デスティネーション ショップ13:ロンドンで人気のショップ「レイバー・アンド・ウェイト」。このユニークな雑貨店が2号店の地に選んだのは、東京・千駄ヶ谷でした。

英国・ロンドンのイーストエンドで話題のエリア、ショーディッチに店を構え、お洒落な人が足をはこぶ店として世界的に知られる雑貨店、「レイバー・アンド・ウェイト」が東京・千駄ヶ谷に2号店を開きました。「完成度が高く、形が美しく、機能的であること」がこの店で扱う商品のモットー。ファッションデザイナーであったオーナー2人の審美眼にかなったものだけをラインナップし、ディスプレイの方法も普通の雑貨店とは明らかに違います。
わざわざ行くべき価値がある店を紹介するデスティネーションショップ第12回は、昭和な雰囲気が漂う千駄ヶ谷のマンションの1階にオープンしたこの店で、英国から来日した2人のオーナーにお話を聞きました。
海外で初のショップが、東京の千駄ヶ谷に。

「レイバー・アンド・ウエイト」が海外で初のショップ、つまり2号店として選んだのが、東京・千駄ヶ谷です。しかも大通りから少し離れ、クラシックなたたずまいが残るマンションの一角をわざわざ選んで出店しました。
「でもいいロケーションでしょう。気持ちがよいところです。ここはクリエイティブな雰囲気が漂う場所で、きっとこれから盛り上がるでしょうね。メインストリートからちょっと離れた場所というのは、ロンドンのお店と共通しています」。店の立地をこう話すのは、レイチェル・ワイス・モーランさん。パートナーのサイモン・ワトキンズさんとともにロンドンで「レイバー・アンド・ウェイト」を立ち上げた人です。近くには、ファッションやインテリアなどの個性的なショップが点在するエリアで、周りが学校や住宅街ということもあって、平日でも思いのほか静かな場所です。最近ではカフェなどもできてお洒落さが香る地区といえます。


2人がロンドンでショップを開いたのは2000年のことです。当初はいまと異なるチェシャーストリートと呼ばれる場所にオープンし、2010年に現在の場所に店を移し、広さも拡大しました。
「2人ともファッションブランドでデザイナーをしていたんです。でも6ヶ月ごとに変わるコレクションに疑問を感じていました。なぜならば、商品を買ってくれた人が同じものを買おうと思っても、たいてい買えることがない。そういう疑問に逆らうことをやってはいけないと思い、自分たちの表現の場として店を開きました」と語るのは、眼鏡をかけた長身のサイモンさん。店名は19世紀のアメリカの詩人ヘンリー・ワンズワース・ロングフェローの詩篇“Learn to Labour and to Wait(結果を得る前にしっかり働いて、待ちましょう)”から取ったそうです。



ロンドンの店の近くでは週末に近くでアンティークマーケットが開かれる人が集まってくるので、週末だけ開ける店としてオープンしたのです。
「まだデザイナーとして仕事もしていましたし、本業をやめてまでやる勇気がなくてね。週末だけ開いたのは自分たちの目指すものは明確だったのですが、それが本当に一般の人に理解してもらえるか試験的に試してみたかったのです」と当時の様子を振り返るサイモンさん。当時、まだインターネットも普及していなかったのですが、口コミで店の噂が広がり、海外からもお客様が訪れるようになりました。移転先であるロンドンのショーディッチ地区で、当時はそれほど人気の場所ではありませんでしたが、やがて近くにホテルなども建設され、賑わうようになりました。
「移転当初は逆に週末は誰もいなくて、失敗したかと思いました」とレイチェルさんは笑います。
バケツの横にセーターが。そんな店はどこにもなかった。


日本でも雑貨店は人気で、専門店も多く、最近ではセレクトショップなどのファッション関係の店でも雑貨をかなりのスペースで扱うようになりました。しかし「レイバー・アンド・ウエイト」はそれらの店とは明らかに違っていて、ロンドンでも珍しい店でした。
「私たちの店が出来るまでこうした店はありませんでした。たとえばバケツとセーターを一緒に並べていますが、それぞれが違った店で売られていたのです。それぞれの専門店に行けば同じものが買えたかもしれませんが、それを束ねたような店はありませんでした。服も雑貨も同じ目線で見る、そういう店はなかったのです」
サイモンさんはこの店のコンセプトを話します。考えてみれば英国は専門店が主流です。メンズショップでもステッキや傘だけを売る店、帽子だけを売る店、カシミアのセーターだけを売る店…。そういう店はたくさんありますが、専門的な商品を横に並べる、ましてや服と雑貨が同居する店はなかったのです。

