平安時代末期に始まって以来、1000年近い歴史を有する常滑焼。伊勢湾の海路を利用した良好な流通のおかげで全国各地にその名を広め、日本六古窯の中でも最大規模のやきもの産地として繁栄してきた。
発展の土台となったのは、壺や甕に始まり、土管や煉瓦タイル、衛生陶器など大型のやきものの生産だ。今回は、LIXILが運営する常滑市の文化施設「INAXライブミュージアム」を中心に、常滑のやきものにまつわるスポットを巡った。今年でグランドオープンから20周年を迎えたミュージアムの各施設を巡り、やきものの街・常滑の魅力とその歴史をレポートする。
燃えさかる炎と職人の想いから、土管づくりを学ぶ
「INAXライブミュージアム」は1986年に設立された「窯のある広場・資料館」を起点に、2006年にグランドオープン。土とやきものの魅力に触れる体験・体感型のミュージアムだ。敷地内には7つの施設があり、それぞれのテーマについて紹介している。
まずは「窯のある広場・資料館」へ。明治以降、常滑では国のインフラ整備や外国人居留地からの大量受注を背景に土管づくりが盛んになったが、ここでは常滑でも最大級の土管を製造していたといわれるやきもの工場を保存・公開している。建物内には両面焚倒焔式角窯があり、プロジェクションマッピングで土管の焼成の様子を表現。「1050℃以上で3日間かけて焼き、10〜14日かけて乾燥させる」という説明を聞きながら赤々と燃えさかる炎を見ていると、土管づくりにかける当時の職人たちの情熱がひしひしと伝わってくる。
「おもてなし精神」が息づく、トイレの歴史
次に訪れたのは、2025年に創設された「トイレの文化館」だ。日本のトイレは「清潔で高性能」と世界中から評価されているが、その根本にあるのは日本特有の「おもてなしの精神」。この施設を見学すると、あらためてその心意気や日本人の高い技術力を実感できる。
館内では時代ごとの便器を展示しながらトイレの歴史を紹介。鎌倉時代には糞尿が田畑の肥料として再利用されていたそうで、なんと500年以上も前からすでに循環型社会が始まっていたことがわかる。また、江戸城で使われていた木製便器には引き出しがあり、家来は殿様の糞尿を見て健康をチェックしていたという。これも現代の健康管理と同じで、日本人の思考や行動が昔から変わらず連綿と続いていることに感嘆する。
展示の中でも特に目を引くのは明治時代の便器だ。美しく染め付けが施され、空間自体もコーディネートされたトイレは、まさに職人のセンスが光る作品とも呼ぶべきもの。インテリアの潮流に合わせて、豊かな発想で開発されてきたトイレの数々。「利用者が気持ちよく使える空間にする」という日本人らしい細やかな心づかいを感じずにはいられない。
紀元前から近代まで、世界の装飾タイルがずらり
「世界のタイル博物館」もあり、紀元前から近代までの世界の装飾タイルを多数収蔵し、選りすぐりを展示している。
1階の見どころは、イスラムのモスクや宮殿を彷彿とさせるドーム型の天井だ。12種類の形と7色のモザイクタイルで再現された幾何学模様の緻密なタイルパターンは神秘的で、神々しい空間を飾るのにふさわしい。
2階では、“時空を超えるタイル”をテーマに、地域別にタイルの実物を紹介。独特の光沢を放ち、イスラムのラスター彩や、スペインのクエンカタイル、19世紀の大量生産技術により普及したイギリスのヴィクトリアンタイルなど、歴史を感じるタイルが並び、こちらも見ごたえがある。
100年余続く企業が誕生したきっかけを紐解く
「建築陶器のはじまり館」では日本を代表するテラコッタ建築とその歴史が紹介されている。展示室の中央にあるのは、20世紀の名建築家フランク・ロイド・ライトの代表作「帝国ホテル旧本館」の柱の一部だ。
1917年、常滑に「帝国ホテル煉瓦製作所」がつくられ、技術顧問を任された伊奈初之烝は試行錯誤を重ねて黄色いスダレ煉瓦や穴抜け煉瓦などを大量生産。その後、役割を終えた製作所の従業員と設備の一部が引き継がれ、伊奈製陶が設立された。細かい線が入り、まさにスダレを連想させる黄色い煉瓦。建築の巨匠を満足させたこの逸品が、一世紀以上続く会社の幕開けのきっかけとなったのだ。
巨匠のセンスがそこかしこに息づく「とこなめ陶の森」
常滑にはINAXライブミュージアム以外にも、やきものの歴史や文化に触れる場所が点在している。
市街地を見渡す小高い丘の上にある「とこなめ陶の森」は、常滑焼の生産用具約300点を公開。昔の壺や甕の展示も興味深いが、2代目伊奈長三郎の急須はぜひ見ておきたい作品。薄く繊細な急須に、お茶の一滴を楽しむ茶の湯の心が表現されている。
もうひとつ注目したいのは日本の近代建築を代表するひとり、堀口捨己が設計したこの建物だ。伊奈長三郎が常滑陶芸の発展を願い、常滑市に寄付した莫大な資金で建てられたもので、壁面を覆うカラコンモザイクタイルや、陰翳礼讃を意識した茶室などが設えられている。なるほど、全国から建築ファンが訪れるというのも納得だ。
ノスタルジックな散歩道で訪れたい、登窯と土管坂
ミュージアムや資料館を巡った後は、いよいよやきもの散歩道へ。
窯業が最も栄えた昭和初期頃の町並みが連なるエリアで、煙突や窯、工場などが点在し、往時の面影が残る。特に見ておきたいのは、明治時代に築かれた登窯だ。8つの焼成窯と高さが異なる10本の煙突があり、日本では最大級の窯といわれるもので、1974年まで実際に火鉢や急須を焼く共同窯として使われていたという。
また、道の両側を明治期の土管と昭和初期の焼酎瓶で埋め尽くした土管坂も、やきもの散歩道を代表する景観。焼成時に使われたものが坂道の滑り止めに利用されたというから、人々の生活にも密着していたことがよくわかる。
散歩道で出合える、寄るべきスポット
散歩道の途中には、常滑焼の陶房や作家作品を扱う店があちこちにある。常滑市のシンボル、「とこにゃん」のモニュメントを眺めつつ最後に訪れたのは、この地で100年続く「前川製陶所」だ。
初代から水瓶など生活に必要なやきものをつくる陶房で、3代目は大物ヨリコ造りと呼ばれる伝統的な工法で長年大鉢や壺などを製作。現在は4代目の前川淳蔵さんが引き継いでいる。腕の太さぐらいの土の紐をねじり、伸ばしながら一段ずつ輪積みする工法は大変な重労働だが「自分が生きている間は失いたくない、後世に残していきたい」と壺や甕をつくり続ける。前川さんは多彩な急須も手がける。特にエッジがきいた平型の急須は老若男女問わず人気だ。
今回の取材では、前川さんが手掛けた平型の急須で淹れたお茶を、特別に試飲させていただいた。なんでも平型の急須は茶葉が自然に広がりよりおいしくなるそうだ。緑茶に青みかんを入れた爽やかな一杯が体に染みる。「お茶の遊び方を伝えることで、もっと毎日が楽しくなれば」という言葉にうなずきながら、あらためて、人々の豊かな暮らしをつないできた常滑焼に思いを馳せる。
次の旅は「やきものが好き」という理由にプラスαで、常滑焼の歴史と文化を訪ねてみてはいかがだろう。きっとその奥深い魅力にはまるに違いない。
INAXライブミュージアム
https://livingculture.lixil.com/ilm
