【『はくしむるち』】いわれなき暴力に牙をむく、 沖縄の新鋭が描く衝撃作

  • 文:瀧 晴巳(フリーライター)
Share:

【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『はくしむるち』

01_.jpg

豊永浩平 著 講談社 ¥1,980

子どもの頃、ウルトラマンシリーズを観ていた人なら忘れられない回がきっとあるだろう。

『はくしむるち』の「むるち」は『帰ってきたウルトラマン』第33話「怪獣使いと少年」から来ている。魚が突然変異して誕生した巨大魚怪獣ムルチを封印するため、ホームレスの姿で地球にとどまっていたメイツ星人を、周囲の住民は、理由もなく排斥し痛めつけ、ついには殺害する。メイツ星人が死んで封印を解かれたムルチが暴れまわると、慌てて助けを求める人々にウルトラマンは思う。「コンナ人間ドモヲ助ケル必要ガアルノカ?」と。

本作の主人公・も、小中高と苛烈ないじめを受けてきた。大叔父の修仁が営む喫茶店「赤いんこ」は、行生にとってシェルターのような場所だ。サブカルオタクになることで出口のない日々をしのぐ行生と、沖縄戦に従軍した修仁の痛ましい過去が、言われなき暴力に抑圧されてきた沖縄の物語として、いつしか重なり合っていく。

沖縄生まれの著者、豊永浩平は、琉球大学在学中の21歳の時に『月ぬ走いや、馬ぬ走い』で群像新人文学賞を受賞し、作家デビューした。同作で野間文芸新人賞も受賞。前作同様、沖縄の方言とサブカルをサンプリングした文体で、沖縄の人間がファミリーヒストリーとして語る沖縄の歴史は、ほとばしるような熱を持ち迫ってくる。

ヒーローより怪獣に惹かれるのは踏みつけられ、傷ついてきたからだ。基地の壁にグラフィティを描くことで突破口を見出そうとする行生。行生をいじめから救うヒーローになりたかった。性加害の危機に晒されたは狂おしく踊る。まだ白紙のむるち(怪物)たちの咆哮に胸を衝かれ、彼らと伴走するうち、自分の中のなにかが牙をむく。誰もが言われなき暴力にさらされているいま、必読の一冊。