「ミッション[宇宙×芸術]-コスモロジーを超えて」展で、百花繚乱の理系アートに浸る。

  • 写真:江森康之
  • 文:青野尚子

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週末の展覧会ノート 05:チームラボや名和晃平ら気鋭のアーティストの宇宙を題材にした作品から、本物の人工衛星まで。「ミッション[宇宙×芸術]-コスモロジーを超えて」展が東京都現代美術館で開催中です。

宇宙の法則に則った、圧巻のインスタレーション

チームラボ『憑依する滝、人工衛星の重力』
この写真は、これまで東京都現代美術館で展示された作品の中でも最大と思われるもの。チームラボの『憑依する滝、人工衛星の重力』です。後ろにあるのは人工衛星陸域観測技術衛星「だいち2号(ALOS-2)」の模型。そこに、高さ20メートルの画面がプロジェクションマッピングされて、滝が降り注ぐ様子が表現されます。粒子の動きや重力を設定し、何台も並べたコンピュータで計算させ、床には光を反射する材料を張っています。だいち2号も見ている人も、滝に打たれているような気分になります。
チームラボ『冷たい生命』
木本圭子『柔らかい秩序』
上の写真はチームラボの『冷たい生命』。書家、紫舟さんが書いた「生」という字をもとに生命が生まれ、成長していく様子をCGで表しています。その下は木本圭子の『イマジナリー・ナンバース』と新作の『柔らかい秩序』。こちらは純粋に、粒子の動きに数式を適用し、その軌跡を描いたもの。数学の教科書に出てきた関数のグラフのようなものが表れたかと思うと、粘菌が増殖しているような形になったり、短い時間にくるくるとイメージが変化していきます。
「チームラボと木本さんはともに宇宙の生成などへの興味からスタートしているのですが、できあがったものの様相は違います。特に木本さんの作品は、身体の中といったインナーコスモスと宇宙などのアウターコスモスとが重なりあう感じが面白い。ダークマターやダークエネルギーといった見えないもので充満している宇宙の姿が感じられます」と森山さん。物理や数学に潜む美を堪能できます。
ともに名和晃平『Ether』シリーズ
上の写真で壁にかかった名和晃平の新作「Moment」は、床にキャンバスを置いて上から絵の具を垂らしたもの。絵の具はポロックのように人力で筆を振り回したものではなく、回転する振り子の先につけた容器から少しずつしたたり落ちるようになっていて、フーコーの振り子の原理で地球の自転を反映した軌跡を描きます。台座に置かれた黒い塔は無重力空間に人間が住むための建築のプロトタイプ。
「宇宙ホテルや宇宙エレベーターのヒントになるかもしれません」と森山さん。
下の写真、黒と白のストライプが斜めに走る「Direction」は、キャンバスを45度に傾けて絵の具を垂らすことで作られたもの。地球の重力を可視化します。

