【Penが選んだ、今月の音楽】
サンダーキャット『ディストラクテッド』
多人種の街ロサンゼルスで、二刀流の日本人・大谷翔平が活躍する。多様性の排除に傾斜する日本やアメリカの息苦しさを束の間忘れさせる痛快事だ。
ふと音楽界の大谷翔平は誰だろうと考えてみると、思い浮かぶのはサンダーキャットだった。LAビート・シーンの拡張に貢献し、超絶技巧のベーシストにしてジャンル越境型アーティストとしての評価を不動のものとする彼は、俳優業でも活躍し、アニメやゲームのオタクとしても広く知られる人気者。何刀流なのかもはや定かではない。
そんな彼の魅力を凝縮した新作が『ディストラクテッド』だ。6年前の前作は深い喪失感を投影した作品だったが、この新作では若干の影を湛えつつも、吹っ切れたようにオタク的ユーモアを交えながら大人の流儀でやりたい放題するサンダーキャットが戻ってきた印象を受ける。
スティーヴィー・ワンダーの名曲「回想」を想起させる、いまは亡き盟友マック・ミラーとの未発表コラボ曲を筆頭に、エイサップ・ロッキー、リル・ヨッティなどを迎えたヒップホップ・チューンは終始グルーヴィー。そこにAORやR&B系のバラードを織り込みながら、2〜3分台の曲をDJ的な感性でごった煮的に展開する、まさにアルバムタイトルが意味する通りの(いい意味で)“注意散漫”な充実作だ。
天使のようなファルセットで甘く繊細に歌うのも彼の持ち味だが、今回、AORやR&B系のバラードで聴かせるハイトーンボイスのしみ入り具合は、過去作のそれを凌ぐ。楽曲のよさもさることながら、メイン・プロデューサーに抜擢したポップス界の名匠にしてLA同郷人、グレッグ・カースティンによる、メリハリの効いたクリアなサウンドとの相乗効果も明白だろう。自由奔放ながらも実は計算され尽くした、円熟の一級品をご堪能あれ。
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