【監督集団・5月】物語より先に〝手法〟をつくる、 異色ユニットが生み出す新たな映画表現

  • 写真:湯浅 亨
  • 文:森 直人
  • 協力:代官山ヒルサイドテラス
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5月●平瀬謙太朗(左)、関友太郎(右)、佐藤雅彦の3名によって結成された監督集団と称するユニット。東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻で出会い、2012年に佐藤雅彦研究室のプロジェクト「c-project」を機に活動を開始した。
 

監督集団「5月」。その名義は通常3名──関友太郎、平瀬謙太朗、そして佐藤雅彦──による共同制作体を指す。ひとつの作品で全員が監督を担う、異色のユニットだ。今回話を聞いたのは関と平瀬のふたり。東京藝術大学大学院映像研究科で出会い、佐藤雅彦研究室のプロジェクト「c-project」から活動を開始。短編映画『八芳園』『どちらを』でカンヌ国際映画祭にノミネートし、長編『宮松と山下』、そして最新作『災』へと歩みを進めてきた。

『エレファント』、『ゆれる』、『世紀の光』、『息子のまなざし』、『シャイニング』
本作にも影響を与えた作品群。『エレファント』の時間と空間構成に衝撃を受け、香川照之も出演する『ゆれる』もセレクト。関はアピチャッポン『世紀の光』やダルデンヌ兄弟『息子のまなざし』を挙げ、キューブリック『シャイニング』を挙げる平瀬は自他ともに認めるコントロールフリークだ。

自分たちの関係性を「監督集団」と形容する彼らは、恩師・佐藤を含めて制作の現場では対等の合議制。関と平瀬はもともと学友であり、長年の共同作業で培われた〝あうんの呼吸〟がある一方で、各々の個性は明確に異なる。関は「僕は完全な文系」と語り、アピチャッポンやミヒャエル・ハネケなどに強く影響を受けてきた映画偏愛型。NHKのディレクターとして7年間ドラマ演出を務めた経歴も持つ。一方の平瀬は「僕はバキバキの理系。構造や仕掛けを考えるのが大好き」と言い、宮崎駿からノーラン、キューブリックなど雑多に観る。自分の根底は〝プランナー〟だと語る彼はクリエイティブスタジオ「CANOPUS」を主宰し、川村元気の『百花』『8番出口』では共同脚本として企画構築に深く関わった。自分の好きな世界観を探究する関と興味の幅が広く多様な平瀬。この対照性が「5月」の独自性を形成している。

最新作『災』はWOWOWで放送された全6話のドラマ版と、再編集された劇場版が完全に別作品として成立している点が特異だ。

代官山ヒルサイドテラス
昨年末まで彼らがオフィスを置いていた代官山ヒルサイドテラス。建築家の槇文彦により設計された、代官山エリアを代表する名建築。

「ドラマをつくっている途中にその構想を思いつき、WOWOWさんとの脚本会議の場で、最後に少し時間をくださいとホワイトボードに構造を書き出して、〝このドラマは構造を変えることで一本の映画にリビルドすることができます〟と提案したんです」と平瀬。

「同じ素材でも恐怖の質も構造も違う」と関は語る。物語より先に手法が立ち上がり、その手法に最も似合うテーマを探す。「つくり方が新しければ、自ずとできたものは新しい」という佐藤から受け継いだ思想が彼らの中心にある。

WOWOWドラマ版『災』全6話の台本
WOWOWドラマ版『災』全6話の台本。スタッフがつくった3冊目の表紙を見て、劇中でも「赤」をキーカラーにすることを思いついた。

共同監督での撮影も独特だ。

「関が現場を統括し、僕はモニター前で見て、思いついたことや気づいたことを提案します。僕がスタッフに直接言うと現場が混乱するので、まずは関に伝えて、ふたりの間で整理してから現場に落とし込むんです」と平瀬。

「『事前に決めてきてください』と求められることもありますが、あえて〝決めきらない〟ようにしています。現場でしか生まれないものもあるんですよね」と関。

「面倒に思われても、このつくり方が自分たちの特別なところなので、迷いがない」と平瀬は語る。

香川照之
関&平瀬が続けてタッグを組んだ頼もしい名優・香川照之。『災』の撮影現場には、『ゆれる』の西川美和監督も一度見学に訪れたという。

『宮松と山下』に続き『災』でも主演を務めた香川照之との相性も大きい。「群像の中にいてエキストラに紛れていても、はみ出す存在感を調整できる人」と平瀬。「現場で多くの可能性を提示してくれるので、心強い」と関も続ける。

海外映画祭での経験も、彼らの背中を押してきた。今回参加した、スペインのサン・セバスティアン国際映画祭のプログラマーから「いい映画はいくらでもある。だが初めて観る映画が欲しい」と言われたことは大きかったという。

「映画祭を目指すことで自分に厳しくなれる。興行などの数字だけではなく表現の純度でも勝負しなければと思える」と口を揃える。

「複数でつくると、自分の感性を捨てる瞬間がある。でもその〝重なった部分〟を信じてつくるのが面白い」と関。平瀬も「ふたりでやると、ひとりではたどり着けない場所に行ける。だから共同作業はお薦めです」と語る。

主題や物語ではなく〝つくり方〟から映画を更新し続けてきた彼らの歩みは、作品ごとにまったく違う方向へ枝分かれしていく。その予測不能さこそが「5月」という異色クリエイター集団のいちばんの魅力かもしれない。

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PICK UP

『災-劇場版』
映画『災 劇場版』 不可解な「災い」に襲われる人々と、そのかたわらに潜む謎の男を描くサイコ・サスペンス。主演の香川照之が、性格から表情までまったく異なる6つの人格を完璧に演じ分ける。

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PERSONAL QUESTIONS

いま行きたい場所は?

「天山湯治郷」という箱根の日帰り温泉。素晴らしいお湯と、美しい自然と、静かな空間が、本当に心地よいです。願わくば、1日中ずっと滞在したいです。(関)

毎日欠かさずに行っていることは?

巻き肩とストレートネックの解消ストレッチ。長年の悪癖が積み重なり、頭痛や体調不良を引き起こすレベルまで到達。一刻も早く解消すべく、毎日ストレッチをしています。(関)

いま会ってみたい人は?

多くの方が同じ気持ちかと思いますが、ずっと、願っているのは宮崎駿監督。きっと固まってしまうと思います。でも、一言でいいので、しっかりお礼を伝えたいのです。(平瀬)

今年、動画配信でハマったコンテンツは?

今さらながら、「X-ファイル」シリーズをしっかり観ました。面白い。どうしてこんなに胸高鳴るのか。この世界にはきっと、まだまだ未知なるものがたくさんある……。(平瀬)