世界初、“人型ロボット”が生きたブタでの前臨床試験に成功。医療の未来が変わる

  • 文:宮田華子
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写真はイメージ(ShutterStock)

映画の世界で描かれてきた「人型ロボットによる手術」が、現実へと一歩近づいた。

米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UC San Diego)の研究チームは、外科医による人型ロボットの遠隔操作によって、生きたブタの腹腔鏡手術を成功させたと発表した。人型ロボットによる生体への手術を実証した前臨床試験としては世界初。この研究成果は2026年7月、科学誌『Nature』に掲載され、将来の外科医療のあり方を変える技術として注目を集めている。

生きたブタで世界初の前臨床試験

今回の研究は、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の工学系研究者と外科医が共同で進めたプロジェクトである。工学分野を率いたのは電気・コンピューター工学教授のマイケル・イップ、医療分野では外科医のシャンレイ・リウらが中心となった。

実験では、中国企業Unitree Roboticsが開発した汎用人型ロボット「Unitree G1」をベースに、一般的な腹腔鏡手術器具を扱えるよう研究チームが改良した「Surgie」を使用した。外科医は離れた操作席から立体映像を見ながらロボットを操り、その動きがリアルタイムでロボットへ伝えられる仕組みだ。

研究チームはまず、切開や縫合などの基礎動作や模擬環境での検証を重ねた。その後、生きたブタを対象とした腹腔鏡下胆のう摘出術を実施。1例では人型ロボットと助手役を務める外科医が協力して手術を行い、もう1例では2台の人型ロボットが連携して手術を完遂した。

いずれも手術は成功し、人型ロボットの実際の手術における有効性が示された。

なぜ専用ロボットではなく「人型」なのか

ロボット支援手術と聞けば、多くの人は内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」を思い浮かべるだろう。現在の主流は、こうした手術専用ロボットである。高い精度を誇る一方、装置は大型で高価なため、導入できる医療機関は限られている。

今回の研究で注目されるのは、人型ロボットをベースに手術システムを構築した点だ。 人型ロボットは既存の手術室や一般的な手術器具をそのまま活用できるため、大規模な設備変更を抑えられる点が大きな利点だ。また、近年は産業用途を含めて人型ロボットの開発競争が加速しており、量産が進めば導入コストの低減も期待できる。

研究チームは、人型ロボットが将来的に手術だけでなく、器具の受け渡しや患者搬送など病院内のさまざまな業務も担える可能性にも注目している。こうした人型ロボットの活用は、医療現場全体の効率化につながるかもしれない。

医師が届かない場所へ技術を届ける

もちろん、この技術がすぐに人への手術へ使われるわけではない。今回の成果はあくまで前臨床試験であり、安全性や操作性の検証、法整備など、実用化までには多くの課題が残されている。

とはいえ、研究チームが描く将来像は明確だ。人型ロボットを遠隔操作できるようになれば、専門医が不足する地方や離島でも、高度な外科医療を提供できる可能性がある。さらに、戦地や災害現場、あるいは宇宙探査のように外科医が現場へ向かうことが困難な環境での活用も期待されている。

今回の成果は、「ロボットが人間に代わる」ことを示した研究ではない。熟練した外科医の技術を、距離という制約を越えて届ける新しい手段を提示している。人型ロボットが医療現場でどこまで役割を広げられるのか。今回の世界初の実証は、その可能性を探る第一歩として位置付けられる。

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人型ロボット「Surgie」による生体ブタへの手術の様子を紹介するニュース映像。@GMA - Youtube

宮田華子

ロンドン在住ジャーナリスト/iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授

アート・デザイン・建築記事を得意とし、さまざまな媒体に執筆。歴史や潮流を鑑み、見る人の心に届くデザインを探すのが喜び。近年は日本のラジオやテレビへの出演も。英国のパブと食、手仕事をこよなく愛し、あっという間に在英20年。

宮田華子

ロンドン在住ジャーナリスト/iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授

アート・デザイン・建築記事を得意とし、さまざまな媒体に執筆。歴史や潮流を鑑み、見る人の心に届くデザインを探すのが喜び。近年は日本のラジオやテレビへの出演も。英国のパブと食、手仕事をこよなく愛し、あっという間に在英20年。