反田 恭平(そりた・きょうへい)●1994年生まれ。2021年、第18回ショパン国際ピアノコンクールにて日本人では半世紀ぶり最高位となる第2位を受賞。2025年夏には、ザルツブルク音楽祭において音楽祭史上初となる弾き振りを披露し、出演を果たした。©Hiromichi Hoshiyaいま最も注目される音楽家のひとりである反田恭平が、2027年3月、名門ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団とともに全国9都市をめぐる「反田恭平&ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団 日本ツアー2027」に出演する。両者の出会いは2024年5月、ザルツブルクでのコンサート。その翌年にはザルツブルク音楽祭への出演も果たし、深まった関係が、満を持して日本のステージで花開く。
満場の拍手と、リハーサルで深まった信頼関係
2025年ザルツブルク音楽祭で指揮を振った。© SF_Marco Borrelli2025年ザルツブルク音楽祭で指揮者兼ピアニストとして初共演した反田は、満席の観客をスタンディングオベーションの渦に巻き込む幸先の良いスタートを切った。リハーサルの時からすでに、反田と楽員たちの間には強い信頼関係が芽生えており、そこから次々と共同プロジェクトが動き出していったという。
2027年3月のツアーについて反田はこう話す。
「このような規模のツアーは一朝一夕には決まらないので、少しずつ話が膨らんでいき、丸3年ほどかかりました。通常は常任の首席指揮者が招かれることが多いのですが、僕が指揮を振らせてもらえるのはとてもありがたく、身が引き締まる思いでいっぱいです」
ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団との出会いに遡ろう。初めての共演で弾いたのは、モーツァルトの「ピアノ協奏曲第20番」だ。
「まずは自己紹介代わりに、僕のピアノを聴いてもらうことが一番だと思ったので、このコンチェルトからやろうと思いました。自分のオーケストラでも演奏した曲で、本番を重ねて経験を積んでいたので、自信を持って臨めました」
関係が深まる中で印象的だった出来事として、団員の投票を振り返る。ヨーロッパではソリストや指揮者を選ぶ際、団員が投票を行うケースがある。どのソリストをもう一度呼びたいか団員が選ぶためだ。2024年の最初の公演、本番前のリハーサルを経た段階で多くの団員が反田に投票した。本番が終わると、楽屋前には20~30人が待っていて「また来て」とビール片手に乾杯してくれたのだという。
「言葉やジェスチャーは取り繕うことができたとしても、音楽は良くも悪くも本当の姿をさらけ出します。そのことを僕はポジティブに捉えていて、モーツァルトへの愛情も自分のパーソナリティも全部見せようと思って弾きました。その結果が今につながっているはず。もはやDNAレベルで相性が良いと言えます」
モーツァルトの故郷が育んだ、特別なオーケストラ
180年以上の歴史を誇るザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団©Nancy Horowitzザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団は1841年、モーツァルトの寡婦コンスタンツェの援助と彼の2人の息子による尽力のもと「ザルツブルク大聖堂 音楽協会及びモーツァルト音楽院(モーツァルテウム)」として創設された。以来、180年以上の歴史を持ち、オーストリアのトップオーケストラとして発展を重ねた。世界最大級の音楽祭であるザルツブルク音楽祭では毎年主軸を担っている。
反田は共演への期待を隠さない。
「他のオーケストラでも、モーツァルトのコンチェルトを弾くことはあります。でもモーツァルテウム管は、しっかりとした型ができているんです。フレーズの歌わせ方から、音の間の取り方まで、モーツァルトの様式がすでに出来上がっている。初日の顔合わせなのに、2日目のリハーサルくらいのレベルに。リハーサルの純度が非常に高く『ここからどのように詰めていこう』というところから始められるんです」

「ピアノ協奏曲第20番を演奏した際、団員に『これは何回弾いたのか』と聞いたんです。すると『466回』と即答されて。曲の番号がK.466で、そこまでのレベルで弾き込んでいるのだと驚きました。ザルツブルクにはウィーンのオーケストラとも違うこじんまりとした土地ならではの雰囲気があります。ウィーン・フィルは都会で格式も高いですが、モーツァルテウム管の彼らには、ザルツブルクならではの強いプライドがあるのです」
反田はそのプライドは悪い意味ではなく、非常に重要なインスピレーションをもたらすと話す。
「僕のアイデアに異なる意見をくれることもあります。それはもちろんウェルカムで、勉強になります。逆に僕から提案した内容をコンサートマスターから『そうしてみよう』と団員に伝えてくれるような柔軟さがあります。音楽は自由なのだということを、根本的に理解しているオーケストラだと思います」
静かな光を宿す「第27番」、仕掛けに満ちた「パリ」
「反田恭平&ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団 日本ツアー2027」のプログラムで注目される演目にモーツァルト最後のピアノ協奏曲である「ピアノ協奏曲第27番」がある。技巧を誇示するのではなく、シンプルな響きの奥に深さを湛えたこの曲は、モーツァルトという作曲家そのものの難しさを象徴している。
