【京都の新グルメ】和食「くろどう」開業。監修の黒木純が語る“世界へ発信する第一歩”

  • 写真・文:一史
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和食「くろどう」のエントランス。かつて旧竹内栖鳳邸の玄関だった。

京都市でもっとも賑わう華やかな祇園エリアを抜けて、清水寺に上っていくルートの途中に、一念(年)坂、二寧(年)坂、三年坂がある。最初の一念坂に入る場所に佇む豪華な屋敷が「ザ ソウドウ 東山 京都」。門前に「竹内栖鳳邸跡」の石碑が鎮座するこの屋敷は、かつて日本画家の竹内栖鳳(たけうち・せいほう)の住居だった。昭和の最初期の建築で、大正時代に全盛だった京都の町家と風情を共有している。

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東山エリアのシンボル的な門構え。

現在は結婚式とレストランの「ザ ソウドウ 東山 京都」として運営されている。広大な庭を歩いて景色を眺めつつ、寺のように立派な日本家屋のなかで時を過ごす体験は京都観光の中でも特別なもの。ヨーロッパからの旅行者も予約して訪れる憧れの店になっている。

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結婚式場がある敷地には豊かな庭園が広がる。
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敷地内からは5重の塔も見える。近代的な建物が視界に入らない京都らしい景観を愉しめる。

これまでイタリアンだったザ ソウドウ 東山 京都のレストランが、2025年9月16日(火)より和食の「くろどう」に業態をリニューアル。この試みを監修したのが料理人の黒木 純(くろぎ・じゅん)である。東京・芝大門の割烹「くろぎ」を筆頭に、近年ではかき氷を展開する上野の「廚 くろぎ」、芝大門の「くろぎ甘味研究所」も大評判の和食のスペシャリストだ。
今回の京都のレストランのリニューアルにあたり、メディア関係者らを招いたモニター試食会が行われた。そのイベントへの参加体験をここにお届けしよう。

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イベント会場は部屋数が多い屋敷のうちの一部屋。
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吹き抜けの天井を回遊する2階の部屋も、レストラン・結婚式に活用されている。

1、2階に食事できる部屋が数多くあり、案内されたのは庭の景色が美しいスペース。床の間には竹内栖鳳の掛け軸が飾られている。
提供された料理は、通常のディナーコースをベースにこの日のためにアレンジされた特別コース。くろどうは、ランチはコースのみでディナーはアラカルトにも対応する。「好きなものを、好きな調理方法で、好きなだけ食べる」ことを提唱する自由度の高さが売りだ。「心の赴くまま、わがままにご堪能ください」と謳っている。コースでも一部をアラカルトに変更したり、できる限り対応してくれるようだ。日本流のもてなしの心が息づいている。

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選べるメインディッシュの食材。肉2種類、魚2種類。

コースのスタートはメインディッシュの食材選びから。調理法がそれぞれ異なり、ここでは「京都丹波高原豚のソテー 生姜ソース」をオーダー。いわゆる「生姜焼き」とのことだ。高級食材を馴染み深い調理方法で食べる体験に興味が湧いて豚に決めた。

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前菜の2人前大皿プレート。

前菜は2人前での提供。東京のくろぎと同様に丸い大皿に乗せて、季節の植物とともにサーブされた。

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シャインマスカットの白和え。

「前菜なのにデザート?」と思ったシャインマスカットだが、意外にもしっかりと料理になっていた。ヨーグルトのように見える白ソースは白味噌。「シャインマスカットの白和え」である。果物の酸味と甘さ、味噌の風味が舌に心地いい。

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素朴なポテトサラダがユニーク。

高級な食材に混じって、ホッとする素朴さをポテトサラダが演出。ベーコン添えの王道なポテトサラダだ。日本の食卓を想起させるこうした料理選びについては、のちに登場するメニュー監修の黒木さんのコメントをご参照いただければと思う。

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熱せられたプレートに載せられた胡麻豆腐。席でスタッフが味を刷毛でプラスしてくれる。

