暑い夏、涼を求めて南極への注目が高まっている。
アフリカ大陸から飛行機で5時間、一気に南極点まで飛ぶ「南極フライト」で女優の木村文乃が南極の地を訪れた。南極点に到達した木村の心に残ったものとは――。
「南極」と聞いて、なにを思い浮かべるだろう? 南極にいま、人は旅することができるようになった。ならば、南極へはどんな行き方があるのだろうか? 南極にはなにが待っていて、どんな景色が見えるのだろうか? 全身で南極を感じたとき、人はなにを想うのだろう――。
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北海道への旅で日本の最北端に出合って以来、“端っこ”の魅力に取り憑かれたという木村文乃。「それより先がないところにロマンを感じる」と、世界各地の端っこへ向かう旅を始め、近年は地球の北端である北極へ。翌2023年に目指したのが真逆の南極だ。「もともと動物も好きで、そこでしか見られない動物を見たくて。北極ではホッキョクグマでしたが、南極ならコウテイペンギンが見たいと思ったんです」
コウテイペンギンのヒナに出会える11月に、ルッカリーと呼ばれる営巣地と南極点を訪ねる7日間のツアーに出発。まずは、ツアーの発着地である南アフリカ共和国のケープタウンに向かい、そこから専用ジェット機で南極大陸へ飛んだ。上空から真っ白い大地と山々が見えてくるにつれて興奮は高まり、ついに南極の地に降り立った時はいまだかつてなくうれしかったという。

純白の大地が広がる南極大陸に上陸! 奥に見えるのは大陸内移動時に活躍するプロペラ機。
初日は滑走路近くのテントに宿泊。ここから小型飛行機に乗り換えて南極点やペンギンのルッカリーへ向かうが、南極の天気は変わりやすい。スケジュールは臨機応変に変わると知らされた。
「一度飛行機が故障して降ろされたこともありましたし、毎日どうなるかわからないワクワク感がありました」
幸い天候に恵まれ、翌日には南極点を目指して、南緯83度のキャンプ地まで5時間かけて飛ぶことができた。ここまで来ると、外気温はなんとマイナス30度前後。宿泊テント内の温度も外とほとんど変わらない極寒の地だ。
キャンプ地には氷でできたお洒落なバーも。
2日目は近未来的な宿泊ポッドが並ぶ近隣のキャンプ地でランチ
ランチはまさかのアウトドア。寒さと強烈な紫外線から身を守る完全防備姿で挑む。
寒すぎて冷え切る食事。全員断念して屋内に移動。
過酷な旅に疲労が蓄積。南極の稀有な環境を守るため、宿泊地にシャワーはもちろんなく、トイレは非常用。食事も菌を持ち込まないためにナッツなど非常食に近いものだった。夜は極地用の寝袋にくるまっても寒いなか、電気機器がフリーズしないようお腹の上にのせて寝たという。
南極点へは、2時間のフライトを経て、降り立った地から、最後は歩いてゴールに向かった。標高は約2800m、気温はマイナス33度。「高地なので呼吸もしんどいし、息するたびに水分が凍って喉に刺さるし、鼻毛も凍る」という極限状況もアドレナリンで乗り越え、ついに憧れの地に到達した。「数多の旅人や研究者たちが命がけでたどり着いた場所に自分も来ることができるなんて、すごいことですよね。経験したい、体験したいという強い気持ちがあれば、行けない場所はない」
南極点近くのキャンプ地。テント内でコップに注いだ水は1時間でカチカチに。
憧れの南極点。氷床の移動によりずれていくため、毎年ポールを打ち直している。
南極点に来た証しとしてパスポートに押せる特別なスタンプをゲット。
岩肌に点在する火星基地のようなポッドにも宿泊。ツアーの後半では、念願のコウテイペンギンたちともご対面。飛行機と雪上車で向かった真っ白い平原に、ペンギンたちの大集団がたくましく暮らしていて、「もこもこのヒナたちが氷の上を滑ったり、羽をバタバタさせたりしている姿はかわいすぎました」と木村。
南極条約では人間が5m以内に近寄ってはいけないルールがあるが、当のペンギンたちは人間をまったく恐れずに近寄ってくる。「でも、それは愛嬌ではなくて本能故のふるまい。動物がこっち(人間)を見てくれていると思ったら大間違い。野生動物を間近で見ないと感じられないことですよね。私はそういう動物のあるべき姿を見ていきたい」
ついにコウテイペンギンの営巣地へ。クレバス内部や氷の洞窟を探検するエクスカーションにも参加した。南極の自然のスケール感と造形美に、あらゆる芸術は自然からのインスピレーションの賜物なのだなと感じることの連続だったという。とりわけ、目の覚めるようなアイスブルーのトンネルが続く氷の洞窟では、思わず「本当にこれ天然なの?」という言葉が出た。「キレイすぎて逆に既視感すら感じてしまって。自然が先にあるはずなのに、青空を見て絵みたいだねって言っちゃうのと同じ感覚。そう感じてしまう自分が悔しいとさえ思いました。最初に見るものが本当はこんな自然であったらよかったのにって」
クレバス内部を探検するハイキングも体験。
氷の洞窟では自然の造形の奇跡に感動。南極の旅はラグジュアリーなものほど「なんの苦労もなく、いいものを食べてキレイなものだけを見て帰ってくるんでしょ?」と思われている。だがそうではなく、「テントに宿泊したのですが、風にパタパタするようなテントじゃないとか、ベッドには毛皮が敷いてあったりとか(笑)。身を守る最低限の環境を確保しつつ、そこにあるものでどうやって生きていくかを考える。そんな経験がすごく贅沢なことだった」と木村は振り返る。
最終日のテント。ラグジュアリーな旅なので毛布が敷いてある。「実は南極で、人間が持ち込んだ燃料置き場や持ち帰るゴミが集積しているのを見て“異物感”を感じたんです。南極には本来ないはずのものがそこにある。自分の目で見た実態として、エコやサステナブルの必要性を感じました。南極って見方や感じ方によってなにを持ち帰れるかがだいぶ変わってくる場所だと感じました」
南極で得たことを持ち帰り、説得力をもってどう発信していくのか、ゆだねられているような気がしたともいう。
「私は南極に“旅行”ではなく“冒険”に行ったと思っています。冒険に行った結果、行っていない人には言えないことが、言えるようになった。感じられるようになった。それは私にとってすごい財産だと思うんです」
また南極に行きたいですかと聞くと、今度はぜひ家族で再訪したいと木村は答える。
「子どもの目を通した南極は、また違う景色かもしれない。子どもには、私みたいに『絵みたいな空』っていう感性にならないうちに見てほしい。ピュアなフィルターで見た時に、一体目の前に広がる光景にどんな感想を持つんだろうって思うんです」