サウナブーム以前から続く「から風呂」の存在
まだ日本でセルフロウリュができる女性の施設が4つしかなかった2017年。わたしがサウナを好きになった年です。紀元前のことをBC(Before Christ)と言いますが、その頃はまさにBSB(Before サウナブーム)直前。今では日本中に素晴らしいサウナ施設が誕生して、セルフロウリュはもちろん、フィンランドさながら自然の中で入るサウナまでできあがりました。
そんなサウナブームとは完全に一線を画した、奈良時代からあり続ける日本最古のサウナが香川にあります。
サウナを好きになってから、ずっと行きたかったのに、行くまでに8年以上もかかってしまった「塚原のから風呂」。サウナを好きになって、いろいろなサウナを巡ってきましたが、「原点はここにありました、ありがとう」と、感慨深く自分のたった8年のサウナ人生を振り返ることとなった体験でした。
前置きは長くなりましたが、その古代のサウナ、というか蒸し風呂は香川県さぬき市にあります。
奈良時代から続く、日本最古の蒸し風呂
「風呂」はお湯に入るものですが、漢字を見ると「風」の「呂」。つまり昔の風呂にはお湯はなく、石や土で作られた部屋を熱い風で満たして中に入って、汗をかいていたんですね。まんま、サウナです。ただ、今のサウナみたいに部屋の中に熱源はおけないので、石室の中で木を炭になるまで燃やします。その火が消えた余熱で入ります。
ボランティアで守られる「から風呂保存会」
約1300年頃の奈良時代、高僧行基が讃岐へやってきて人々の病気を治すために作ったのがこのから風呂です。先祖代々この風呂番をしている一家がいたそうですが、さぬき市が管理運営をしていました。ただ、利用者が減ったため2007年に一度停止。その後、地元の有志の人たちが「から風呂保存会」を起こして、再オープン。今も会員のみなさんのボランティアで運営されています。
まずこの運営形態を聞いただけで、ありがたいですし、ここまで来てよかったなと思えました。
「ぬるい方」と「あつい方」、古代からの知恵
「ぬるい方」「あつい方」というストレートな表記もしびれます。ぬるい方とあつい方は、毎日変わります。長時間、石室で木を燃やして炭を取り出したばかりのほうは「あつい方」、そして「ぬるい方」は先に焚いていて時間が経っているほうですね。
から風呂へは服を着て入ります。中は狭く、頭が熱くなるので、頭巾をかぶって入ります。中に入ってみると、「これは一体どうなってるんだ?」という湿度。火を焚いているのでカラカラかと思いきや、かなり高温多湿。これはどうやっているのか、保存会の方に聞いてみないと!
しっかりとした高温多湿で、さらに着衣ということもあって、4、5分で滝汗。昔の風呂はお湯がなかったので、もちろん水風呂もなし。この日は7月のカンカン照りの日でしたが、熱い蒸し風呂にいたため、外の風がものすごく涼しい。
「あそこのサウナは水風呂がぬるい」、「あのサウナは水風呂チラーが入ってない」などという文句は、食べ物がなくて飢餓に苦しんでいる時に「この肉は硬すぎる」なんて言っているのと同じだなぁと思いました。あるものに感謝、あることに感謝です。さっきまで「暑い、暑い」と思っていた外気がこんなに気持ちのよいものに感じるなんて。すべては感じ方、考え方だなぁとここでもまた「から風呂ありがとう」の気持ちでいっぱいになりました。

湿度のことを伺ってみると、木が炭になったあと、塩水を含ませたムシロを炭の上に敷いて、そこにさらに塩水を撒くんだそうです。わたしが座らせていただいているのが、そのムシロでございます。
そしてこちらが明日には「あつい方」になっているだろう方です。ここまでダイナミックに火を燃やすとは想像していなかったので、感激です。
おもしろいのが、こんな大火事みたいなのに、この横を平然と歩いて脱衣場へと行きます。脱衣場のドアを開けたら、目の前にこの火ですからね。わたしも「アッチ!」とか言いながら火の真横を歩いていました。
燃え盛るあつい方は、どれだけ熱かったのかなぁと後ろ髪をひかれる思いで、から風呂を後にしました。
から風呂にやっと来られて、入ることができて、わたしの人生でやっておきたいことのチェックリストのひとつが達成できました。
行く前は、真夏に水風呂のない野外のから風呂なんて、時期間違えたかなー!なんて行く前は思っていましたが、なんのなんの。ありがたみが増した体験となりました。でもまた冬にも行ってみたいし、あつい方にも入ってみたい!
塚原のから風呂
住所:香川県さぬき市昭和1050-4TEL:0879-52-1202
営業日:木、金、土、日
営業時間:12時~21時
入浴料:¥700

文筆家、イラストレーター
コロラド大学大学院東アジア言語文明学科卒。2009年から外務省専門調査員として在シアトル総領事館勤務。在米中に出版した『COFFEE GIVES ME SUPERPOWERS』がベストセラーとなり世界5ヵ国で翻訳出版されている。サウナ愛好家でもあり、フィンランド政府観光局サウナアンバサダーに任命されている。著書に『週末フィンランド』、『エンジョイ!クラフトビール』、『コーヒーがないと生きていけない!』、『HAVE A GOOD SAUNA!』がある。
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コロラド大学大学院東アジア言語文明学科卒。2009年から外務省専門調査員として在シアトル総領事館勤務。在米中に出版した『COFFEE GIVES ME SUPERPOWERS』がベストセラーとなり世界5ヵ国で翻訳出版されている。サウナ愛好家でもあり、フィンランド政府観光局サウナアンバサダーに任命されている。著書に『週末フィンランド』、『エンジョイ!クラフトビール』、『コーヒーがないと生きていけない!』、『HAVE A GOOD SAUNA!』がある。
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