才気あふれる監督のデビュー作にして遺作、『象は静かに座っている』の“静かな凄み”に引き込まれる。

文:細谷美香

上映時間3時間54分。思わず尻込みしてしまう長さですが、ラストシーンを見届ける頃には、監督にとってこの尺がどうしても必要だったのだと納得させられる作品『象は静かに座っている』。この中国映画を撮ったのは、作家としての顔も持っていたフー・ボー。“持っていた”と過去形なのは、彼がこの映画を撮ったあと、29歳という若さで自死の道を選んだからです。 本作は、寂れた中国の田舎町を舞台に、年齢も境遇の異なる4人の登場人物が交錯する一日の物語です。いじめられている友達をかばうために不良少年を階段から突き落とした、主人公のブー。親友の妻を寝取って親友を自死に追い込んでしまった、不良少年の兄・チェン。母...

続きを読む