サイモンさん、レイチェルさんに「レイバー・アンド・ウエイト」のアイコン的なアイテムをお聞きすると意外な商品を推薦してくれました。
「ロンドンでいちばん売れているのが、トイレ用のバケツとブラシです。こういった商品っていつも脇役です。しかも普通に買おうと思ってもプラスチックの簡便なものしかありません。実はバケツは花屋さんが使うスロバキア製のもので、それをドイツ製のブラシとセットして販売したのですが、すごく売れたんです。いままでにいちばん売れたものかもしれません」
セットを手にしながら話すレイチェルさん。意外なものですが、この店らしいベストセラー商品です。


英国では珍しい品揃えでオープンした「レイバー・アンド・ウエイト」ですが、この店の人気の秘密はそれだけではありません。ほかの店では並んでいないようなものが並んでいるのです。
「(多くの業者が足を運ぶ)展示会に行くことはまったくありません。旅行の際に街で見掛けたものを探したり、自分の家庭で両親たちが長く持っていたものを製造元までたどったり、知り合いがこんなものがあるよと紹介してくれたり、そういった商品が並んでいるのです。出来るだけとなりの店とは商品が重ならないようにね(笑)」
サイモンさんは品揃えのコンセプトと人気の秘密を話します。最初はブランドのロゴマークも全部外して販売していたと聞きます。
「ものありきで選んでもらいたい、ものだけで判断して欲しいと思っていましたので」とレイチェルさんが付け加えます。もちろん商品は世界中から集められます。日本の製品も並んでいます。東京の合羽橋などに2人が行くと、なかなか店から出てこないと店のスタッフが話します。
雑貨だけでなく、洋服も開店当初から扱っていました。雑貨と同じく普遍性のあるものだけを選んでいます。「何かユニフォーム的なもの、といってもいいかもしれないわ」とレイチェルさんがデザインの特徴を話します。その代表がエプロン。最初はスタッフ用にと考えましたが、顧客から欲しいと請われ、店頭に。今ではニュージーランドやカナダなど、世界中から注文が来るまでの人気商品に。ロンドンのカフェでもよく使われいるそうです。ロンドンに行かれる方はぜひともエプロンに注目してください。

「このティーポットは“ブラウンベティ”の愛称で知られる紅茶用のポットです。英国の家庭ならば必ずあるもの。紅茶は元来貴族たちが嗜むものでしたが、それを市民の飲み物にしたきっかけとなった製品です。高価なものではないのですが、英国でいまだにつくっていますよ」とレイチェルさん。
店頭にはこのティーポットに合わせてティーポットカバーまで並んでいますが、それも英国風です。なかには「レイバー・アンド・ウエイト」が別注したものまであります。


店の奥のガラスケースの上に飾られたのが、底の浅いバスケットです。日本製ともアメリカ製とも違う雰囲気が漂いますが、英国のサセックス州でつくられたもので、サセックス州ではどの家庭にもあるカゴだそうです。
「サセックス州は私が生まれた場所で、レイチェルがいま住んでいる場所です。ハンドメイドでつくられていて、カゴの裏側には製作した日付まで手書きで書かれています。英国では何十年と使い続けるもので、ガーデニングや果物入れなどに使われ、柳とチェスナットの木を使ってつくられています。いまでは偽物も出回っていますが、これは正真正銘の本物。こういった手づくりのブランドの製品を置きたいと思っています」サイモンさんは故郷を懐かしく思いながら話しますが、実際に使っていた経験があるから、ここまで解説できるのです。
ロングライフなもの中心に、いつでも同じものが買える店にしたい。

「レイバー・アンド・ウエイト」に並ぶ商品の特徴は、ほとんどがロングライフであることです。品揃えもオープン当初からそれほど変わっていません。
「自分たちはずっと売ることを使命にしています。だから基本的に品揃えは変わってはいませんし、新商品がいつもある必要もないのです。もしファッション業界のようにやっていたら、この店は続かなかったかもしれない。2、3年前に買った商品がまた欲しくなったら訪れる、そんな店になりたいんです。商品そのものもロングライフ。そう簡単に壊れたりしないものばかり。長い付き合いをものともして欲しいと思っています。商品だって使っていくうちにお気に入りの雰囲気が漂うでしょう。そういうパーソナルな商品を集めたいんです」とサイモンさんが話します。さらに「レイバー・アンド・ウエイト」の特徴はとても買いやすい価格のものが選ばれていることです。それはサイモンさん、レイチェルさんが実際に使われていたものや無名なブランドでも積極的に取り入れる姿勢もあるのでしょうが良質なものでも一部の人しか買えないものではなく、普段づかいできるものが選ばれています。
「ギャラリーのような店にはしたくないわ。敷居の高い店ではなく、気軽に入ってこられる店にしたいですから」とレイチェルさんの笑顔が素敵です。


