気鋭の映画監督、今泉力哉が下北沢を舞台に古着屋で働く主人公の日常をユーモラスに描く。

文:燃え殻(作家/エッセイスト)

【Penが選んだ、今月の観るべき1本】 僕は下北沢の街に思い出がある人間ではない。それが僕のコンプレックスのひとつだ。学生時代はずっと横浜あたりで遊んでいた。社会人になってから、時々下北沢に行くと、経験したはずのない、あの頃を感じることがある。体験したこともないはずの懐かしい思い出を、あったような気にさせてくれる街だと、下北沢のことを勝手に思っている。先日、数年ぶりに、下北沢に行く機会があった。その時、帰りしな古着屋に一軒寄ってみた。店員は、やる気があるんだかないんだか。風体は、今泉力哉監督『街の上で』の荒川青まんまだった。店には何人かのお客さんが古着を物色している最中の様子。どの客...

続きを読む