
ポルシェ 911シリーズ初のハイブリッドとなった「911 カレラ GTS」。同じタイミングで発売されたエントリーモデル、「カレラ クーペ」とは深くて大きな違いがあった。空冷から水冷へ、自然吸気からターボへと切り替わったときのように、911は時代の変化の波にさらされてきた。その系譜の中で、今回のハイブリッド化は第三の転換点と言えるかも知れない。
911のハイブリッド化を、カレーで例えるなら…

そのたびに賛否両論を巻き起こしつつも、結局は次の時代の基準になってきた911の転換点。今回のハイブリッドも、同じ問いかけをファンに投げかけているものの、この転換点は問題になるどころか、喝采の嵐に違いない。変化といえば排気量が600ccアップの3.6L水平対向エンジンが搭載され、これに鳴り物入りのハイブリッドによるモーターパワーが加わる。
カレー店で例えるなら、開業以来初となるビーフカレーへの挑戦といえるだろう(笑)。定番のルーのチキン(カレラクーペ)をビーフへと変え、それとともに具材のコクを受けとめるうまみ成分を強くするため、きのこを入れた。隠し味に生クリームをほんの少し入れ、スパイスの辛味も上げた。ただ名店のカレーの味はブレていない。創業からのファンは「相変わらず美味しいね」と言ってくれるはず(笑)
このビーフであるハイブリッドが曲者にして切れ者なのね。普通いまどきのPHEVだと思うでしょ。そもそもポルシェにはイエローグリーンのラベルが象徴的なPHEVモデルがあって、業界に先駆けて「パナメーラ」や「カイエン」にラインアップされていた。ポルシェ電動化のイメージを牽引していたし、速さに振った同じシステムが911に載るんだとばかり思っていたんだな。
加速もハンドリングも別次元、「Tハイブリッド」の走り

ところが「カレラ GTS」に搭載されたハイブリッドは、モーターが変速機であるPDKとターボチャージャーに内蔵されるというもの。モーターが車軸を直接まわしたり左右の差動をつけたりする他のPHEVとはまったく違う構造ですよ。むろんプラグインによる充電機能もなし。
ポルシェはこのシステムを「Tハイブリッド」と呼び、911のメカニカルフィーリングをより先の未来に残すための延命技術とした。環境対応のための電動化のみならず、ピュアな走りを突きつめるための電動化。この二律相反を整合する哲学こそが、ポルシェをポルシェたらしめていると感じさせるハイブリッドなんだ。

乗ってみると、これがとてつもない最適解なのがわかる。PDKに搭載されたモーターが低回転のトルクを増幅し、ターボチャージャーはアクセルの踏み込みに応じて、即時にブースト圧を強化する。まるで「カレラ クーペ」にフィジカルトレーナーをつけて筋力アップしたみたいに、ロジカルに骨太かつマッシブになっている。この差異は完全に排気量アップのそれと錯覚するぐらいなのね。
低速で流していても、かすかに聞こえてくるキーンというターボが超高速回転していてエモすぎる。カブリオレだと全身で体感できるし、PDKの鋭いシフトマナーに、コーナーにおけるガチーンと音がしそうなオンザレール感も素晴らしい。車重も「カレラ クーペ」より80kgほど重くなっているものの、1.6トンに満たない車重は全然軽量だし、パフォーマンスは爆上がりしている。
峠で際立つ“911らしさ”、名店の値付けは納得の一皿

さらにポルシェのエンジニアリングの凄さを、目の当たりにするのが峠だ。カレラクーペよりパワーが大きくなったぶんだけ、足まわりも車体の剛性感もスケールアップしている。新型である992型のバージョン2の特徴である車体コントロールの素晴らしさと、原点回帰のRR(リアエンジン後輪駆動)らしさもより強く印象づけられている。後ろに重心があるからこその、フロントのシャープな入り方とリアの粘り。特徴的なアンダーからオーバーに豹変するステアフィールを扱いやすくし、「911らしさ」として表現されているのを感じる。
値段はというと、エントリーの毎日食べれるチキンカレーが¥1,000だとすると、GTSビーフはカブリオレという名のサラダもついて、ランチコースの¥1,500かな(笑)。ちょっと高く感じるかもしれないけど、その違いは間違いなくあるから、大いに迷うべき(笑)。まぁ、この値付けがものすごく真っ当だと感じさせるのも、名店ならでは。あらためて「カレラ GTS」は、役付き911シリーズの入門編としても最適だと思ったんだ。

ポルシェ 911 カレラ GTS カブリオレ
全長×全幅×全高:4,555×1,870×1,295mm
排気量:3,591cc
パワートレイン:水平対向6気筒+Tハイブリッド
システム最高出力:541PS
システム最大トルク:610Nm
駆動方式:RR(リアエンジン後輪駆動)
車両価格:¥26,330,000~
問い合わせ先/ポルシェ コンタクト
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