iPhone、iPad、Apple Watchと、立て続けにマジックを見せてくれました。

そして初代iPhoneの登場からおよそ10年を経た2016年9月、アップルから発表された「Apple Pay」。Suicaをはじめとする日本発の非接触ICカード技術「FeliCa」に対応したこのApple Payについて、90年代からアップルに関する記事を専門誌などに寄稿してきたITジャーナリストの林信行さんは、これもまたある意味“発明”なのだと解説します。

「Apple Pay」は、クレジットカードの再発明です。

「Apple Pay」と日本発のFeliCaとのマッチングを、林さんは「感心するほど」だと評価する。

製品のリリースと同時にiPhone 7、Apple Watch Series 2を所有し、昨年10月のサービスインから「Apple Pay」も利用しているという林信行さん。日本のITジャーナリストのなかでも、アップルについての第一人者と呼ばれる林さんに、まずはApple Payがどのようなサービスだと感じられたかをうかがいました。

「ひと言でいうと、“クレジットカードの再発明”だと思います。クレジットカードは使い始めると、これがないと生きていけないくらい便利なもの(笑)。しかし最近、スキミングなどクレジットカードに関連した犯罪が、現在進行形でかなり増えてきています。これまでのクレジットカードの難点は、容易に番号情報が盗まれてしまう危険性があること。プラスティックのカードを現物で持ち歩いているのは、ある意味、パスワードが印刷されているものを持ち歩いていることに近い。それをヴァーチャルにiPhone内に入れることで、セキュリティも強化され、安心して決済に使用できるようにしたのです」

林さんの私物のiPhone 7のWalletアプリを拝見。昨年10月のサービスインから愛用しているとのこと。

これまではクレジットカードより現金、ネットより店舗というように、ヴァーチャルなものより物理的なもののほうが安心感がありましたが、現在は完全に逆転したようにも思えると、林さんは指摘します。

「iPhone上のヴァーチャルなカードは、のぞき見られても番号は下4桁しか表示しません。支払いの際に通信される決済情報もその一回かぎり有効なデータで、実際のクレジットカード番号を使う代わりに独自の番号を割り当てて使用しているので、万が一ハッカーに情報を盗まれても、決済が終了しているデータは何の役にも立ちません。ですからリアルな店舗でも、オンラインショッピングでも、安心して支払いができます。決済の承認も、サインや暗証番号ではなく指紋認証ですから。クレジットとは“信頼”という意味ですが、本当の意味で信頼できる決済サービスにつくり変えたのです」

林さんは実際に、どのような場面で利用しているのかも教えてくれました。

「やはり移動する際は便利ですね。たとえばタクシーを利用する場合、日本交通だと『全国タクシーアプリ』で呼べば、その時点でApple Payで決済手続きができるので、あとは乗って降りるだけ。もうiPhoneすら取り出す必要がないのです」

カードは最大で8枚まで登録でき、仕事とプライベートなど切り替えて使い分けられる。

日本で注目を集めたのは、やはりSuicaへの対応が大きいと、林さんは解説します。

「昨年、iPhoneとApple WatchがFeliCaに対応したので、SuicaやiD、QUICPayが使える店で利用できるようになりました。Suicaでいえば、JR東日本の管轄なら定期券は窓口に並ばなくても、『Suica』アプリからApple Payで決済して購入できる。ちなみに現在、世界中から多くの人たちが東京へ来られますが、滞在中にこの世界最先端のICカードを試そうと思っているようですね。でも残念なのは海外仕様のiPhoneだとFeliCaは使えないので取り込めないのです。もともと東京では、Suicaなどの決済サービスが普及していた。実は東京は、世界最先端のペイメント都市なのです。そんな日本発のFeliCaは、NFCといわれる非接触ICカード技術のなかでも圧倒的に質が高い。Suicaはあのラッシュアワーの新宿駅でも、問題なく利用できることを基準にしていますからね」

2020年、日本発の電子決済方式を世界標準に。

「この夏以降、『Apple Pay』対応の決済端末が一気に増えるのでは」と、林さんは予想している。

そんなSuicaやクレジットカードを、iPhone内に取り込む方法にもまた、アップルの哲学が表れていると林さんは指摘します。

「これまでの類似のサービスと比べて、圧倒的にカードの追加が簡単です。Suicaならタッチした瞬間に情報が移りますし、クレジットカードはカメラでスキャンするだけでクレジットカードが入れられる。またその際のアニメーションも楽しいので、つぎつぎと持っているカードを追加したくなりますね。アップルはやはり、デザインの会社。どうやって生活に馴染むものにするか、使ってみたいと思わせるようなデザインを考えているのです」

かつてiPhoneが登場した時に夢中になった、そんなユーザー体験を林さんは「Apple Pay」で支払いをする際にも感じられるそうです。

「iPhoneやApple Watchには、Taptic Engineという振動エンジンが搭載されています。これによって決済を承認するための指紋認証や、Suicaで改札を通ったあとに、トンっという振動のフィードバックが返ってくる。これがまた、実に心地いいのです」

Suicaアプリのログイン画面。指紋認証はまさに“瞬時”。ペイメントに関わるどの場面でも、ストレスを感じさせない。

革新的なGUIにはじまり、常にユーザーインターフェイスにこだわるのは、使用者サイドの思考に即しているからこそ。林さんは、その点でもApple Payの安心は担保されていると考えています。

