床一面にべっとりと塗られたピーナツバター。その量は約390kg。サンドイッチをつくった場合、約1万5000個分にもなるという。そんな一風変わったインスタレーションが、オランダ・ロッテルダムのボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館(Museum Boijmans Van Beuningen)で公開されている。
これは6月10日に83歳で亡くなったオランダ人アーティスト、ウィム・T・シッパーズを追悼するため、代表作「Pindakaasvloer(ピーナツバター・フロア)」を再制作したものだ。
「床をピーナツバターで覆う」ことがアートになる
シッパーズは、既存の芸術の常識をユーモアとナンセンスで揺さぶったオランダのコンセプチュアル・アーティストである。テレビ番組制作者としても知られ、オランダ版『セサミストリート』ではアーニーやカーミットの声を担当した。
「ピーナツバター・フロア」は、シッパーズを代表するコンセプチュアル・アートのひとつ。床をピーナツバターで覆うという、単純ではあるものの奇想天外な発想の作品だ。そこには「これはアートなのか」「なぜ美術館でこれを見るのか」という問いが仕掛けられている。シリーズには、ピーナツバターのほか、ガラス片や塩を床に用いた作品もある。
40個の大容量パックを、2人で数日かけて塗り広げる
今回の展示では、オランダの食品ブランド「Calvé(カルヴェ)」のピーナツバターを使用した。25平方メートルの六角形のエリアに、約2cmの厚さでピーナツバターを塗っている。美術館職員2人が40個の大容量パックを使い、数日かけて大きなコテで少しずつ塗り広げた。
とは言え、単に大量のピーナツバターを床に塗っただけの作品ではない。シッパーズは生前、美術館と作品の再制作について話し合い、20項目からなる具体的な指示を残していた。ピーナツバターはなめらかなタイプを使い、表面はできるだけ均一かつ、退屈に仕上げること。そして、作品の上に立ったり、寝転んだりしてはいけないことなどが定められている。
展示室へは「香りをたどって」
この作品は、視覚だけでなく嗅覚も重要な要素となる。来場者には、チケットカウンター付近まで漂ってくるピーナツバターの香りを「たどって」、展示室へ向かうよう案内されている。作品があるのはチケットカウンターから3フロア下。目印は案内板だけではなく、館内に広がる濃厚な香りというわけだ。
シッパーズが亡くなった直後に再び姿を現した「ピーナツバター・フロア」。「食べ物が美術館の床に大量に広がる」という奇妙な光景は、それ自体が強烈なインパクトを持つ。今回の展示は、シッパーズが残したアートにまつわるユーモラスな問いを、体験しながら「考える」機会と言えるだろう。展示は9月6日まで行われる。
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