「『第27番』を選んだ理由は、僕たちの相性が最もよく伝わる曲だと思ったからです。モーツァルトは35歳で亡くなっており、この曲は最晩年の作品。僕はいま31歳で、本当はまだまだエネルギッシュな時期のはずだけれど彼はすでに死を見据えて書いている。優しさや静かな光のようなものが、このコンチェルトには落とし込まれています」
有名な楽曲だけでなく、歌劇『エジプトの王タモス』 の「4つの間奏曲」のほか、必ずしも演奏機会が多いとは言えない「ピアノと管弦楽のためのロンド」(K.382)などの作品も並び、意欲的なプログラムも目を引く日本ツアー。そして後半に置かれた「交響曲第31番 パリ」は、まったく異なる表情を見せる作品だ。
「『ロンド』はいつか弾いてみたいとずっと思っていました。ただなかなか弾くチャンスがなく、今回ようやく実現できました。そして『パリ』。モーツァルトが当時のパリで流行っている音楽を研究し、聴衆を驚かせようと作曲した音楽とされており、実際、初演では大成功を収めたそうです。この曲を最後にお客さんに聴いてもらい、足取り軽くコンサートホールを後にしてもらいたいですね」
Penクリエイター・アワードから4年、指揮者としての現在地
2025年ザルツブルク音楽祭の様子。モーツァルト・マチネシリーズ(2025年8月17、18日)にて、満員の聴衆を熱狂させた反田恭平とモーツァルテウム管弦楽団。音楽祭史上初となる弾き振りでの出演を果たした。© SF_Marco Borrelli反田は2022年、その多才な活動を評価され、Penクリエイター・アワードを受賞している。当時のインタビューでは「自分のオーケストラを指揮できるのは、自分にしかできない強み」と語っていた。あれから4年、指揮者としての自身にどんな変化があったのだろうか。
「去年のザルツブルク音楽祭では、大きな成長を感じました。どうしても僕はピアニストのイメージが強いので、『どこから指揮者って名乗ってよいのだろうか』という迷いがあったのです。『あの指揮者はピアノを弾いていればよかったのに…』などと言われるようにはなりたくない。小学生の頃から指揮者になりたいと思って生きてきました。ピアノは、そのために始めたようなもの。ショパンコンクールを受けたことも、ある種のけじめのようなもので、優勝したら心置きなく指揮の道に進めると思っていたくらいでした」
第18回ショパン国際ピアノ・コンクールでの2位入賞を機に、世界から一躍脚光を浴びた反田。コンクールが終わってから、さまざまな国で多くの人が彼のピアノの演奏を待っていてくれることを知り、「もっと頑張ろう」と思ったという。
「ピアノと指揮のどちらが楽しいかといえば、いまは指揮ですね。もちろんピアノも大切ですが、もともとみんなで何かをやりたいという気持ちが強く、一つのゴールに向かって進むことが好きなのだと思います。50人、80人が同じ方向を向いた瞬間に築かれる音楽ほど幸せなものはありません」
音楽祭、そして世界一のコンクールへの野望
現在は活動の拠点をウィーンへ移し、ヨーロッパ、カナダ、オーストラリア、アジアなど世界中で活躍する反田。2024年、米フォーブス誌の「Forbes 30 Under 30 Asia: Class of 2024」に選出された。ソロリサイタルツアーやJNOツアーでは各地でチケット完売が続き、高い人気を誇る。©Hiromichi Hoshiya反田は2021年に自身のオーケストラであるJapan National Orchestra(JNO)を株式会社化、ファンと音楽家を繋ぐ音楽サロンSolistiadeを立ち上げるなど、活動の幅をますます広げている。「アパレルや飲食、アプリの開発など、やりたいことだらけ」と笑いながら話す彼がこれから最もやりたいことはなんだろうか。
「現実的には音楽祭。そして、世界で最も賞金が多いコンクールを作りたいです。ショパン国際ピアノ・コンクールですら優勝しても、スタインウェイのピアノ1台買えないんですよ。ゴルフや野球など他のジャンルでは非常に高い金額が出ます。そういう部分は絶対に実現していきたいですね。本当は自分の時間に集中すればいいと思うけれど、日本の音楽界、子どもたちの未来のことを考えると、目を逸らせない。最近は、音楽家自身が発信できるメディアを持ち始めてもいる。そういう仲間がこれからもっと増えたらいいなと思っています」
ピアニストとして世界に名を刻み、いま指揮者としての新たな地平を歩み始めた反田恭平。また演奏活動にとどまらず、次々と新しい構想を語り、挑戦を続けるそのバイタリティは、これまでのクラシック音楽家像に収まらない。丸3年の歳月をかけて実現する今回のツアーは、その現在地と未来像を確かめる貴重な機会となりそうだ。
「反田恭平&ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団 日本ツアー2027」
出演:反田恭平(指揮/ピアノ)
ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団
<東京公演>
開催日時:2027年3月25日(木)19時 開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール
https://www.fujitv.co.jp/events/mozarteum-orchestra-salzburg/