「ある意味、これも“クレジットカードの再発明”につながることかもしれませんが、世の中のサービスはほとんど、顧客の個人情報を集めて、それをうまく有効活用していこうというマーケティングが大勢です。個人の嗜好情報を集めて、その人が欲しがりそうなものを提示していくものですが、それを快く思わない人たちもいる。アップルは世界でも数少ない、一切個人情報を集めないと宣言している会社です。CEOのティム・クックは、『我々は自分たちの顧客を売り物にしない』と宣言しています。指紋情報も個人のiPhone内に閉じ込められていて、アップルでも見ることはできないのです」

最新のApple Watch Series 2があれば、iPhone 5以降でApple Payが利用できる。

Apple Payと日本発のFeliCaとのマッチングのよさに、林さんは期待を寄せています。

「日本は物事を極めるということに、圧倒的に優れていると思います。あの改札での認証スピードや正確性は、ほかの国ではまねができない。日本のFeliCaによる電子決済の技術は、世界最先端といえるものです。タッチするだけで購入商品の割引などができる『かざすクーポン』といったさらなる活用例もありますし、FeliCaと一緒に取り組んで、そういった先例をApple Payに取り入れてもらいたい。より進化した21世紀のペイメントとして、これからの世界標準をつくってほしいのです」

2020年に開催される東京オリンピックでは、それこそ世界中から東京へゲストがやって来ます。

「ですから次のiPhoneでは、海外仕様のものにもFeliCaを搭載し、登録したSuicaにはほかの国のクレジットカードからでもチャージできるように。そうして2020年には、日本のFeliCaの素晴らしさを世界中の人たちに体験してもらい、『我が国にもこれが必要だ』という潮流を生み出したいですね」

「Apple Pay」で、なにができるのか?

まず一番に挙げられるのはSuicaへの対応。定期券、乗車券としてはもちろん、買い物にも利用できる。
Suica、iD、QUICPayのステッカーが付いているタクシーで「Apple Pay」は使用可能。

そもそも、「Apple Pay」とは?

「Apple Pay」はFeliCaに対応した日本国内で発売されているiPhone 7、iPhone 7 Plus、Apple Watch Series 2などで利用することができる決済サービスです。WalletアプリにSuicaやクレジットカード、プリペイドカードを追加することで、SuicaはSuica加盟店で、クレジットカードやプリペイドカードはiDやQUICPayが使える店で利用可能となります。クレジットカードの設定は、Walletアプリからクレジットカードをカメラでスキャンするだけです。

Suicaもカードを持っていれば、iPhoneの先端にカードをタッチしスキャンするだけと非常に簡単。またSuicaを持っていなくても、Suicaアプリから直接、新規発行することもできます。Suicaへのチャージは、Walletアプリのクレジットカード、またはコンビニなどで現金を使っても可能です。JR東日本管轄内であれば、定期券、新幹線などの特急券、グリーン券の購入ができるので、iPhoneやApple Watchをそのまま定期券として使ったり、新幹線やグリーン車に乗ったりすることが可能です。

レストランでの商談や会食の際にも、Apple Payならスマートな支払いを実現できる。

Apple PayはSuica、iD、QUICPayが使える店であればどこでも利用できるので飲食店はもちろん、コンビニエンスストアをはじめスーパーマーケット、ドラッグストア、書店、家電量販店、ガソリンスタンド、レジャー施設、そして一部の衣料品店やホテルなどでも利用可能。

Suicaでの支払いの際はTouch IDなしでいままでのSuicaと同じ要領で支払え、クレジットカードでの支払いの際には、iDまたはQUICPayで支払うことを伝え、Touch IDに指を載せたまま本体をリーダーにかざせば、それだけで支払えます。

Apple Watchの場合は、サイドボタンをダブルクリックしてリーダーにかざします。Apple Watchの場合、装着する時にパスコードを入力し認証しているので、支払いの際に再度認証する必要はなくかざすだけでOK。なおiPhone、Apple Watchどちらでも、複数のカードを追加している場合には、いずれか1枚をメインカードに設定することができ、常にメインカードが最初に表示されます。

Apple Payはまた、ギフティ、ミンネ、じゃらん、出前館、全国タクシーアプリ(日本交通)といった、対応するアプリやオンラインサイトでの決済にも利用できます。

Apple Watch Series 2とApple Payで、アクティビティはもっと快適になる。

「Apple Pay」が、軽やかなライフスタイルを実現する。

Apple Watch Series 2は、Apple PayとともにGPS機能が搭載されました。これでランニングなどをする際は、iPhoneを携行しなくても走ったルートが確認できるようになり、飲み物などの購入にもApple Payで支払いが可能なので、最少の装備でアクティビティを楽しむことができます。

またほかにも、散歩に出かけた蚤の市で雑貨を購入したり、週末のマルシェをのぞいて食材を買い求めたりと、この決済サービスが普及すれば、いわゆるワンマイルのライフスタイルがより彩られていくことでしょう。Apple Payがなければ生まれなかった、出会いやコミュニケーションの機会が訪れるはずです。

FeliCa対応「Apple Pay」
※「FeliCa」はソニーが開発した非接触ICカードの技術方式で、ソニーの登録商標です。
※「Suica」は東日本旅客鉄道の登録商標です。
※「iD」はNTTドコモの商標です。
※「QUICPay」はジェーシービーの登録商標です。

●問い合わせ先/フェリカネットワークス
www.felicanetworks.co.jp

林信行がひも解く、FeliCa対応「Apple Pay」の使い心地と可能性。

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