弁護士でありながら、ピン芸人として活動する、こたけ正義感。2024年から続けている単独ライブ『弁論』は、マイク1本の漫談スタイルで、社会問題をベースに自身のエピソードも交えながら、次々と笑いを生み出すスタンダップコメディである。大きな注目を集めるきっかけとなったのは、24年12月に開催された、日本の司法史上最大級の冤罪「袴田事件」をテーマにした回だった。
「24年9月、袴田事件は死刑から一転、無罪の判決が出たのですが、僕は弁護士として広報を担当していました。当日、弁護団の方々と判決を待っている間に、『裁判官の言っていることが不合理すぎて、もはや面白いですね』という話になったんです。確かに、めちゃくちゃな証拠捏造とか、薄々面白いなとは前から感じていて。リスクはあるけど、これを笑いにできたらすごいネタになるぞと思ってたんですよね。それでもう、やるしかないと」
事件における捜査や裁判の不合理を俎上に載せ、こたけがツッコミを入れていく漫談は、その社会的意義とクオリティの高さで、お笑いファンの枠を超えて、異例の大反響を巻き起こした。
「袴田事件は100年に一度の冤罪事件ですから、ある程度の反響は想定していました。だからこそ、次になにをやるかが大事でした」
前回の評判を受け、翌年に開催された『弁論』は、「生活保護」がテーマとなった。弁護士になりたての頃、こたけは生活保護に関わる仕事を経験している。
「その当時の経験からくる思いがいちばん大きかったのですが、生活保護基準の引き下げは生存権の侵害で違法だという、いわゆる『いのちのとりで裁判』の判決が昨年6月に出ました。そういったこともあり、個人的に差別という問題に関心が高まっていたんです」

さらに、こたけは大学の卒論を「貧困は自己責任か」というテーマで書いている。「派遣切り」が流行語にノミネートされた09年のことだ。「これはいまにつながる深刻な問題」という意識がずっとあった。
「社会問題を笑いのネタにするのって、海外のスタンダップコメディを見ると当たり前のことじゃないですか。僕も『弁論』をやるにあたっては、かなり影響を受けました。なかでも『ハンナ・ギャズビーのナネット』という作品は、人種や性別などを笑いにするスタンダップコメディのお約束をあえて一切やらずに、ひたすら受けてきた被害とかをシリアスに語っていて。こんなこともできるのかと、幅の広さに衝撃を受けました」
スタンダップコメディでは、コメディアン自身のルーツや文化的背景を前提にすることで、語りに「軸」が生まれ、それが笑いの推進力となるのが定番だ。
「もし僕がやるのなら、弁護士というのはなによりの軸になる。その軸があれば、事件や社会問題を扱うのも自然な流れになるし、それにスタンダップコメディでは、笑いだけでなく、途中に本気で聞き入ってしまう深刻な話が普通に入っているんですよね。だったらそれを弁護士として、日本でやればいいんだと思ったんです」
一方、芸人が社会的・政治的イシューを笑いのネタにすることについては、常に議論が巻き起こる。
「僕はイデオロギーが分かれるものはネタにしないと決めています。なので、冤罪は許されない、必要な人に生活保護が支給されないのはおかしい、そういった満場一致で合意がとれることだけを扱う。場の盛り上がりを考えたら、むしろ、イデオロギーの片方に立って、もう片方を糾弾するようなやり方のほうが熱狂は生むはずでしょう。でも、それでは広がりがない。僕は日本でもスタンダップコメディをメジャーにしたいし、王道の笑いを追求して、全員がちゃんと笑えるものをつくりたい。それが弁護士を名乗りながら芸人として活動している僕のできる、最大の社会貢献であり、恩返しだと思っているんです」
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PICK UP
2024年から続く、こたけ正義感の単独ライブ。25年11月と12月に行われた第4回公演は、いずれもチケット即完売。YouTubeで期間限定公開され、160万回以上再生された。
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PERSONAL QUESTIONS
最近よく聴いている音楽は?
jo0ji(ジョージ)さん。お父さまが漁師で、ご自身も鳥取の漁港で働きながらミュージシャンをしている方です。そのバックグラウンドもいいし、音楽だけでも超かっこいい。
お気に入りの音声コンテンツは?
『又吉・児玉・向井のあとは寝るだけの時間』というNHKラジオの番組。仲良しの芸人3人が、力を入れずにじゃれ合いながらしゃべっているのが本当に心地いい。
憧れの人は?
自分が芸人になってから改めて憧れたのは、爆笑問題さんとバナナマンさん。あのキャリアで、超多忙のなか、ネタをやり続けていることのすごさを痛感します。
本当に落ち込んだ時にやることは?
嫌なことを紙に書く。書いたら処分する。ただ最近は、それがChatGPTに吐き出すことに変わってきました。相談相手として優れすぎです、あれは。
いま注⽬したい各界のクリエイターたちを紹介。新たな時代を切り拓くクリエイションと、その背景を紐解く。