【角野隼斗の新境地】現代のスターが描くショパン 畏敬と革新が交差する一枚

  • 文:山澤健治(エディター)
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【Penが選んだ、今月の音楽】
角野隼斗『CHOPIN ORBIT』

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1995年、千葉県生まれ。2018年にピティナ特級グランプリ、25年にはレナード・バーンスタイン賞を受賞。また、オーパス・クラシック賞2025を史上初の2部門で受賞。23年よりニューヨークを拠点に活動を展開している。YouTubeでは「Cateen(かてぃん)」名義で発信を続け、登録者数150万人、総再生回数2億回を突破。

角野隼斗は現在の日本を代表するクラシック音楽のアーティストだ。そう強く実感したのは、先日開催された全国ツアーの東京公演。クラシックではシニア層中心、あるいは女性ファンばかりと特定の客層に偏るのが一般的なのだが、彼のコンサートでは老若男女、世代を超えた聴衆がまんべんなく会場であるサントリーホールを埋め尽くしていた。彼こそがいまの時代に求められているスターなのだ。

この時はグランドピアノ1台だけの演奏だったが、2022年のフジロックや24年の日本武道館の際などのように、複数の鍵盤楽器を用いて新たな表現を開拓しているのも角野を語る上では欠かせない。1月21日にリリースされた『CHOPIN ORBIT』では、アップライトピアノに繊細な細工を施したフェルトピアノを用いた。ショパンの楽曲に基づいて書き下ろされた新作「プロローグ」ではまるで純真な子どもの夢を思わせる幻想的なサウンドを引き出したり、「雨だれのポストリュード」ではジャズのウッドベースのような音色に変化させたりと、アナログとデジタルを掛け合わせて生み出される独創的な表現に耳を奪われる。

こうしたショパンへのオマージュとなる角野による作編曲が、アルバムの中でショパンのオリジナルと交互に併置されていくのがとにかく刺激的。オマージュ作にはその原曲と共通する音型が取り入れられているものの、スタイルはまったく異なる。にもかかわらず、流れはとっても自然で、かえってショパン作品の新鮮さが際立つのだから驚かされる。

一方、本作の核となる「幻想ポロネーズ」では、グランドピアノ1台で真正面からショパンと向き合う。これがまたショパンへの畏敬の念と謙虚な愛が伝わる見事な演奏だ。どれほどこの作曲家に共感し、心を寄せているかが嫌でも伝わってくるはずだ。着実に新たな歴史を切り拓いている。

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