『海街diary』から約11年、家族を描き続けてきた是枝裕和監督の世界に、綾瀬はるかが帰ってきた。監督がオリジナルストーリーとして書き上げた『箱の中の羊』の舞台は、ほんの少し先の未来。綾瀬は亡くなった息子と同じ姿をしたヒューマノイドを家族として迎え入れる母親、音々を演じた。
「音々はヒューマノイドという存在にのめり込んでいくので、私はどちらかというと、『それはどうなんやろな?』っていう夫の健ちゃんに近い目線で脚本を読んでいました。でも監督から中国では既に死者をAIとして蘇らせるビジネスがあると聞いて、大切な人が同じ姿で目の前に現れたとき、自分だったらどうするだろうとものすごく考えさせられたんです。音々は戻ってきた息子とまた新しい未来をつくりたい。でもやっぱりなにかが違うことはわかっている。その間の揺れを演じることが、難しい部分だったと思います」
喪失と再生の狭間で感情をゆさぶられる複雑な人物像をかたちづくる上で、夫役の大悟(千鳥)の存在と是枝組の現場のリズムが大きな助けになったと語る。
「クランクインする前に監督が、大悟さんと一緒にヒューマノイドの息子役の桒木里夢くんと3人で過ごす時間をつくってくださったんです。大悟さんは本当にすごいんですよ。カメラが回っていないところでも、ご自分のことを『パパはさぁ』って、自然に話しかけていて。私のほうが距離を詰めて仲良くなるまで時間がかかったと思います。でも撮影が始まってからは3人で楽しく話して、その延長線上の雰囲気でカメラの前にいられました。監督がつくる優しくて静かな空気感の中で過ごせたのも大きかったですね。私がこんなことを言うのはおこがましいのですが、久しぶりにご一緒した監督は、より穏やかに、より迷いのない感じがしました」
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いまの年齢だからこそ、感じられる思いを演じたい
音々の建築家という職業や家族が住む中庭のある邸宅が、本作にさらなる奥行きをもたらした。
「模型のつくり方やデッサンも教えていただいて、すごく楽しかったです。建築家のお仕事はお客様のご希望を聞いて、目に見えないものを少しずつカタチにしていくことですよね。そこにはもちろんじっくりと考える時間があって、音々が『悩みたいの』と言うシーンもあります。頭ではわかっていても理性的になれなかったり、考えを整理することができなかったり……、そういう複雑で完璧ではないところが、いろいろな問題に素早く答えを出すAIにはない人間らしさなのかなと感じました」
この春、実話をもとにした主演映画『人はなぜラブレターを書くのか』も公開された。いま、出演作を選ぶ際に最も大切にしているのは、その物語が自分の内側にどんな感触を残すかだという。
「もちろん、監督とご一緒したいという気持ちが大きな動機になることもありますが、まずは脚本を読んで自分が演じる役に対してどう思ったのか、どんなふうに心が動かされたのか。最近は、その先で観てくださる方になにを届けることができるのかということも、より考えるようになりました。感覚を研ぎ澄ますために特別なことはしていないのですが、日常の中で自分が感じたことを見逃さないようにしているかもしれない。窓を開けて光を浴びた瞬間や些細な会話の中にも、大切なものが潜んでいる気がするんです」
いま、挑んでみたいことについても「この年齢だからこそ感じることや悩みを表現できるような面白い役を演じてみたい」と話したあと、「食材を上手に扱える技も身に付けたいと思っているんです」と言葉をつなげた。
「食べることは生きることですよね。ひと手間かけたらもっとおいしくなるんだろうなと思いながら面倒くさがり屋でそのままにしちゃうことが多いので、素材を活かす料理に挑戦したいですね。お仕事の話じゃなくて、小さすぎる話になっちゃいました(笑)」
この先の挑戦も、ささやかな日常も同じ温度で語る。飾らない言葉とやわらかな笑顔。愛され続ける俳優、綾瀬はるかの輪郭がふと立ち現れた瞬間だった。
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WORKS
映画『箱の中の羊』
建築家の甲本音々、工務店社長の健介の夫婦は2年前に亡くした息子の姿をしたヒューマノイドを迎え入れる。失われた家族の時間が少しずつ動き出す。是枝裕和監督によるオリジナルストーリー。5月29日より全国公開。
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映画『人はなぜラブレターを書くのか』
17歳のナズナは同じ電車で見かける高校生の信介に想いを寄せていたが、彼は地下鉄脱線事故の犠牲に。24年後、ナズナは遺された信介の家族に手紙を書く。石井裕也監督が実話をもとに映画化。全国東宝系にて公開中。
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映画『ルート29』(2025年)
森井勇祐監督が、詩人・中尾太一の『ルート29、解放』に着想を得て撮影したロードムービー。他者とのコミュニケーションが苦手な女性が、風変わりな少女と絆を築いていく。(デジタル配信/Blu-ray&DVD発売中)










