「RED U-35」(以下RED)をご存じだろうか。次代の才能を発掘する35歳以下を対象とした料理人のコンペティションで、若手料理人の登竜門といわれている。2023年、29歳でその頂点に輝いた山本結以。初挑戦での栄光に加え、女性初の最高賞受賞の快挙は、大きな話題を集めた。
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“料理界の東大”と評される「辻調理師専門学校」を首席で卒業。フランスでもブルゴーニュの3つ星店で働くなど、輝かしい道をひた走ってきた彼女にとって“女性”を取りざたされるのは本意ではなかった。同じ仕事をしていても、どこか女性として区別されることに違和感を覚えていたからだ。
「REDの開始から10年、女性の優勝者は出ていなかった。『勝てないのは女性だから?』と悶々と過ごすうちに、自分がやらなくてはと思うようになりました」
山本は、調理師学校時代の成績や、勤務先での昇格を一度も素直に喜べたことがなかったという。“エリートコンプレックス”。自らそう言葉にし、振り返った。
「己の小ささや足りないところを誰よりも知っていたので。『なぜ私が選ばれたのか』という気持ちをはねのけて実力を示したかったんです、自分自身に」
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登山をともにすることで、唯一無二のグルーヴへと成長

はためには順風満帆でも、内面は常に葛藤だらけ。そんな彼女に変化をもたらしたのが、「エスキス」のエグゼクティブシェフ、リオネル・ベカとの出会いだった。
「組織のあり方、シェフの考え方がそれまでの職場と180度違っていて本当に衝撃でした。シェフが求めていることを、より速く正確にやる。その働き方がすっかり身体に染み付いていたので」
一流レストランの厨房は、軍隊にたとえられるほど厳しい。シェフを頂点とした司令系統は絶対だ。が、そんなある日、リオネルシェフが次の作業にかかろうというタイミングで鍋を差し出すと「結以の仕事じゃない。自分でできるからやらなくていい」と言われ、戸惑ったと当時を振り返る。
「いまでもリオネルシェフになにか尋ねると、必ず『結以はどう思うの?』と言われるんです」
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それまでの厨房での仕事を“直線的”とするなら、リオネルシェフのやり方は、“くねくね、いばらの道”。初めは苦しんだが、一点から少しずつ可動域を広げていくような日々に学びは多かったという。「気を利かせること」が求められないことも、新鮮だった。同時に、仕事を円滑に進めるために気を回していたことが、結果として「女性だから」という文脈に絡め取られていたことに気づいた。
「異なる環境で自分を鍛えられたことは、私の財産。いいとこ取りで、自分のやり方を築きたい」
「RED」翌年の24年、山本は「エスキス」のシェフ・ド・キュイジーヌ(料理長)に就任。現在もリオネルシェフに学びながら、厨房スタッフを率いている。
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「料理人は旬を扱う仕事なので、季節の移ろいに敏感でありたい」と話し、2年前から華道を習い始めた。休日を利用し、美術館や写真家、陶芸家の個展にも頻繁に足を運んでいる。
「これもリオネルシェフの影響です。初めは芸術についてよくわからず、尊敬する人がどんなものを見ているのか知りたいという一心でしたが、通い続けるうちに心震える感覚が芽生えてきました」
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「RED」の勝利を自分ひとりの満足で終わらせることのないよう、新しい活動も始めている。
「女性料理人のために、なにかしたいとずっと考えていて。協会の設立などいろんな方法があるけれど、等身大のいまの自分について考えた時、さまざまな職業の方々と対話をするウェブサイト『灯』を立ち上げました」
今年3月、レストランガイド『ゴ・エ・ミヨ』のアワードで「期待の若手シェフ賞」を受賞。
「オーナーシェフとして奮闘する同世代もいる中、私でいいのか」
と辞退を考えていることをリオネルシェフに話すと「自分の仕事の大切さを理解していない」と諭されたという。女性が勝利できることを示したのと同様に、〝オーナーシェフこそが頂点〟という自身も縛られていた通念に一石を投じた山本の更なる進化をこれからも追い続けていきたい。
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RED U-35 2023
「2023 RED EGG」

2013年に創設された若手料理人のためのコンペティション(25年度を最後に現在休止中)。三重県の伊勢エビを使った料理で335名の中から頂点に輝き、女性最上位に贈られる「岸朝子賞」も同時受賞した。
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ゴ・エ・ミヨジャパン2026「期待の若手シェフ賞」

フランス発のレストランガイドで日本版は2017年より刊行。発刊に合わせた授賞式は飲食業界最注目のイベントのひとつだ。山本は「才能と情熱、技術が今後の活躍を大いに期待させる新進気鋭の料理人」として受賞。
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WEBメディア『灯』

「エスキス」のソムリエ・石河絵里とともに立ち上げたウェブサイト。自身の料理を極めることと同時に、男女の別なく料理を続けられる構造を考える場として、料理界の先達、識者との対話を記録している。









