「私に届く手紙は『◯◯を読みました。私は……』となることが多い。二行目からは本の感想じゃなくて、その人の結構な秘密を明かしてくれているものが多いんです」
朝井のもとには、日々赤裸々な悩みや吐露が書かれたファンレターが届くという。彼の小説は、なぜ読者をここまでいたたまれないほど切実な気持ちにさせるのか。
彼が初めて出版社に小説を投稿したのは、12歳の時。早稲田大学在学中の二十歳の時、『桐島、部活やめるってよ』で作家デビュー。印象的なタイトルも話題になり、映画化もされ、そのタイミングで『何者』で直木賞を受賞した。
「あの時期に私は運を使い切ったみたいな気持ちでいたんですけど、ありがたいことにそれから何年かごとに大きな鐘を鳴らしてもらえるような出来事が起きていて、小説に関して自分は本当に運がいい。怖いなと思っています」

しかしながら、幸運はわかりやすいかたちでやってくるとは限らない。『正欲』を執筆したのはコロナ禍の最中だった。
「アイデア自体は、実はデビュー当初からあったんです。でも当時の編集者に話してもポジティブな反応が返ってこず、ボツにしていました。これを書いたら読者が離れてしまうかもしれないという危惧もありました。ただ、コロナ禍で世界が今後どうなるか本当にわからないとなった時、新潮社でデビュー10周年の書き下ろしができることになって、あのアイデアで書きたいと思ったんです」
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そんな経緯で生まれた新境地『正欲』は大きな反響を呼ぶ。
「それまで書いてきた小説は多少、おもてなし精神がありました。エンタメとして読者を楽しませなければという刷り込みがあった。『正欲』が評価を得て、たくさんの人に届いたことが大きな転機になって、もっと自由に書けるようになったと思います」
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本屋大賞を受賞した最新作『イン・ザ・メガチャーチ』は50万部を突破。15年目の集大成と言える今作の舞台はファンダム経済。推し活を仕掛ける側、仕掛けられる側、のめり込んでいた側の三者三様の視点から描いてみせた。
「なにを書くかは割とすぐ決まって、どう書くかを考える時間が増えています。語り手をどう設定し、主題をどう照らすのか。主人公の成長や変化にいまの私はあまり興味がなく、主人公がそもそもどんな共同体に存在しているか、そこに興味があるんです」
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読み終えると、自分がいま、生きている世界の解像度が上がる。
「自分の文章が“小説”になったと感じられるのは、私にとって痛い部分、最も不都合な部分が言葉になってくれた時です。日常生活でも似たような瞬間ってあると思うんですよ。いま、言葉にしたらこの場が崩壊する可能性があるからやめとこう、みたいな。私の場合、そういう瞬間が小説という場に流れ着いているのかも」
1989年生まれ。先ごろ完結した三部作のエッセイのタイトルにもした「ゆとり世代」ど真ん中。
「私はラッキーだったと思っているところがあるんです。Z世代は世界を変えるくらいに期待されてるけど、ゆとり世代は全然でした。馬鹿にされているほうが生きやすいし、そういう場所から言葉を投げるのがしっくりきます」
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心の中指を立てながら安全圏にない感情を描く

声を上げないから、ないことにされている。そこからしか見えない景色があることをこの人は知っている。次の小説も「めちゃめちゃ怒る人がいるかもしれない」と。胸騒ぎのような予感がするのは、きっと核心を突いているせいだ。
「宮崎駿監督の映画『風立ちぬ』に“創造的人生の持ち時間は10年だ”という台詞があります。私はこの台詞を聴いた時、勝手に、バッキバキに心の中指を立てていられる期間ってそれくらいなのかな、と解釈しました。人間って最終的には丸くなるというか、たとえば私もいつか〝読者の方々を元気づけたくて書きました”みたいなことを言い出すと思うんです。そうなっていない期間って実はすごく貴重だと思っていて、それができるうちは、心の安全圏にない感情を描き続けられたらいいなと思っています」
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WORKS
『イン・ザ・メガチャーチ』
流行を仕掛ける側のレコード会社社員の久保田。生きづらさの救いを推しに見出す大学生の澄香。ある事件がきっかけで推し活から身を引いた絢子。ファンダム経済の熱狂と危うさを描き、50万部を突破した本屋大賞受賞作。
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ポッドキャスト
『朝井リョウ・加藤千恵 信頼できない語り手』

2016年に惜しまれながら終了した『オールナイトニッポン0』で人気を博した朝井リョウと歌人の加藤千恵の名コンビ。特番の好評を受け、podcastで大復活。毎週金曜日18時頃配信。全12回予定だったが、延長中。
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『生殖記』
はじめまして。ヒトは2回目ですが、オス個体は初めてです。よろしくお願いします——新聞連載のため、「高齢者も読むから過激ではない作品を」と求められながらも、過激で実験的、朝井の真骨頂ともいえる作品となった。









