写真家・上田義彦が初監督作の映画『椿の庭』で描くのは、家に宿る人の記憶。

文:山田泰巨

写真家、上田義彦が初めて手がけた映画監督作品『椿の庭』が公開される。その物語は上田の住まいと深いつながりをもって生まれたものだ。まずそもそものきっかけは、かつて上田が暮らした古い和洋折衷の住まいに植えられていた乙女椿にあるという。 「けっして広い住まいではありませんでしたが、4月になると庭の椿が見事な花をつけました。ただ借家でしたし、いつかこの花を見ることができなくなる日が訪れる……そんな喪失感に襲われたのです。そんなある日、近所にあった大きな庭木のある家が解体されていました。そこで自宅に戻り、目的をもたずに書き進めた物語が『椿の庭』の原型となったのです」 椿が咲く高台の家に暮らす...

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