【Penが選んだ、今月の音楽】
吉田篤貴 Emo Strings『noboru』
吉田篤貴の名を知らずとも、実は多くの方が彼の演奏を耳にしているに違いない。ウェブサイトに掲載された参加作品をちょっと抜粋しただけでも、人気アニメ『葬送のフリーレン』、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、グラミー賞にノミネートされた挾間美帆『Dancer in Nowhere』、この文章の執筆時点で言えば『CDTVライブ!ライブ!』に出演した宇多田ヒカルのためにストリングスアレンジと演奏を務めていた。
筆者が実際に聴いた中では偉大なジャズ作曲家マリア・シュナイダーが指揮するオーケストラ公演で、長尺のヴィオラ・ソロを任されていたのが忘れ難い。クラシック音楽をベースにした確かな技術力を持ちつつ、柔軟なスタイルで即興までこなせる貴重な存在で、代えが利かないミュージシャンなのだ。
そんな彼が2017年に自身がリーダーを務めるユニットとして結成したのが弦楽アンサンブル「吉田篤貴 Emo Strings」である。過去作も魅力的なのでお聴きいただきたいし、5年ぶりとなったサードアルバム『noboru』は吉田の作曲家としての側面がより一層深化している。
曲順に紹介すると「Escape」はミニマルミュージック的な反復を基調に、プログレッシブロックのような変拍子の快感を併せ持つ。「noboru」は吉田のスキャットに加え、メンバーがコーラスやホイッスルまで重ねる、聴いたことのないサウンドが堪能できる意欲作。
「Hydra」はプログレに多大な影響を与えたバルトークの系譜にあり、実にパワフル。「Suite: Before Words」は吉田が息子の喃語から触発されたきわめてユニークな音楽。
「Dancing Spoon」では吉田がなんとクラリネットの見事な演奏を披露。彼が信頼を寄せる作曲家・三枝伸太郎による「Our “Happy Ending”」で締めくくり、筆舌に尽くしがたい素晴らしさだ。
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