【フェラーリ 12チリンドリ試乗記】ヒーロー不在の時代を走る現代の「デイトナ」、 本能が告げる最先端のV12ベルリネッタ 第243回東京車日記

  • 写真&文:青木雄介
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V12ベルリネッタ

伝説的GTを源流とし 、名車「デイトナ」の記憶を甦らせたV12ベルリネッタ。

フェラーリのV12ベルリネッタ、「12チリンドリ」は現代に甦った「デイトナ(365GTB/4)」だった。1980年代の刑事ドラマ『マイアミ・バイス』に熱狂し、Tシャツにシルクのスーツを着て大学に通っていた私が言うのだから間違いない。服や素足にローファーは真似できても決して真似できない相棒。それはペットのワニ(エルビス)であり、なにより黒い「デイトナ」だった。

なぜこのクルマは、初めて見た気がしないのか

デュアルコックピット・アーキテクチャ
ほぼ左右対称のデュアルコックピット・アーキテクチャを採用。

「12チリンドリ」が罪深いのは、まるで「C3コルベット」のような、スーパーロングノーズにコークシェイプのグラマラスなラインを魅せつけてきたこと。初めて見たはずなのに、「これしかない」と本能が告げる背徳のエクステリア。そしてドライビングは、真夜中のマイアミ市街をドリフトしながら犯人を追走するクロケット刑事仕様だった。

先代「812スーパーファスト」からの進化は、ドライブモードに乗り手のキャラクターや好みまで設定されていること。デフォルトの「スポーツ」、その上の「レース」に大きな違いはないのはこれまで通り。峠を流すぐらいなら「レース」が最適で、「CTオフ」は完全なドリフト用。「ESCオフ」は、旧車の経験があって、腕に自信のある根っからのフェラーリファンのためのモードだ。

搭載するF140HD

搭載するF140HDは自然吸気フェラーリV12の新世代。等長マニホールドが全回転域でフェラーリサウンドを響かせる。

近年のフェラーリらしくハンドリングはナチュラルなフラット。これがフロントエンジンのV12で実現しているのが正直、信じられないのね。ほとんどミドシップのような素直な操作性があった上で、ほぼ後輪軸の真上に着座しながらドリフトできる。へその下あたりでタイヤが滑り出す感覚を感じながら、振り子のようなドリフトを展開する。先代との違いは一挙一動をすべて記憶してしまえるような安心感があるということ。

ヒーロー不在の時代に、まだ主役は現れる

レザーストラップにメタルのバックル。
レザーストラップにメタルのバックル。ラゲッジはトラベルバッグのような設え。

そのカギはブレーキ・バイ・ワイヤのブレーキングだ。あらかじめ踏み込み量を予想しているかのように、ドライバーの意を汲んで応えてくる。そしてパドルシフトのクリック感も、大排気量に合わせるかのように力強く頼もしい。そのV12エンジンは9500rpmまで回り、ATSと呼ばれるトルク・シェイピング技術でトルクのピックアップをリニアに変える。ターボのようなパンチがありつつ、大型獣が全力疾走に移る刹那のような継ぎ目のない加速感が記憶となって身体に刻まれる。

ステアリングもフェラーリらしくライブ感があって、路面のすべてを伝えようとしてくる。フロントのタイヤハウスの膨らみ、ミラー越しに見えるグラマラスなカーブ。こんなに美しいロングノーズのクーペを自由にドリフトできる時間が、夢ではなく現実にあることにめまいを覚えそうだった。

で三角形のテーマを表現

リアスクリーン一体の可動フラップで三角形のテーマを表現。

そしてスポーツモードで「クルージング」に入ると、1500回転以下でさえ、みっちりと濃密な味わいが残る。V12の鼓動があり、ステアリングからは路面のインフォメーションが絶えず伝わってくる。まるで骨董品を愛玩するような時間が、航跡を残すように後方へと流れていく。

「12チリンドリ」はオマージュではなく、最先端の「デイトナ」だ。だからこそ背中で語るヒーローが相応しい。ヒーロー不在のこの世の中に、それでも待ちわびている自分がいた。

フェラーリ 12チリンドリ

全長×全幅×全高:4,733×2,176×1,292㎜
エンジン:自然吸気V型12気筒 DOHC
排気量:6,496cc
最高出力:830PS /9,500rpm
最大トルク:678Nm /7,250rpm
駆動方式:FR(後輪駆動)
車両価格:¥56,740,000

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