焼き胡麻豆腐は表面の固さと焦げた醤油の風味が印象的。熱々でふわふわの中身とのコントラストを存分に味わえる小品だ。

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料理は和モダン、建物と景色は昭和初期の日本。
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メインディッシュのひとつ、豚肉の生姜焼き。ご飯と味噌汁もほしくなる定食感覚だ。

メインディッシュが到着して思わず笑顔になった。まさしく生姜焼きだ!肉を覆うたまねぎ、添えられたキャベツが定食文化を思い起こさせてくれる。食欲を誘うこの料理は豚が高級食材であっても、甘い生姜ソースが心を家庭へと連れ戻す。品格溢れる伝統の日本家屋の室内で味わう、贅沢かつ懐かしい逸品である。

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古いガラス窓と格子がゆらぎを生む、洗練された日本家屋。
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そうめんと、うどんの中間の太さの半田麺を使った小器料理。

コースのシメとしてサーブされた「雲母 半田麺(+キャビアトッピング)」。シメという軽い気分で味わうには不釣り合いな豪華で濃厚な味である。

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深い甘みのウニと卵、それにキャビアの競演。

味のニュアンスは、わかりやすく言うと卵かけご飯に近いだろうか。もしくは親子丼の具材のような。ウニと卵がとろとろで、塩気が少ない上品なキャビアが風味と食感を添える。これほどの量のキャビアとなると3,500円のトッピング価格になるが、キャビアなしでも十分に満足できると思う。ミニマルな味わいが好きな人は、あえてなしにするのもひとつの選択だ。

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和食料理界の著名人、黒木 純。

シメの麺が来場者に出された頃に、黒木さんが満を持して登場。このために京都に来て、自身の店の営業のためすぐ東京に戻る過密なスケジュールでの登壇だった。
そんな黒木さんに、本日気になっていた質問を投げかけてみた。ここは高級な和食店なのに大衆的な料理が混じっている。黒木さんが提唱する和食の概念には、民衆に受け継がれた伝統文化が潜んでいるように思えた。その問いについての黒木さんの答えは以下の通り。
「和食は“お母さんっぽいもの”がいいと思っているのです。個人的にもそういう味が好きですから。この店は京都だけでなく世界に発信していく第一歩と考えています。日本人なら誰もがすぐ理解できるお母さんっぽさを、いかに海外の人に伝えていくかが課題ですね」
なるほど!だからこそわかりやすい高級料理と家庭的な味を一緒に出すコース提供が必要なのだろう。キャビアと生姜焼きを対等に並べれば、海外の人にも日本の家庭の味を自然に味わってもらえる。
「まさにその通りです!バランスが大事なんですね。提供の仕方を工夫して和食を広めていければと願っています」

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レストランのエントランスを入りすぐ横にあるバースペース。
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黒木さんの東京のスイーツ店でも提供している和栗のかき氷。
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「かき氷と呼ぶべきなのか!?」と考えてしまうほど水っぽさがなく濃厚な食べ応えの傑作。

最後のデザートは、これまで東京でしか味わえなかった黒木さんのスイーツ店のかき氷である。この「和栗のかき氷」は、キンキンに冷えた巨大なモンブランだ。被さったマロンペースト、和栗、内側の餡とほうじ茶クリームが絶妙にマッチして、サラサラの氷が穏やかに舌をリフレッシュさせる。これだけで一食分に相当するほどの大ボリュームだが、一滴残らず完食したほどの美味しさだった。

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ザ ソウドウ 東山 京都のチャペル。
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祇園四条駅から一念坂を通って清水寺に行ったことのある人なら誰もが目にしたことのあるザ ソウドウ 東山 京都。

予約、料金、営業時間などの詳細は、記事末の囲み欄に記載したくろどうの公式サイトをご覧いただきたい。
慌ただしく動き回る旅行者でも、次の旅はこの店を予約して長く時間を割いてはいかがだろうか。歴史的な建物や敷地を含め、いるだけで京都らしさを堪能できる。しかも予約困難と言われる東京のくろぎや、行列ができるスイーツ店とほぼ同じメニューも堪能できるのだ。観光ガイドに載り混雑してしまう前に訪れたい、京都の新名所の誕生だ。

くろどう

京都市東山区八坂通下河原東入八坂上町366
TEL : 075-541-3331
https://kurodoh.com/

 

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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