現代デザインの精鋭たち File.01:歴史のレファレンスから現代性を創造する「フォルマファンタズマ」
フォルマファンタズマのデザインで、歴史的な物事のリサーチとともに大きな特徴といえるのは、クラフトのクオリティを重視する点です。フェンディとの共同作業から生まれた「Craftica」(上写真)は、このブランドのハイレベルな手仕事をフォルマファンタズマが独自に解釈することにより、家具や日用品の斬新な形態を提示しました。素材として使われたのは、通常は廃棄物となる魚の皮、貝殻、骨、そしてフェンディ製品の製造工程で出るレザーなど。素材本来のプリミティブなテクスチャーを残しつつ、上質な職人技で仕上げられた一連のアイテムには、工芸品というよりも宝飾品のような趣が備わっています。こうしたコントラストから生まれるものの魅力は、プロダクトから住空間へと広がりうる価値観の革新を予感させます。
「Migration」(上写真)はNodusというイタリアのラグ・メーカーのためにデザインされたもので、ポルトガルの職人が約1カ月かけて鳥の柄を刺繍しています。こうした高級なカーペットは、バラなどの装飾的な柄をジオメトリックに配置するのが通例です。フォルマファンタズマは、その昔ながらの技術を活かし、19世紀にある鳥類学者が描いた精密な鳥の姿を刺繍で施すことにしました。カーペットの形も丸くして、四角いものというカーペットの常識を否定するとともに、鳥を捕まえたかのような動きのある構図を生み出しています。デザインの仕上げには木のパーツを取り入れました。
2012年、ドイツのヴィトラデザインミュージアムでリートフェルト展が開催された際には、オランダに拠点を置く新世代のデザイナーが参加したグループ展が同時開催されました。ここでフォルマファンタズマが展示したのは、木炭を使った作品群(上写真)でした。木炭はヨーロッパではすでに過去の燃料であり、製法も環境負荷が大きいとされていますが、一方で古代エジプトにさかのぼる長い歴史をもち、現在も日本のように広く使われている地域もあります。フォルマファンタズマは木炭の専門家とコラボレーションして、実際にスイスのチューリヒ郊外でオリジナルの木炭をつくり、作品を制作しました。メインになったのは、吸着効果の高い木炭をフィルターとして使う手吹きガラスの容器です。
デザインの絶対的な価値。
2013年4月のミラノ・サローネ会期中には、トリエンナーレという施設内のデザインミュージアムで、フォルマファンタズマのインスタレーション『Cucina Sambonet』(上写真)を観ることができました。これは、すでに亡くなったイタリア人デザイナーの功績に対して、現役のイタリア出身のデザイナーがオマージュを捧げる企画の一環で、フォルマファンタズマの題材はテーブルウェアのデザインで知られるロベルト・サンボネ。まるでサンボネ本人が登場して自らのフィロソフィを語るかのような架空の映像を制作し、周囲に彼のデザインや遺品をレイアウトしました。この多層的な構成によって、サンボネという過去の存在が、奇妙な現実感と現代性を伴った存在として立ち現れてきます。
最近、ウィーンの美術館MAKでは、彼らの展覧会が始まりました。ここでは、歴史ある展示空間から大いにインスピレーションを得て、グローバリゼーションの時代に失われつつあるエキゾチシズムをモチーフにした新作が披露されています。また過去の代表作も、さまざまな調度品と並列して展示。フォルマファンタズマの作品は、歴史的なオブジェとは異なる文脈から生まれながらも、ある種の共通性を備えているように見えます。この世代のデザイナーの個展が美術館で行われるのは異例のことです。フォルマファンタズマのアプローチが、現代デザインのシーンでいかに大きな評価と期待を集めているかがわかります。
現在において、デザインの価値はますます相対的になっています。新しい発想や手法は、より新しい発想や手法が現れると価値を失っていくからです。一方、フォルマファンタズマがデザインのモチーフとする歴史的要素や高度なクラフトは、絶対的な価値を秘めています。彼らはその価値を、現代のものとしてきわめて鮮やかに形にしていく。作品のほとんどは量産されず、リミテッドエディションとしてギャラリーから販売されたり、ミュージアムなどの展示のために制作したものですが、メディアやエキシビションを通して伝播する力をもっています。彼らのデザインは、使ったり所有したりすることよりも、メッセージとして広まっていくことに意義があるのです。