【アニメーション監督・モコちゃん】世界が注目する新アニメ『攻殻機動隊』、 謎多き新人監督が抱く覚悟

  • 写真:竹之内祐幸 
  • 文:力石恒元(S/T/D/Y)
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モコちゃん ●1992年生まれ。2017年にサイエンスSARUに入社。『映像研には手を出すな!』(20年)、『平家物語』(22年)などで原画、作画監督、演出を務める。『ダンダダン』(24年)では副監督、絵コンテ、演出を担い、その手腕を発揮し、注目を集める。

アニメーションの表現を拡張する独自かつ実験的な画づくりで高い評価を得るアニメーションスタジオ「サイエンスSARU」。多様な才能を有する同社で、注目のクリエイターがいる。その名はモコちゃん。世界中にファンを持つ『攻殻機動隊』の新作のクレジットに、監督として名が刻まれているのだ。シリーズ初となる〝原作ベース版〟と謳われ、攻殻ファンの期待と世間の話題を集める一方、氏を知る手掛かりは多くない。

子どもの頃から映画やアニメに興味を持ち、押井守監督による『攻殻機動隊』や、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』に出合い、アニメ業界を知る。だが、すぐには足を踏み入れなかった。

「当時の興味や状況もあり、大学ではアニメとは違うジャンルを専攻しました。趣味で自分なりに『攻殻機動隊』から影響を受けた漫画を創作したりしていましたが、その頃は絵が自分の仕事としてリンクせず、最初に就いた仕事はアニメとは別業界でした」

その業界は途中で挫折したと言うが、仕事に対する情熱は学ぶことができた。自分にとってこだわれるものはなにか。そう考えていた時に『ミュータント・タートルズ』(米・12年)に夢中になり、アニメーターを志す。

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今作のための資料が並ぶ。原作者・士郎正宗の著作をはじめ、ミリタリーや車両などの図鑑、『第九地区』などSF映画も。

2017年公開の劇場アニメ『夜明け告げるルーのうた』にアニメーターとして参加。その後、数多くの話題作で原画、作画監督、絵コンテ、演出などを務め、『ダンダダン』(24年)で副監督などを担当し、アニメ好きを唸らせた。手に汗握るダイナミックなバトルの展開から、キャラクターの心情に寄り添うポップな映像表現まで、緻密な演出と振れ幅を示した。そのたぐいまれなる感性は、10年前のピュアな衝動を胸に打ち込んできた賜物だろう。

ただ本人は「自分のセンスを発揮しているつもりはまったくない」と言い切る。アニメーション制作において大事なのはセンスではなく“身体性”だという。

「アニメーション制作は巨大で複雑な組織で進められ、役割も多岐にわたります。制作工程は分業で、時にはオリジナリティを出すより、指示に沿って描く技術が求められる。でも、自分の手を通してアウトプットする時点で絵は計らずも描き手のものになっていきます。身体の記名性みたいなものを信用してもよいと思うようになってから、『自分を出そう』とは特に思わないでやっています。監督になっても変わりません」

その時の興味に従いながらも、自分の役割を冷静に探ってきた。そうして獲得した俯瞰的な視座と平衡感覚は、新アニメ『攻殻機動隊』の制作においても活きる。

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新シリーズの絵コンテ。担当者が描いた原画などをチェックする際に参照する。第一話は多くのシーンを自身の手で描いたという。

「シリーズを受け継ぐには、なにか新しい解釈を付け加えなくてはという思い込みが制作開始時点ではありました。だけど、長い歴史があり、つくり手やファンの方などの思いが詰まっているIPです。いま改めてつくるというのはどういうことかと再考しました」

そこで当初の企画書にあった「原作に向き合う」という言葉を思い出す。自分に求められているものはなにか。アニメーションに携わる10年目の自分に舞い降りた勝負だと理解した。

 「原作の解釈はとても開かれていて、自分の解釈だけを強く打ち出すと、同意できない方を取りこぼしてしまう。僕がやるべきは、史実を映画化するみたいに出来事を変えず、演出一本で面白くすることだと思いました」

熱い思いと覚悟を聞いていくなかで、やっぱり気になる。なぜ「モコちゃん」なんですか?

 「一度『自分など捨てて作画機械になってしまえ』と思ったことがあって、その時から自分をモコちゃんだと思うようになりました。ふざけているわけではなくて、自分なりに真摯に責任の所在を名乗っているつもりです」 

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ペンタブレットを使い、修正・追加の指示を書き込む。リラックスできる環境をつくるため、自宅と同じランプを使用している。

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PICK UP 

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TVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』 全身義体の草薙素子が指揮する公安9課「攻殻機動隊」は、ある事件の捜査線上に浮上した謎のハッカー“人形使い”を追い始める。7月7日にカンテレ・フジテレビ系にて放送開始。(C)2026 Shirow Masamune/KODANSHA/THE GHOSTIN THE SHELL COMMITTEE

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PERSONAL QUESTIONS

時間ができたらなにをしたい?

本を読みたいです。この間、ちょっと背伸びをしてミシェル・フーコーの『監獄の誕生』を買ってみたのですが、背伸びをしすぎたみたいで、5ページで挫折しました。

息抜きにやっていることは?

自己否定かな。仕事中は「やれるぞ」とハイになっているので、ガス抜きとしてやっています。「僕なんて。僕なんて」とウジウジすることで、心の中立を保っています。

ついやってしまうクセは?

おたばこでしょうか。体に悪いのはわかっているのですが、ない生活をなかなか想像できなくて続いています。もしゾンビが発生したら、まずはたばこを確保しに行くのかも。

アニメ業界に入るためにやったことは?

当時は絵が業界水準に比べかなりへたっぴだったので、お金を貯めて1年間独学で勉強しました。周囲に美大卒の友人が多かったので、いろんなことを教えてもらった気がします。