“宇宙に芸術があるとすれば、それは光”。

鈴木康広『りんごの天体観測』
その仕組みを描いたラフスケッチ
天井に映ったものの下にもうひとつ、同じ画像がほんやりと映っているのは鈴木康広の作品。天井に大きな傘の骨のようなものが吊るされて高速回転していて、投影された画像が回転する“傘の骨”と天井とに二重に映し出されるのです。
「鈴木さんの頭の中で、作品のアイデアが浮かんでは消えるところを表しているのだそうです」
画像は鈴木さんのアイデアスケッチ。私たちも寝そべって天井を見上げながら考え事をしていると、こんなふうにいろんな妄想が浮かんでは消えていきます。雲がいろんな形に見えることがあるのにもちょっと似ています。鈴木さんはほかに、りんごをプラネタリウムに見立てた作品も出品していますが、このアイデアもこんなふうにして浮かんできたのかもしれません。
逢坂卓郎『Fullness of Emptiness Integral』
逢坂卓郎さんは2000年ごろから、宇宙線に反応するアートを作っています。これは床の青色LEDが宇宙線をキャッチすると光が消えるもの。
「宇宙飛行士の野口聡一さんは『宇宙に芸術があるとすれば、それは光です』と逢坂さんに話されたことがあるそうです。この作品は地球外から降り注ぎ、今も私たちの体を貫いている宇宙線を感知すると光が消えていきます。宇宙は満たされるばかりではなく、空虚になっていくこともある。そんな宇宙における秩序を思い起こさせます」
測地実験衛星「あじさい」
右側の巨大なミラーボールのようなものは測地実験衛星「あじさい」の実物大模型。人工衛星を打ち上げるときは同じものをもう一つつくって地上でいろいろな実験をするので、打ち上げた後も双子の兄弟のように同じものが地上に残ります。これは地上からレーザー光線をあてて“ミラーボール”の表面に反射させ、その角度やかかる時間から距離を測るための衛星です。
左側の写真は町工場でつくった部品を組み立てた「イプシロン・ザ・ロケット」の製造から打ち上げまでのドキュメンタリー。その隣では、種子島でのロケット打ち上げ時のドキュメンタリー映像が流れています。森山さんは実際のロケット打ち上げを見に行ったこともあるそう。
「間近で打ち上げを見るのは、テレビや映像とはまったく違う体験です。雷鳴のような巨大な音がして空気も地面もびりびりと震える。明るさも雷が落ちたときのよう。他ではまず経験することのない、ものすごい迫力です。確実に人生観が変わりますよ」
宇宙空間で撮影したコマーシャル『SPACE FILMS』
こちらに展示されているのは、史上初の宇宙空間で制作したテレビコマーシャル。2001年に放映されたカップヌードルやポカリスエット、オリンパスのコマーシャルフィルムです。無重力空間なのでカップヌードルはカップではなく、封筒のような袋に入っていて、小さな固まりになった麺を口に放り込んでいます。会場には無重力空間を飛んでくるフォークを宇宙飛行士がキャッチし損ねた「NG集」も。おなじみのカップヌードルやポカリスエットが宇宙空間ではどんな味になったのか、気になるところです。

アート作品で、無重力を体験!?

なつのロケット団
ロケットに搭載し、丸焦げになった機材。
「風の谷のナウシカ」に出てくる一人乗りの飛行具を制作し、実際に空を飛んだアーティストの八谷和彦。彼は漫画家のあさりよしとお氏らと一緒に「なつのロケット団」を結成、宇宙空間に行くべく実験を繰り返しています。ここで展示されているのは彼らが開発した超小型ロケット。「なつまつり」「はるいちばん」などのロケットの名前も素敵です。燃えてしまって黒焦げになった部品やカメラが実験の過酷さを物語ります。
それぞれのロケットには萌えキャラっぽい、かわいいイラストもついています。「なつのロケット団」に限らず、人工衛星やロケット、さらには車や工作機械などが擬人化されることがよくあります。2010年に小惑星探査機「はやぶさ」がさまざまなトラブルの末に地球に帰還したときも「よく帰ってきてくれた」という言い方がされました。こういった擬人化は外国ではあまりされないようで、日本人の心性のあり方を考える上で面白い現象です。
逢坂卓郎『Spiral TopⅡ, 2011年国際宇宙ステーション』展示風景©逢坂卓郎/JAXA
この展覧会では「宇宙でアートを作る」という試みも紹介されています。上の写真は、宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士に、アーティストが考えたアートを実践してもらうというもの。逢坂卓郎は光ファイバーでいろいろな色に光る独楽を無重力空間で回してもらい、その光の軌跡を作品にしました。宇宙ステーションの中に小さなオーロラのようなものが浮いているように見えるアートです。でも何のためにこんなことを?
「人間にとってアートは欠かせないもの。将来、人類が地球外で生活するようになったとき、どんなアートが可能なのかを調べているのです」
福原哲郎&東京スペースダンス『スペースダンス・イン・ザ・チューブ』とその内部
本物の無重力空間とはいきませんが、無重力を疑似体験できる作品がこちら。福原哲郎&東京スペースダンスの「スペースダンス・イン・ザ・チューブ」です。伸縮性のある白い膜のチューブの中をかきわけていくと、子どもや体重の軽い人は空中に浮いて、無重力感覚を味わえる仕組み。実際に入ってみると、粘り気のある液体の中を泳いでいるような気分です。地面に足がつかないので、前に進むのにけっこう体力を使います。
この"無重力疑似体験"で宇宙に行く自信がついたら、美術館の一階にある宇宙旅行説明ブースへどうぞ。お値段はそれなりにしますが、いろんなコースが揃っています。宇宙にアートを見に行ったり、宇宙でアートをつくったりと夢が広がります。

「ミッション[宇宙×芸術]-コスモロジーを超えて」展で、百花繚乱の理系アートに浸る。

  • 写真:江森康之
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