【アメリカ流EV】キャデラック「リリック」はピックアップより断然欲しい!? 東京の景色を拡張現実で上書きするEV 第231回東京車日記

  • 写真&文:青木雄介
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キャデラック独自の「アートとサイエンス」哲学により、ミニマルで未来的なフォルムを実現。

欧州の高級EVが北米で伸び悩むなか、キャデラックを擁するGMは好調なのね。その理由は、EVのSUV、「リリック」に乗ってみると一発回答なのだった。

アメリカ流EVの“正解”がここにある

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33インチ一体型ディスプレイにサステナブル素材を組み合わせ、アンビエントライトで高級感を演出。

まず、ヴィラン御用達のような押し出しとSF感のあるデザインが格好いい。まるで街ごと拡張現実で上書きするように、風景が近未来へとリブートされてしまう。ここ10年磨き続けてきた「キャデラックらしさ」が、EV時代とピタリと噛み合っているのだ。

その「らしさ」とは、強い存在感を纏う外観と、室内体験を飛び抜けて快適にする姿勢だ。

リリック標準のAKG製19スピーカーは、ノイズキャンセリングと呼応して、音の粒子を空間に浮かべる。まるで深夜に聴く坂本龍一の『async』のように一つひとつの楽器が浮遊し、立体的に広がる。これはEVならではの強力な“隠し技”に違いない。

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ヘッドレスト内の音響ユニットはおもにノイズキャンセリング機能に使用される。

走りはとてもコンサバティブですよ。EVにありがちな電子音や未来的演出はなく、静かでなめらか。自然吸気エンジンのようなリニアな加速と、ぐっと踏み込むとシュルルルと聴こえるタービンが回るような演出が、大人の遊び心を感じさせる。回生ブレーキは二段構えでワンペダルドライブも可能。驚くのはそれと意識させずに制動する、歌舞伎役者が足を運ぶときの間合いのような、すっとしたかかり具合に他ならなかった。

やっぱり先達の成功モデルであるテスラを猛烈に研究していて、それとは異なる高級車の選択肢として個性を主張している。巨大SUVの「ハマーEV」まで共用するBEV3プラットフォームと次世代バッテリーにより、開発コストもぐっと抑えられている。

欧州勢にはない、合理と情緒のバランス

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始動時に投影されるディスプレイ画はノワールな世界観を演出。

正直なところ、この高級車性能に到達するのに、余計なコストを消費している印象がない。そもそもEVはガソリン車より部品点数が少なく、機械ならではの個性が出にくいのね。そのため差別化はデザインや世界観、室内の体験価値に寄ってくる。その点からいくと欧州勢はこれまでのガソリン車のイメージを踏襲してしまう傾向にあり、重量も値段もかさみがち。

結果、それほどガソリン車から大きな変化を感じさせない欧州ブランドEVに、物足りなさや価格負担を感じた顧客が、アメリカらしい感性と実用をバランスし、はっきり進化しているキャデラックに流れてきているのではないか。そう、シネフィルで鳴らした映画通がマーベル映画の魅力を再確認するようなものかも(笑)

EVが変える、ブランドと愛国心の関係

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クーペ的なルーフラインと一体型LEDテール。空力効率を考慮したリフトゲートデザインを採用。

ここで思い出すのが、トランプ大統領が「日本はもっとアメリカのピックアップを買え」と言った話。正直、日本にフルサイズのピックアップは必要ないけど、リリックのポテンシャルなら“買いたいアメリカ車”の筆頭になれるはずなのね。

中国で国産EVが売れるのは、自国ブランドを選ぶことが「最新を手にすること」と同義であり、愛国心をもくすぐるからに違いない。北米でキャデラックのEVが選ばれるのも同じで、性能でブランドの差がつきにくくなったいまだからこそ、価格で選ばれるし、あえてアメリカのブランドによるEVを選びたくなるのかも。これって単なる動力源の変化ではなく、EVがゲームチェンジャーだからなのかもしれない。

キャデラック リリック

全長×全幅×全高:4,995×1,985×1,640㎜
モーター:誘導モーター、永久磁石
同期式モーター2基
バッテリー容量:95.7kWh
最高出力:522PS
最大トルク:610 Nm
走行距離:510km(WLTP)
駆動方式:AWD(デュアルモーター全輪駆動)
車両価格:¥11,000,000

問い合わせ先/ゼネラルモーターズ・ジャパン
TEL:0120-711-276
www.cadillacjapan.com