サントリーの創業90周年を記念して、1989年に誕生したブレンデッドウイスキー「サントリー響」(以下、「響」)。名前に込められた「人と自然と響きあう」という理念のもと、いまや日本の感性を体現する存在として世界で愛されている。先日開催された「The Art of HIBIKI」では、5代目チーフブレンダーの福與伸二さんと、クリエイティブディレクターの古庄章子さんが登壇し、「響」のこだわりとその歩みについて語った。
ブレンドが生むハーモニー

福與さんは「響」を、「華やかな香り、豊かな余韻、そして繊細な調和」と語る。「山崎」の力強いモルト、「白州」の清らかなモルト、「知多」のなめらかなグレーン。それぞれの個性を重ね合わせることで、複雑だがまとまりのある味わいが生まれるとし、「どの原酒を残し、未来に託すのかが「響」づくりにおける最大の責任」と彼は言う。
テイスティングでは、蜂蜜や柑橘を感じさせるアメリカンオーク樽原酒や、濃厚なレーズンやチョコレートを思わせるシェリー樽原酒、日本ならではのミズナラ樽がもたらす白檀のような香りなど、「響」を形づくる多彩な原酒が紹介された。

「響」は、熟成年数によって異なる表情を見せる。福與さんが「最も開かれた存在」と語るのが「Japanese Harmony」だ。ローズやライチを思わせる華やかな香りと蜂蜜のような甘さが広がり、軽やかで飲みやすい。
これに対して「21年」では、長い熟成がもたらす伽羅香や熟した果実の芳醇さが際立ち、余韻は奥深く優雅に続く。「複雑でありながらどこまでも上品にまとまる、それが『響』らしさです」と福與さんは強調する。
さらに「30年」になると、厳選された長熟原酒が織りなす凝縮感と重厚さが広がり、一口ごとに時を超えるような深みを感じさせる。「最も難しく、しかし最も誇らしいブレンド」と彼が語る通り、30年は「響」の頂点にふさわしい存在だ。
装いに宿る美意識

古庄さんが語ったのは「響」のデザインに込められた美意識だ。ボトルに施された24面カットは、一日の24時間と二十四節気を象徴する。ラベルには1500年の歴史を持つ越前和紙を用い、光をやわらかく反射する伝統技法“ひっかけ”で仕上げられている。

さらに、書家・荻野丹雪による筆文字「響」は、墨の力強さと余白の静けさが共存し、日本的な感性を映し出す。ブランドカラーの「深紫(こきむらさき)」は位階で最上位を示す色であり、「響」が目指す“最高峰”の象徴でもある。
食と共鳴する新たな体験

今回の会場となった麻布台・ジャヌ東京「JANU GRILL」では、「響」に合わせた特別ディナーが用意された。ヒラメのタルタル、鴨胸肉のロースト、黒毛和牛のグリル。それぞれの料理がJapanese Harmony、21年、30年とペアリングされ、ウイスキーと食が響き合う新たな体験を演出した。一杯のグラスが食との出合いによって表情を変えるのも、「響」の奥深さのひとつだ。
アートへと昇華する響の世界観
響は六本木ヒルズで行われた「六本木アートナイト2025」に出展したが、それに先駆けて同イベントでも展示 。ウイスキーを味わうだけでなく、芸術や空間として体感させる取り組みは、まさに「The Art of HIBIKI」の名にふさわしい。「響」の世界観は、グラスの中を超えて文化体験へと広がる。
日本から世界へ羽ばたくウイスキー

サントリーの創業者、鳥井信治郎が掲げた「日本人の味覚に合う世界のウイスキーを」という夢は、「響」として結実した。福與さんのブレンド哲学や古庄さんのデザインが重なり合い、日本文化のアーカイブと未来が託されている。グラスを傾けるとき、感じるのはただの味わいではない。時間と文化が折り重なったハーモニーそのものだ。