「アンダーカバー」の25周年展覧会で、日本デザインの実験精神を知る。

  • 編集・写真・文:高橋一史
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初台・東京オペラシティ内で開催されている「ラビリンス・オブ・アンダーカバー(LABYRINTH OF UNDERCOVER)“25 year retrospective”」で、既成概念の破壊の場に立ち会おう。

細部まで同一モチーフで揃えた、2000-01年秋冬「MELTING POT」。

美術館で開催されるファッションブランドの展覧会を訪れるのはどのような人たちでしょうか。
ファッションのつくり手? そのブランドのファン? または関係者?「アンダーカバー」の25年間を振り返る「ラビリンス・オブ・アンダーカバー(LABYRINTH OF UNDERCOVER)“25 year retrospective”」は、デザイン全般やアートを通して身の回りの世界を見つめ直すことが好きな人にも足を運んでいただきたい展覧会です。

アンダーカバーを設立したデザイナー高橋盾(Jun Takahashi)さんは、東京を拠点にしつつ国際舞台のパリでコレクション発表を続けてきました。彼自身による展覧会の序文にある「自分の核になる要素はすべて歪んでいます」との言葉は、異質なモノを追求してきた自身のスタイルを言い表しています。
その概念は新たなファッションの芽吹きとなり、直接的にも間接的にも、多くの人びとの服装と感性に影響を与えてきました。80年代のデザイナーズブランドブームを経て、いまに続く東京発信のストリートスタイルの時代を迎える90年代への移行期に産声を上げたアンダーカバー。モード、ストリート、ロック音楽が渾然一体となった稀有なブランドのクリエイションを見ていきましょう。

オーセンティックな服を打ち壊す力。

歴代のインビテーションやDM(ダイレクトメール)などをコラージュしたスペース。

本展覧会の構成は大まかに3つに分けられます。デビューから現在までのレディスコレクションのアーカイブ展示、ショーの映像上映、高橋盾さんのデザイン画や仕事部屋の展示です。中心となるのはアーカイブであり、彼が「混沌とした脳内の細胞を、不安定なバランスで具現化」「光と影、美しいものの裏にある醜さ、混沌と調和といえばいいのでしょうか。それらの相反する要素を融合することで僕のクリエイションは成り立っています」(展覧会序文より)と言葉で表現する創造を、時系列で眺められます。

ショーデビューとなった1994-95年秋冬(無題)。日常着の服の形や着丈を変革。

1回目のショー発表を行った1994-95年秋冬では、2015年現在のストリートスタイルに通じる日常的なアイテムが展開されています。MA-1の着丈はボレロのように短く、スタジアムジャンパーも同様にショート丈。どれも極端にコンパクトで袖も短く、当時主流だったゆったりとしたアウターとは一線を画しています。現代の目で見ると前衛とは感じられないかもしれませんが、20年以上も前のデザインです。高橋盾という反逆的なデザイナーの発想が時代に先駆けていたこと、彼のデザインを目撃して影響された人たちがのちに送り出していったアイテムが広く一般化したことがうかがい知れるでしょう。

ベーシックなワードローブを極端に下に伸ばした、2004年春夏「LANGUID」。

2004年春夏コレクションは、アイコニックなアイテムのユーモラスな着崩し実験。見慣れた世界(服装)が歪められ、新たな美が生み出されています。「NEW YORK CITY」Tシャツがロゴマークまでも下に垂れ下がり、グレンチェックのパンツの柄も重力に従うように間延びしています。完成した服の状態を入念に計算して生地を織り、きっちりと正確に裁断し縫製された服。見る人の心に響く前衛の裏では、こうした高度な技術への挑戦が毎シーズン繰り返されているのです。

ジュエリーで軍服を飾って反戦を表明した、2001-02年秋冬「DECORATED ARMED VOLUNTARY FORCES」。
会場内の右は、2008年春夏「SUMMER MADNESS」、
左は11年春夏のオリジナルのアンチヒーローストーリー「UNDERMAN (アンダーマン)」に登場するキャラクター「ピラノイド」。

ファッション界へのインフルエンサーとして。

1999年春夏「RELIEF」。
「レリーフ」の名の通り、パッカリング(アタリ)と呼ばれるパーツの浮き上がりを表現。

「レリーフ」と名付けられた1999年春夏コレクションは、展覧会を訪れた若手注目株のブランド「アンリアレイジ」のデザイナー森永邦彦さんも、「強く影響を受けた」と語っていた印象的なデザインです。デニムやカーゴパンツなどを穿き込んで洗っていくうち、サイドやポケットのエッジがこすれて白っぽくなっていきますが、この現象を専門用語でパッカリング(アタリ)と呼びます。生地が何枚も重なる服の構造に基づき、だまし絵のごとくフェイクでパッカリングを表面に浮き上がらせたのがこのシーズンです。取り付けられていないベルトや裏地、ポケットが、あたかもそこにあるかのごとく存在感を放ちます。服のディテールや着古した味わいに関心が薄い人は面白みを感じにくいデザインかもしれませんが、発表当時に多くのファッション関係者を唸らせたことでしょう。これはあたかも、「あり得ない古着」なのです。

今年の2015-16年秋冬「HURT」。“傷” が示す突き刺さったガラス破片の表現や、スリット、ダーツを多用。
会場中ほどにあるツリー。照明器具を埋め込んだアップルは、アンダーカバーのアイコニックなモチーフ。

パンク音楽に夢中な文化服装学院の学生だった頃に、Tシャツづくりからデザイン活動をスタートした高橋盾さん。展覧会のタイトルにもなっている「ラビリンス(迷宮)」のごとく揺れ動きながら年2回のコレクション発表を続けています。ファッションの世界において重要な発表の形式は、1994-95年秋冬東京コレクションでのショーを皮切りに、2003年春夏にはパリコレクションに舞台を移行。ときにはショー形式を取りやめ、架空のストーリーを思い描いてそれに基づく写真撮影を行い新作を発表したり、手仕事で一点もののドレスを披露したこともあります。

展覧会では、メンズコレクション、「ナイキ」との協業ブランド「GYAKUSOU」、「ユニクロ」とのコラボレーション「UU」らの彼の仕事はフィーチャーされていません。ですが、リアルとファンタジー、エレガンスとアンチエレガンスを行き来する25年間、および日本発信のファッションデザインの価値を再確認するにはまたとないチャンスです。服を着るのではなく見る、そのような体験をどうぞお愉しみください。(高橋一史)

高橋盾さんの仕事場を再現した部屋。
会場を横切る通路一面の両側に貼られたデザイン画やアイデアスケッチ。

LABYRINTH OF UNDERCOVER “25 year retrospective”

開催期間:2015年10月10日(土)~12月23日(水・祝)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(3Fギャラリー1, 2)
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2
開催時間:11時~19時(金・土は20時まで)※最終入場は閉館30分前まで
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
入場料:一般¥1,200、大学・高校生¥800、中学生以下無料
問い合わせ先:03-5777-8600(ハローダイヤル)