「ACコブラ」が現代に復活。まさに教科書のようなスポーツカーデザインを紐解く

  • 文:小川フミオ
  • 写真:AC Cars
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「ACコブラGTクーペ」というスポーツカーが、2026年5月29日に発表された。この名を聞いてピンと来た人はクルマ好き、あるいは映画好き、かも。

ACコブラGTクーペ
力強くふくらんだボンネットと21インチ径ロードホイールと組み合わせた大径タイヤが目をひく。

まさに、これこそスポーツカーというデザインのACコブラGTクーペ。デザインを担当したのはACカーズの社内デザイナーで、「1964年のルマン24時間レースに出走した(シャシーナンバー)A98のクーペに着想を得たスタイリング」とホームページにある。

現在の諸条件をクリアした車両だが、かつてのスポーツカーの魅力をふんだんに感じさせるデザインが魅力だ。 

デザインソースは歴史にあり

ACコブラGTクーペ
全長4225mmに抑えられ数字上はコンパクトだが存在感は強烈。

2570mmと比較的コンパクトなホイールベースを使い、ドライバーはほとんど後輪の上に座るような、まさに英国スポーツカー的なプロポーション。

オリジナルをたどると、映画「フォードvsフェラーリ」(2019年公開、※日本では20年公開)の冒頭にも登場した、キャロル・シェルビーにいきつく。

キャロル・シェルビー
1959年当時のキャロル・シェルビー(右)。写真:Newspress

伝説的な自動車人で、ルマン24時間レースでフェラーリを打ち負かした「フォードGT」のプロジェクトに深く関与(映画の主題もそこ)。その前にシェルビーが手掛けたのが「コブラ」だ。

1963年の「シェルビーACコブラ289」をはじめ、同「427」(数字はいずれもキュービックインチ法で表したエンジン排気量)、そして「シェルビー・デイトナクーペ」と多様だが、オークションでの価格はどれも億単位。

まるでスポーツカーデザインの教科書

ACエースとシェルビーACコブラMk2
ACエース(左)とシェルビーACコブラMk2。写真:Newspress

今回のコブラGTクーペのデザインは、当時のコブラを彷彿させる。

獲物を探す捕食者の眼と牙を思わせるフロントマスク、大きなエンジンが収まっていると感じさせる長いボンネット、力強く張り出したフェンダー、太いタイヤ……。

スポーツカーデザインの教科書があれば、これこそふさわしい、と思わせる。 

デイトナクーペ
1965年のGT選手権(ワールド・マニファクチャラーズ・チャンピオンシップ)チャンピオンになったシェルビーアメリカンのデイトナクーペ。写真:Newspress

ACカーズは、2026年に125周年を迎える英国のスポーツカーメーカー。長い歴史のなかで、もっとも知られたクルマが、シェルビーと組んで開発した「ACコブラ」だ。

ACエースというオープンモデルをベースに、開発されたのが当初のコブラで、先述のとおり、大排気量のV型8気筒エンジンを搭載していた。 

ACコブラGTクーペ リア
クラシカルでいてウルトラモダンなコブラGTクーペのリアビュー。

スポーツカーのデザインとひと口にいっても、欧州と米国ではだいぶテイストが異なる。スポーツでたとえると、欧州のものは均整のとれたランナーで、米国はファイターといえるだろうか。

ランナーとして生まれ、のちに筋肉隆々たるファイターへと変貌したのが、ACコブラ。そこもユニークな個性になっている。

空力を意識したスポーツカー的設計

ACカーズは24年、「ACコブラGTロードスター」なる、とりわけ過去のモデルへのつながりを強く意識した”新車”を発表。今回のコブラGTクーペは、そのクローズドボディ版だ。

ACコブラGTロードスター
2024年に発表されたACコブラGTロードスター。写真:Newspress

ルーフは「ダブルバブル」タイプのデザイン。前後どちらかから眺めると、コブ(バブルと英語では表現)が2つ左右に並んで見える。

空力のために車高は低く抑えたいが、ヘルメットをかぶった乗員のヘッドスペースを確保する必要がある。そのため、アバルトなど、50年代のイタリアの小型スポーツカーが採用した手法だ。

リアは、カムテイルといって、すぱっと垂直に裁ち落としたような形状。ドイツの研究者ウニバルト・カムから命名された、空力デザインだ。 

ACコブラGTクーペ リア
静止から時速100kmまでの加速時間は3.3秒といいう。

車体の前から流れてきた空気が、高速時に車体を後ろに引っ張るじゃまをしないように、そこで流れを断ち切る形状である。

一般的にはテール部分を長くすることで効率的に空気の流れをコントロールするのだが、なるべく全長を短くして旋回性能などを高めたいスポーツカーでは、カムテールが現実的な選択だったのだ。

1930年代に提唱された手法で、60年代から70年代にかけて、レースカーにも大々的に採用された。

BMWの「Z4ロードスター」やアストンマーティン「ヴァンテージ」などは、いまも同様のボディデザイン(カムテール)を採用している。

2026年に登場したACコブラGTクーペは、あらゆるところがクラシカル。というか、小型スポーツカーの文法に忠実なデザインなのだ。

見た目とは裏腹に、性能は現代的

内容は現代的だ。シャシーはアルミニウムの押出材を使い、ボディは炭素樹脂製。軽量かつ剛性を追求した、まさにスポーツカーならではの構造だ。

エンジンは「(フォードの大排気量V8を載せていた)ACコブラの伝統にならって」フォードのV8をフロントに搭載する。

5リッターのパワフルなエンジンで、コブラGTクーペでは、3つのチューニングが用意される。 

ACコブラGTクーペ ダッシュボード
一見クラシカルなダッシュボードだがスタビリティコントロールやドライブモードなどのコントロール類やナビゲーションシステム用モニターもそなわる。

標準仕様は456ps(335kW)で、その上にスーパーチャージャー装着で730ps(537kW)と、さらに810ps(595kW)とハイチューンドの仕様が用意される。

車重は比較的軽量の1600kgとされているので、猛烈なスピードが体験できそうだ。

ACコブラGTクーペの生産台数は250台。うち、もっとも性能の高い810馬力の「クラブスポーツ」は99台のみ生産されるという。

AC コブラ

https://ac.cars

小川フミオ

モータージャーナリスト

自動車を中心に活躍するジャーナリスト/ライター。自動車誌やグルメ誌の編集長を務めた後、フリーランスとして活動。新車の試乗記をはじめ、グルメ、ホテル、人物インタビューなど、多岐にわたるジャンルの記事を独自の視点で執筆し、雑誌やウェブメディアを中心に寄稿している。

小川フミオ

モータージャーナリスト

自動車を中心に活躍するジャーナリスト/ライター。自動車誌やグルメ誌の編集長を務めた後、フリーランスとして活動。新車の試乗記をはじめ、グルメ、ホテル、人物インタビューなど、多岐にわたるジャンルの記事を独自の視点で執筆し、雑誌やウェブメディアを中心に寄稿している。