ブラジル音楽の巨匠、ミルトン・ナシメント、最後のツアーを追ったドキュメンタリーが日本上映へ

  • 文:Pen編集部
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Bituca_1.jpg©️ GULLANE ENTRETENIMENTO S.A / ReallyLikeFilms + Palmyra Moon

 

日本の風景にいちばん馴染む"ブラジル音楽"

「ブラジル音楽」と聞いて、どんなメロディーやリズムが思い浮かぶだろうか。サンバ、ボサノバ、ショーロ、MPB(ブラジル・ポピュラー・ミュージック)、アシェー……おそらくその中のどれかではないか。しかし、世界随一の音楽大国・ブラジルは、そのようなひとつのジャンルに入らない音楽をつくるミュージシャンも多く生み出してきた。

そのうちのひとりが、ミルトン・ナシメントだ。

ミルトンとは何者か。1942年、リオデジャネイロに生まれ、幼少期にブラジル南東部ミナス・ジェライス州へ移住。以後ミナスを拠点に、1960年代から活動を続けてきたシンガー・ソングライターだ。同世代のジルベルト・ジル、カエターノ・ヴェローゾ、シコ・ブアルキらとともにMPBの黄金時代を築き、「神の声」と称されてきた。

アフリカ系ブラジル人としてのルーツを基に、伝統音楽、キリスト教音楽、ジャズ、ロックを融合したその音楽性は、ブラジルの外へも静かに、しかし確実に届いてきた。ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、パット・メセニーといったジャズ界の重鎮たちを魅了し、ポール・サイモンはミルトンを「私が最も深く影響を受けたアーティストのひとり」と語る。

Bituca_Young.jpg若き日のミルトン。©️ GULLANE ENTRETENIMENTO S.A / ReallyLikeFilms + Palmyra Moon 

実は、いわゆる”ブラジル音楽”に馴染みがない日本人でも聞きやすく、そして日本の風景の中で聞いてもまったく違和感がないブラジル音楽が、ミルトンの楽曲ではないかと思う。

日本の風景にとても合うのだ。それもそのはず、ミルトンが生まれた故郷、ミナス・ジェライス州は、山々と丘陵が織りなす起伏に富んだ日本のような地形を持ち、彼の音楽にはその地理的・文化的背景が色濃く出ている。サンバやボサノバを育んだ土壌とはまったく違うところから生まれているのだ。

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Bituca_stage.jpg©️ GULLANE ENTRETENIMENTO S.A / ReallyLikeFilms + Palmyra Moon

ミルトンへ捧げる57人からの“ラブレター”

2026年7月3日より全国順次公開となる『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』は、このブラジル音楽の巨人、ミルトン・ナシメントの最後のワールドツアーに密着したドキュメンタリーだ。監督はフラヴィア・モラエス。2年にわたる撮影期間、リスボン、ヴェネツィア、ロンドン、ロサンゼルス、ニューヨーク、そして故郷ミナス・ジェライス州のベロオリゾンチへと続く旅路を、115分の映像に収めた。

7月3日(金)公開『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』予告編

本作に登場する証言者は57人。ミュージシャン、映画監督、活動家——ジャンルも世代も国も異なる彼らが、ミルトンの音楽が自分の人生にどう刻まれたかを語る。

スパイク・リーが突然楽屋に現れ、エスペランサ・スポルディングが撮影後にコラボ・アルバムを制作する。世界各地のアーティストたちが自然とこの旅に引き寄せられた。それは偶然ではなく、ミルトンという人間の磁場のようなものだろう。

監督のモラエスは言う。「最後の旅を記録するのではなく、その遺産を未来へ渡したかった」。だからこの映画は伝記ではない。「世界中の人々がミルトンに捧げるラブレター」として構想されたものだ。音楽の力が人々をどう結びつけ、どう変えてきたかを描く——その問いに、57人の声が何層にも重なって答えていく。

Bituca_SpikeLee.jpgスパイク・リー(左)とミルトン(右)。 ©️ GULLANE ENTRETENIMENTO S.A / ReallyLikeFilms + Palmyra Moon

ナレーションを担当するのは、映画『セントラル・ステーション』で知られるブラジルの国民的女優フェルナンダ・モンテネグロ(95歳)。彼女の声は旅の記録を一篇の詩のように包み込み、スクリーンに静かな余韻を残す。

「これは別れではない。ありがとうと言うための旅なんだ」——ツアーの意味を問われたミルトンはそう答えた。2022年11月、故郷のミネイロン・スタジアムに6万人が集まった最終公演の映像は、なにかが終わる悲しみよりも、長い旅への深い感謝を伝えている。ミルトンをまったく知らなくても、音楽が人の心に宿る瞬間を目撃するような体験がそこにある。

この映画を観終わったとき、あなたはきっとその声をもっと聴きたくなるだろう。

Bituka_Poster.jpg©️ GULLANE ENTRETENIMENTO S.A / ReallyLikeFilms + Palmyra Moon

『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』

監督/フラヴィア・モラエス
出演/ミルトン・ナシメント、カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、シコ・ブアルキ、スパイク・リー、クインシー・ジョーンズ、ポール・サイモン、ハービー・ハンコックほか ブラジル映画 111分 
配給/リアリーライクフィルムズ、パルミラムーン
後援/駐日ブラジル大使館、ギマランイス・ホーザ文化院 
2026年7月3日(金)より、恵比寿ガーデンシネマ、109シネマズプレミアム新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
www.reallylikefilms.com/bituca