新感覚の青春映画! 過酷な現実と幻想世界が共存する『バード ここから羽ばたく』ほか【今月の映画3選】

  • 文:細谷美香(映画ライター)
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今月のおすすめ映画①『バード ここから羽ばたく』
過酷な現実と幻想世界が共存、新感覚の青春映画

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主人公の父親を演じるのは、『イニシェリン島の精霊』などで知られるバリー・コーガン。主演のベイリーには学校での演劇しか経験のなかったニキヤ・アダムズが抜擢された。劇中で使われている音楽には、コールドプレイやブラーのヒット曲が並ぶ。

『 フィッシュ・タンク『』アメリカン・ハニー』など社会の周縁に生きる人々を描き、国際的に高い評価を得てきたイギリス人監督、アンドレア・アーノルド。日本ではこれまで映画祭などで上映されてきたが、ついに最新作である『バード ここから羽ばたく』が劇場公開される。本作をきっかけに、信頼すべきつくり手として、彼女の監督作を追いかける観客が増えることは間違いないだろう。

主人公は、その日暮らしの若い父と異母兄とともに、落書きだらけの団地に住んでいる12歳の少女、ベイリー。カエルの分泌物をドラッグとして売ろうとする父、荒んだ街で自警団を結成する兄。別居中の母は恋人のDVに苦しめられている。ひとりぼっちで世界をサバイブしようとしているベイリーが知り合ったのは、バードと名乗る風変わりな男。両親を探しているというバードとの出会いが、ベイリーの日常を少しずつ変えていくことになる。

ローカルな空気感を切り取りながら声なき声をすくい上げるアーノルド監督の眼差しは、イギリスの名匠ケン・ローチや『ANORA/アノーラ』でオスカーを獲得したショーン・ベイカーとも響き合う。本作をユニークで忘れがたいものにしているのは、過酷な現実とマジックリアリズムの共存だろう。ベイリーの前に現れるバードは、現実と虚構、彼岸と此岸の狭間から彼女に手を差し伸べる存在に思える。そしてベイリーがスマホで撮影した、空を舞う鳥、指先に羽を休める蝶のなんとポエティックなことか。質感の異なる16mmフィルムとスマホのフィルターを通した映像は、それでも世界は美しいと訴えかけてくるかのようだ。ひとりの少女の青春に光が差し込む瞬間を鮮やかに捉えた物語は、希望の気配を感じさせて幕を閉じる。

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© 2024 House Bird Limited, Ad Vitam Production, Arte France Cinema, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Pinky Promise Film Fund II Holdings LLC, FirstGen Content LLC and Bird Film LLC. All rights reserved.

『バード ここから羽ばたく』

監督/アンドレア・アーノルド
出演/ニキヤ・アダムズ、フランツ・ロゴフスキほか
2024年 イギリス・アメリカ・フランス・ドイツ映画 1時間59分 9/5より新宿ピカデリーほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画②『ふつうの子ども』
実力派監督が描き出す、いまを生きる“普通” の子どもたち

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© 2025「ふつうの子ども」製作委員会

小学4年生の上田唯士が好きになったのは、環境破壊への危機感を抱く意識高い系のクラスメイト、三宅心愛。心愛が惹かれている問題児、橋本陽斗も交えた3人が始めた“環境活動”がエスカレートしていく。現代を生きる子どもたちの心のやわらかさと危なっかしさを描き出したのは、『そこのみにて光輝く』『きみはいい子』の監督・呉美保、脚本・高田亮のタッグ。ナチュラルな子どもたちの表情はもちろん、模索する大人たちのドラマにも引き込まれる。

『ふつうの子ども』

監督/呉 美保
出演/嶋田鉄太、瑠璃ほか
2025年 日本映画 1時間36分 9/5よりテアトル新宿ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画③『ブラックドッグ』
“野良犬” たちの孤独を、美しく切り取った中華ノワール

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© 2024 The Seventh Art Pictures (Shanghai) Co., Ltd. All Rights reserved

2008年、北京オリンピックを目前に控えた中国。友人を誤って死なせてしまった青年が、刑期を終えて故郷に戻る。罪を背負った彼が出会ったのは、賞金が懸けられた一匹の黒い犬。“野良犬”同士、言葉を超える絆を結んでいくが……。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリと、名演技を披露した犬に贈られるパルム・ドッグ審査員賞をダブル受賞した中国映画。ゴビ砂漠の端にある街を、もうひとりの主人公のように切り取った映像も美しい。

『ブラックドッグ』

監督/グァン・フー 
出演/エディ・ポン、トン・リーヤーほか
2024年 中国映画 1時間50分 9/19よりシネマカリテほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

※この記事はPen 2025年10月号より再編集した記事です。