「これも英国では長い歴史を持つものよ」と言ってレイチェルさんが薦めてくれたのが、編み込みが入った美しいブラケットです。
「昔ウェールズにはビクトリア朝時代から続く工場がたくさんありました。いまは古い織機を使ってやっているところはほとんどありません。これは20世紀初頭から続く場所で織られたタペストリーブランケットです。つくっているのは83歳のおじいさんなんですよ。1日に数枚しか編むことはできません」
そう話すサイモンさん。使い始めは硬いのですが、次第にソフトな風合いをもつようになるそうです。英国ではベッドスプレッドなどに使っているそうです。なかなか市場に出てきませんが、アンティークは高価で取引されていると聞きます。千駄ヶ谷の「レイバー・アンド・ウエイト」にはアンティークのブランケットもガラスケースに入って販売されています。店頭に並んでいる黒のブランケットは、ここだけの別注品だそうです。


サイモンさんとレイチェルさんによれば英国では男性はなかなか買い物をしないそうですが、「レイバー・アンド・ウエイト」に限っては男性の顧客がとても多いそうです。
「基本はユニセックスなものを置いていますが、機能性を追求していくとどうしても男性的なデザインのものが多くなってしまうんです。雑貨を中心にすると女性っぽいものが多くなりますが、我々は男性もターゲットです。ここは男性も楽しんでくれる店。繰り返し来てくれて嬉しいですよ、本当に」
レイチェルさんは話しますが、英国では顧客の幅も広く、レジに並ぶ年配の女性と若い男性が同じ商品を持っている場合も多いと聞きます。



「ぜひこれも推薦させてください」といってサイモンさんが指差したのが、コットンのハンカチです。5年以上もかかってファクトリーを探しあてたそうです。ポルカドットのハンカチは「レイバー・アンド・ウエイト」のオリジナルです。
「英国では欠かせない身だしなみとしてハンカチを持つのです。ジェントマルマンの証みたいなものでしょう。1900年代はこれで商品をラッピングしてくれました」とサイモンさん。
昔、サヴィルロウの仕立屋の紳士から、英国紳士は2枚のハンカチを持たねばならないという話を聞いたことがあります。1枚は胸に指す。2枚目はダブルカフスの袖口に隠して、女性がベンチに座るときに即座に差し出すのだそうです。サイモンさんもこのハンカチは「ポルカドットのハンカチは、胸に刺したり、首に巻いたり、欠かせないものです」と話します。サイモンさんもカジュアルな格好をしていても心は英国紳士です。
商品は同じでも、ディスプレイが変われば発見がある。

顧客がこの店にたびたび訪れる秘密のひとつにディスプレイがあります。同じコンセプトでロングセラーの商品を並べる「レイバー・アンド・ウエイト」ではよくディスプレイや売り場の配置を変えます。
「変わらない商品をずっと置き続けるということは、逆に飽きられる可能性もあるわけです。だからいかに飽きられないようにするかも重要です。ディスプレイや配置を変えることでいままでとは違った見え方がする。自分自身もいままでとは違った発見ができるものです。だからディスプレイ替えは日々の重要な業務なんですよ(笑)」
レイチェルさんが千駄ヶ谷のディスプレイにも目を配りながら話します。日本でもそうですが、ロンドンではヴィンテージの商品も並べられ、それが入ることで店の雰囲気を盛り立ててくれているそうです。

レジカウンターの横に置かれたガラスケースに、文房具などが並べられています。シンプルなデザインで、ペンやツール的なものが並べられています。
「ガラスケースに入れただけで、何か違って見えるでしょう。ロンドンではテーブルくらいの大きさのガラスケースに商品を入れているんです」とレイチェルさんは話します。天井の梁にはサイモンさんが「ブラシミュージアム」と呼ぶ、ヴィンテージのブラシ類が飾られています。
「ブラシはあらゆる用途に合わせていろいろなデザイン、違いがあります。それらを集めていると新しい発見があって、その一部をロンドンから持ってきたんです。これらはデザインをしようと思ってつくられたわけではありません。実行するために必要とされたデザイン。そういったところも美しいと思って」
嬉しそうにディスプレイを解説するサイモンさん。実際に商品でも、ブラシがとても多く扱われています。


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