ポルトガルと日本を拠点に活動するフォトジャーナリスト、乾祐綺さんの新刊『西の果てで見つけた ポルトガル人のほどよい生きかた』が発売された。乾さんはPEN本誌の「ワールドアップデート」でポルトガルを担当し、同国の文化や社会活動を長年にわたって発信し続けてきた書き手でもある。
近年、ポルトガルへの世界的な注目は急速に高まっている。ロンドン発の都市ガイド誌『タイムアウト』の2025年調査では、ポルトが「世界で最もフレンドリーな都市」の第1位に、首都リスボンが第8位に選出された。日本でも旅行先としての人気は着実に上昇しており、のどかな街並みと温暖な気候、ヨーロッパ主要都市と比べて手頃な物価、そして人々のおおらかな気質が、世界中の移住者や旅行者を惹きつけてやまない。効率や生産性を至上とする現代の空気に疲れた人々が、ポルトガルにある種の「解放」を求めてやってくるのだろう。
本書はそんなポルトガルの魅力を、「人生のさまざまなフェーズで心のよりどころになる、12の小さな習慣」としてていねいに解きほぐした一冊だ。海を眺めるだけで完結する午後のこと、カフェのカウンターで社長も学生も労働者も肩を並べてエスプレッソを飲む光景のこと、知らない人同士でも自然に交わされる朝の挨拶のこと。世界約60カ国を渡り歩いてきた著者が、その長い旅の果てにたどり着いた"ほどよさ"の正体が、プロローグから7章構成でじっくりと描かれていく。「急がなくても、ちゃんと生きていける」——そのシンプルな確信が、読み進めるほどに静かな説得力を帯びてくる。
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なかでも特に印象的なのが、第6章「老いは未来を豊かにする」だ。リスボンで活動する社会プロジェクト「A Avó Veio Trabalhar(ア・アヴォ・ヴェイウ・トラバリャル)」——「おばあちゃんが働きに来た」と訳されるこの取り組みでは、高齢女性たちが刺繍や編み物などの伝統技術を現代デザインと融合させ、唯一無二のアート作品を生み出している。
福祉的な「支援」の文脈はそこにはない。あるのは、「老いにはまだ未発掘の可能性がある」という正面からの肯定だ。「OLD is the New Young!」というキャッチフレーズのもと、おばあちゃんたちはカラフルにおしゃれをし、世界のブランドとコラボレーションし、2025年には著者とともに日本ツアーも敢行した。
彼女たちの活動を近くで見てきた著者は、老いという一見ネガティブな現象の捉え方が大きく変わったという。
「新しい友人、新しい経験、新しい役割、新しい誇りが、人生の後半にもう一度やってくる。これは、これまでの日本社会の老いのイメージと、あまりにも対照的だ。日本では『高齢者』とひとまとめにされ、介護や医療といった文脈で語られがちだ。だがアヴォの世界では、老いはクリエイティブで、ユーモアに溢れ、自律的で、そしてなにより“社会を肥沃にする力”として扱われる。アヴォの活動を見ていると、『老いとは新しい才能が開く時期なのかもしれない』と思えてくる」
世界トップクラスの高齢化社会を生きる私たちにとって、この章が示すメッセージは、進むべき方向を照らす、一筋の光のようだ。
日本人の常識、考え方、価値観だけが唯一ではないし、むしろ世界では少数派だったりすることも多々ある。この本は私たちを少し立ち止まらせ、外の広い世界に目を向かせてくれる。