パトリス・ルコント最新作「暮れ逢い」をクリシェというならば、本当の官能を知らない証拠。

恋に堕ちたのは、人妻でした。自分を目にかけてくれる実業家の奥様で、年老いた社長とは歳の離れた若くて美しい女でした。 美しいドレスに身を包み、良き母、良き妻として振る舞う彼女。はじめは憧れの気持ち、ただそれだけでした。そんな彼女の住まう家に、住み込みで働くようになり、そのうなじが、その後れ毛が、手を伸ばせば届く距離になり、彼女のほのかな匂いが全身を震えさせるほどに薫ると、憧れという気持ちは、欲しい、占領したいという気持ちに変わっていきました……。 時代は第1次世界大戦前のドイツ。フランスの名作家シュテファン・ツヴァイクの原作『Journey into the Past』を映画化...

続きを読む