愛するものの喪失と芸術を巡る、 シェイクスピアと家族の物語『ハムネット』ほか【今月の映画3選】

  • 文:児玉美月(映画文筆家)
Share:

今月のおすすめ映画①『ハムネット』
愛するものの喪失と芸術を巡る、シェイクスピアと家族の物語

①mainのコピー.jpg
野生的な魅力を備えたアグネスに新たに息を吹き込むのは、本作でアカデミー賞主演女優賞も有力視されるジェシー・バックリー。『aftersun/アフターサン』などで知られるポール・メスカルは繊細で人間味のあるシェイクスピア像を浮かび上がらせた。名優たちの演技にも注目だ。© 2025 FOCUS FEATURES LLC.

ウィリアム・シェイクスピアが1601年ごろに手掛けた、誰もが知る有名な戯曲『ハムレット』。本作『ハムネット』は、マギー・オファーレルが2020年に著した同名小説を原作とし、いかにしてこの戯曲が生まれるに至ったかを独自の解釈で描き出す。家を持たない漂流者の女性を主人公にした『ノマドランド』(20年)が第93回アカデミー賞で作品賞と監督賞を見事受賞し、国際的に高く評価されるクロエ・ジャオがメガホンを取った。

物語の舞台は16世紀まで遡る。ラテン語の教師をしていたウィリアム・シェイクスピアと、森を愛し、未来を予知する不思議な能力を持つアグネスが、出会ってすぐに惹かれ合う。ふたりはやがて3人の子どもをもうけるが、その幸福のさなかでアグネスは、子どものうち誰かひとりを失う予感に苛まれる。一方ウィリアムは、演劇でのキャリアを築くために家庭を離れ、ロンドンへと移住した。父親不在にもめげずアグネスは子どもたちを必死に育て上げていくが、息子のハムネットがペストに罹患し、わずか11歳の若さで息を引き取ってしまう……。

芸術によって傷つけられ、そして救われた人間の姿を、詩情豊かにスクリーンに立ち上げる。本作における芸術とは、現実と虚構、生と死、悲嘆と喜悦の境界線を溶解させる魔力を帯びた崇高なものである。さらに、数々の映画で音楽を手掛けてきたイギリスの作曲家マックス・リヒターが参加。SF映画の名作『メッセージ』などでも使用されている著名な楽曲「On the Nature of Daylight」が、ラストに向かって観客のカタルシスを一層盛り上げる。時代が遠く隔たっていようと、人が生きていく上で決して避けては通れない、愛する者の喪失という本作の普遍的なテーマは、広く多くの者の心を動かすに違いない。

②sub7.jpg
© 2025 FOCUS FEATURES LLC.

『ハムネット』

監督/クロエ・ジャオ
出演/ジェシー・バックリー、ポール・メスカルほか
2025年 イギリス映画 2時間6分 4/10よりTOHOシネマズシャンテほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

---fadeinPager---

今月のおすすめ映画②『落下音』
北ドイツの農場を舞台に描く、4つの時代と4人の少女たち

③★main.jpg
© Fabian Gamper-Studio Zentral

北ドイツのとある農場を舞台に、1910年代、40年代、80年代、そして現代の4つの時代にそこで生きる者たちを描く。彼らの記憶は互いに深い場所で共鳴している。映画は4人の少女たちが未知なるものとして見つめる「性」や「死」といった人生に密接に絡む事象を、メタフォリカルな映像によって探究。同時に浮かび上がるのは、世界大戦や東西分断といったドイツという国が持つ固有の記憶でもある。第78回カンヌ国際映画祭で審査員賞受賞。

『ブゴニア』

監督/マーシャ・シリンスキ
出演/ハンナ・ヘクト、レア・ドリンダほか
2025年 ドイツ映画 2時間35分 4/3より新宿ピカデリーほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

---fadeinPager---

今月のおすすめ映画③『ソング・サング・ブルー』
ヒュー・ジャックマンが演じる、実在の歌手の波瀾万丈な人生

④main.jpg
© 2025 Focus Features LLC. All rights reserved.

アルコール依存症とベトナム戦争によるトラウマを抱えていたマイクが、ある日同じく音楽に対して熱い情熱を持っていたクレアと出会い、再び人生が輝きだす。ふたりはアメリカの国民的歌手ニール・ダイアモンドのトリビュートバンド、ライトニング&サンダーを結成し人気を博するものの、とある悲劇が襲う……。主演のヒュー・ジャックマンとケイト・ハドソンの歌唱が胸を打つ、歌手マイク・サルディーナの驚くべき人生を基にした一本。

『ソング・サング・ブルー』

監督/クレイグ・ブリュワー 
出演/ヒュー・ジャックマン、ケイト・ハドソンほか
2025年 アメリカ映画 2時間13 分 4/17よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります