ミニはどこへ向かうのか? 「カントリーマン」のサイズにいたっては本家BMWの「X1」超え。せめて走りの「ジョン・クーパー・ワークス(JCW)」は、あの日の君でいてくれるだろうか? ゴーカートフィーリングは? EV化ってそこのところどうなの? 頭の中は、疑問符でいっぱいだった。
ミニマムで速い。その反骨はEVでも健在
そもそもBMWグループになってから、歴代JCWは一貫していた。強固なフレームとカッチカチの足まわり、よく回る直列4気筒エンジンで、街中をピンボールみたいに駆け巡る。EVになっても、その走りは週末のフットボールスタジアムの熱狂が含まれ、懐古的なのに甘くないブリットポップのリアリズムに共鳴する。サイズはミニマム、でも速いという反骨精神はフィッシュ&チップスのタルタルソースとビネガーのコクと酸味の合わせ技に似ていて、ガイ・リッチー監督作品の登場人物みたいな、ソフトになるぐらいなら迷わずタフを選ぶロンドンらしい心意気の表れにほかならない(笑)
そもそも、なんでトルクステアを抑えないんだろう? EVになっても釣針にトリッキーな魚がかかったようにビビビっとトルクステアは出るし、ホイールスピンだってする。とはいえ、ノーマル比で約310㎏の重量増と引き換えに、かつての「体調が悪い時には乗りたくない」ほどハードコアだった一面を脱ぎ捨てた。
走りはいまだに刺激的だし、人力トラクションコントロールに優れた貴方の足技なら、街をサーキットに変えるほど速い。それでも、もうわざわざ疲れにいくようなクルマではなくなっていた。ハンドリングはタイトで、ブレーキも回生ブレーキとあいまって利きは強力。峠の下りでもゆるぎない信頼感がある。ドライブした感じはあくまでも「愉しさ」であり、拍子抜けするほど快適でもあった。
インテリアは、“光の劇場”へと進化した
そしてやっぱりインテリアとUIの進化が目覚ましい。円形センターディスプレイに広がるグラフィック体験は、コンテストレベルの意気込み。たとえばドライブモードを「ゴーカート」や「グリーン」といった語感で提示し、グリーンではアクセルを踏むとリスが走り、回生ブレーキをかけると鳥が羽ばたく。街に溶け込みながらメッセージを投げかけるストリートアートのようにインフォティメントと人間味が共存している。
インテリアだって特筆したい。夜はLEDがモードに応じて色調を変え、小劇場の照明演出のように室内を彩る。ダッシュボードにはリサイクル素材を使ったファブリックが張られ、間接照明がその表面をやわらかく照らす。よく見るとそれはデジタル信号の乱れ(グリッチ)から、JCWのモチーフであるチェッカーへとグラデーションを成している。
メカニカルな熱狂をデジタルに置き換えながらも、ユーモアとウィットを忘れない。その感覚は、80年代に「シンセポップ」を生んだニューウェイブカルチャーの新しさにも似ている。EVになったJCWは、静かで速いだけの新時代のホットハッチではないし、繰り返される歴史の典型でもない。それは未来のロンドンを走る電気とグラフィックで再構築したミニ。そのイメージは断然、現実の先を走っている。
ミニ ジョンクーパーワークス エレクトリック
監督/吉田恵輔
全長×全幅×全高:3,860×1,755× 1,460㎜
モーター:交流同期式
最高出力:258PS
最大トルク:350Nm
走行距離:421km(WLTCモード)
駆動方式:FF(前輪駆動)
車両価格:¥6,160,000
問い合わせ先/MINIカスタマー・インタラクション・センター
TEL:0120-3298-14
www.mini.jp