BMWの二輪部門「BMWモトラッド」が「ビジョンCE」を発表。2025年9月にミュンヘンで実車が公開された。

バッテリー駆動のスクーターで、スタンドがなくても自立するなど、画期的な技術が採用されたことも話題だ。
ユニークなデザインと最新の技術
ビジョンCEと名付けられたこのモデル。未来の都市型二輪をうたうコンセプトだ。汎用性の高さと、最新の電子技術を活かした構成で注目に値する。

デザインはユニークだ。スクーター型の車体に「ケージ」と呼ばれる2本の金属製のチューブが取り付けられている。
ケージに補助ランプをはじめ、さまざまなアタッチメントが装着可能なコンセプト。純粋にライディングを楽しむひとから、荷物の運搬まで多様な目的に対応するデザインだ。
BMWが提案する都市型二輪車とは
都市型二輪車のデザインコンセプトは、BMWが2000年代初頭から連綿と手掛けている。

最初は、2000年に発売された「C1」スクーター。アルミニウムを使ったケージ構造をもった車体に、単気筒4バルブのロータックス製125ccエンジン搭載。開発の目的として「気楽に乗れる」ことがうたわれていた。
私はこのC1にスペインで試乗したことがある。やや重心高が高めの操縦性には慣れたが、125ccの12Nmのトルクはアンダーパワーで、回転を上げていないとすいすいと走れなかった。
すぐにBMWモトラッドでは175ccの仕様を追加したので、同じような声が少なからずあったのかもしれない。
とはいえ、ベルトーネで組み立てていた車体のデザイン性は高く、“心意気やよし”だ。二輪のモビリティをさまざまな角度から追求する姿勢は、たいへん好感がもてるものだ。

そのあとも「C」シリーズなるスクーターは、コンセプト、市販ともにいくつも登場。最新形が、25年の「ビジョンCE」なのだ。
発表会で語られたコンセプト
「都市型e(イー)モビリティに対する、これまででもっともおどろくべきコンセプト」

ミュンヘンの発表会場で、BMWモトラッドでヘッド・オブ・デザインを務めるアレックス・ブッカン氏は、語った。
“車輪がふたつの四輪車”とも呼べるぐらい、「気楽に乗れる二輪車」というコンセプトを継承。
ビジョンCEでは、ヘルメットをはじめ、脊髄パッドも、エアバッグ入りのライディングジャケットも不要と、強調されている。

ヘッドレストレイント一体型のハイバックシートの背後に、小さなネットのケースが据え付けられていて、そこにオーディオスピーカーを入れる仕掛けだ。
使い勝手を考えて細部までていねいに目配りされているのは、実際にドイツをはじめ欧州各地で、ビジョンCEで提案したようなモビリティへのニーズが高いからだろう。
こんなバイクがあればいいと日ごろの思いを、デザイナーたちがかたちにしたのが、ビジョンCEではないか。

スタンドなしで自立する驚き
ビジョンCEは、バッテリー駆動の電動バイク。BMWモトラッドではじっさいにショー会場で短い距離を走ってみせてくれた。
スムーズな動きでライダー(実はBMWモトラッドのマルクス・フラッシュCEO)は気持ちよさそうに見えた。
驚いたのは、フラッシュCEOがひらりとビジョンCEから降り立ったあとだ。スタンドを立てていない。なのにビジョンCEは、倒れず自立している。
22年にホンダが発表した「ライディングアシスト2.0」も自立の技術だった。この技術は、サーボモーターで車体を左右にスイングさせる揺動機構と、前輪のステアリング制御と合わせて車体のバランスを保つというものだ。
ビジョンCEは近くで見ていると、前後にかすかに動いている。このシステムを搭載していることを知らなかった当初は、あれ、眼の錯覚かなと思ったぐらいだ。

そのあと、前出のブッカン氏が、側方に立ち、腕を伸ばしてビジョンCEに力を加えたが、倒れる気配なし。ほんの少しゆらゆらと動きながら自立している。
システムを停止されると、倒れてしまうそうだ。
「これまでになかった提案をエポックメイキングなデザインとともにできたと思います」
ブッカン氏は、プライドを感じさせる口調でそう述べた。このような技術とデザインのマリアージュこそ、BMWが得意とするところかもしれない。

発売は未定とのこと。ユニークな電動スクーターが公道を走り出すのを楽しみに待とうではないか。