【ディプティック新作ラズリオ】クジャクの羽をテーマにした香りが登場。調香師クォンタン・ビッシュが語る創作秘話

  • 写真・文:一史
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ディプティックの新作オー ド パルファン「ラズリオ」の発売記念で来日した調香師のクォンタン・ビッシュ。

フランスのティプティックから2024年に登場した「レ ゼサンス ドゥ ディプティック(Les Essences de Diptyque)」コレクションは、プレミアムに位置づけられるワンランク上の香り。プレミアムといっても単に高級素材を使う考え方ではなく、一点一点の調香に徹底的にこだわった仕上がりだ。

初回のラインナップは5型で、4名(3組)の調香師が制作を担当。同コレクションは調香師がアートのごとく作家性を発揮できる場でもある。ディプティックは彼らに自然界のモチーフをイメージワードとして投げかけた。そのワードは睡蓮、サンゴ、マザー オブ パール、バーク(樹皮)、砂漠のバラ(デザートローズ、またはストーンローズ)。これらのワードを調香師が自由に解釈して5種類の香りを創造した。

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プレミアムコレクションに新作「ラズリオ」が登場

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プレミアムコレクション「レ ゼサンス ドゥ ディプティック」に属するラズリオ。100mL ¥47,410

そのレ ゼサンス ドゥ ディプティックに、このたび新たな1型が加わった。クジャクをイメージワードにした「ラズリオ(Lazulio)」である。調香担当のクォンタン・ビッシュ(Quentin Bisch)が発売記念の25年10月に来日。彼を訪ねて香りが生まれたストーリーを探った。

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ラズリオのイメージワードはクジャクの羽。

クジャクと聞くと皆さんはどのような印象を抱くだろうか。舞台衣装や帽子が思い浮かび、華やかでゴージャス、夜のシーンなどが連想されるかもしれない。ところがビッシュが調香したラズリオには、こうした印象に縛られない爽やかさがある。まろやかで穏やかに感じる人も多いのではないだろうか。そのニュアンスの背景には、ビッシュがクジャクの羽と深く向き合った事実がある。彼が香りをつくった経緯を次のように語った。

クジャクの羽を“香り”で表現するという挑戦

「まず最初にディプティックからクジャクのテーマが提示されました。そこからイメージを膨らませることになりました。羽の複雑な色の混ざり具合をどのようにオー ド パルファンにするかを調香の課題に。クジャクの羽は息を飲むような美しさがあります。そしてよく見ると異なる色の輪が連なっています。このコントラストを香りで表現したのがラズリオです」

彼はインタビュー中に“コントラスト”という言葉を何度も繰り返した。ただラズリオに異質な香りのぶつかり合いを感じる人は多くないかもしれない。香料が自己主張せず全体がバランスよく調和したオー ド パルファンだからだ。ソフトな甘さも漂う。コントラストは調香師のクリエーションにとって重要な要素なのだろう。例えば絵の具の紫の色をつくるのに、青と赤を混ぜ合わせるように。

「確かにラズリオには明るさが感じられるでしょう。とくに肌につけはじめのときは。爽やかでジューシー、クジャクらしいベロアのような滑らかさと共に」

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主な香料はルバーブ、ローズ、ベチバー

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世界最大の香料メーカーであるスイスのジボダンに所属するビッシュ。

ディプティックはこの香りを「ウッディアンバー」のグループに分類している。使われた主な香料は、ルバーブ(酸味のある野菜)、ベンゾイン(安息香)、ローズ、ベチバー。

この香りをつけてほしい人物像や、使ってほしいシチュエーションがあるのかビッシュに尋ねてみた。彼は次のように即答した。
「ノン!なにもありません。私がつくる香りはいつも使う人に自由に解釈していただきたいのです」

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香水パッケージはアーティスト、ナイジェル・ピーク(Nigel Peake)によるデザイン。紙箱にはクジャクの羽が水彩画で描かれている。

演劇から香水へ。異色の経歴を持つスター調香師

ビッシュはフランスの名門調香学校「ジボダン・パフューマリースクール」に5年間通い、現在はパリの一流モードメゾンの香水も手掛けている。“スター調香師”とも称される人物である。調香師になる前は演劇の舞台監督を務めていたユニークな経歴の持ち主でもある。

「香水も舞台のようだと考えています。舞台上では一脚の椅子でも照明の当て方で様々な印象に姿を変えますし、観ている観客の椅子の解釈も一人ひとり異なります。今回のラズリオも皆さんが毎日付け替えたり、気分転換に使ったり、ときには誰かのために肌につけたり。お好きなように『香りの演劇』を楽しんでください」

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日本から得た1000のインスピレーション

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「自分の作風はアートとデザインの中間」と語るビッシュ。

穏やかでニュートラルな服を優雅に着こなすビッシュに会い彼の様子を眺めていると、日本の美意識と通じる何かが感じられた。今回が初来日ではないように思えて、過去に日本を訪れた経験があるか尋ねてみた。すると、
「これで3回目です。以前は友人たちと旅行で来ました」

日本滞在で調香に役立つインスピレーションは得られたのだろうか。
「もちろん!その質問にちゃんとお答えするなら、1000個くらい出てきちゃいますよ(笑)。京都の嵐山の苔の道、富士山の光景、温泉の湯気、そば茶……。梅酒もいいですね。いつか香水に使ってみたいと考えている香りです」

ラズリオの香りに私たちの心が沁み入るのは、ビッシュの趣味志向とリンクするからかもしれない。もし世界中の人々を魅了する彼の仕事に日本の美が影響を与えているなら、日本暮らしの我々としてこれほど誇らしいことはない。

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「レ ゼサンス ドゥ ディプティック」コレクション全6型。

ディプティック ジャパン

www.diptyqueparis.com

 

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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