【ジュンヤ ワタナベ マン】時代の先を行く!?イタリアの手縫いシャツとのコラボに大人心がザワつく

  • 写真・文:一史
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ジュンヤ ワタナベ マンが、ついにクラシコイタリアに傾倒!?
とまでは言い切れないものの、来年の2026年春夏コレクションの展示会で素晴らしいシャツシリーズを目にしました。
イタリア・ナポリの手縫いシャツブランドとのコラボ!
マシンメイド(手縫いなし)のブランドも含みますが、複数の一流シャツブランドが製品をつくっています。
世に出回るファッションショーの写真では伝わらないこと。
「だから展示会のほうが楽しいんだ!」と力説したい服バカの気持ちは横に置くとして、今回の本題に入ります。
「動きやすく身体に沿う仕立てのよさ、再び」です。

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東京・コム デ ギャルソン本社にて開催されたビジネス(買付け)展示会。ジュンヤ ワタナベ マンがメインで打ち出したのは、ショーでもインパクトがあったゴブラン織りのジャケット。

流行とは巡り巡るもので、一昔前に流行ったアイテムが人気復活するなんてザラにあること。
かつて一世風靡したデザイナー、エディ・スリマンが2,000年代に打ち出したスリムスタイルに夢中になった大人は、現在のような1980年代風ダボダボファッションの再流行は想像もしなかったことでしょう。
そして刻々と時代は移り変わっています。
オーバーサイズの服に飽きてきた人が増加中。
ただし全身を細くすると、単に10年以上の前の人に見えてしまいます。
パンツはダボダボがまだ継続。
全身のシルエットにメリハリをつけ、上半身が細くて下半身はダボ、または上着の着丈を短くコンパクトにするのが新しい傾向です。

上半身がスリムとなれば、仕立ての技が問われます。
体型に合わせたパターン、整った縫製が必須になるからです。
(ダボ服はいい加減な仕立てでもごまかしが効く)
そこで再び脚光を浴びそうなのが、世界最高峰の紳士服製造国、イタリア。
フランスのハイブランドだって、テーラードジャケットはほぼすべてイタリア発注です。
シャツもまたしかり。
イタリアのシャツ工房はシルエットに絶妙な色気を与え、しかも腕をブンブン振り回せる可動域を確保します。
職人による手縫いで布を巧みに操る技です。
手縫いでないミシン縫製のシャツでも、最高に美しいシルエットを生み出します。

日本でクラシコイタリアが大人層にブレイクしたのは、2,000年代だったと記憶してます。
(ディオール オムと時期が一緒)
その後にファッションがカジュアル化していき、ニューバランスやアディダスのスタン・スミスが大ヒット。
買い揃えた細くセクシーなシャツをタンスの奥に仕舞い込んだ人もいるでしょう。
そんな経験を持つ人には懐かしく、イタリアブームを知らない若い世代にはたぶん新鮮な、正真正銘の一流シャツとジュンヤ ワタナベ マンとのタッグです。

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ムーミンの作者でもあるフィンランドのアーティスト、トーベ・ヤンソンの絵をプリントしたシャツ。
仕立てはあの、ルイジ・ボレッリです。
※展示会でのラフなスマホスナップですみません。

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ボディと腕とのつなぎめをひっくり返した裏面です。
右側が腕で、左側がボディ。
生地をつないでいる箇所の並行がずれていることがおわかりでしょうか。
実はボディと腕を個別に筒状に縫い、あとから接合したからこうなっているのです。
こんな手間をかけている理由は、腕を振り回して人体にストレスなく、裾が持ち上がる問題も解決するため。
電車で手すりを掴んだり荷物を棚に上げると、インしたパンツから裾が持ち上がりますよね。
ルイジ・ボレッリのシャツならそうなることが軽減されます。

シャツはボディの脇と腕を、一気に縫い上げていくのが一般的な縫製方法。
高級品にも採用される縫製方法です。
わたしが持っているエルメスのシャツ(驚くほど繊細なミシン縫製)は同じく一直線縫いです。
同じフランスのシャルベもそうですね。

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こちらもひっくり返した袖と肩の裏面。
一針一針が手縫い縫製です。
布をたゆませて遊びを持たせ、腕の動きを妨げずストレスフリーな着心地にするための手仕事。
「縫い目がヨタヨタしてない?糸のはみ出しもあるし。裏側とはいえども」
そう思う人もいますよね。
それこそが、
「イタリアの縫製は雑。シルエットも着心地もバツグンだけど」
と言われることがある所以です。
日本人はクリーニングでもジャケットでも、ガチガチに固めたアイロン仕上げを好む傾向にあるようです。
整った仕立てについての美意識の違いでしょう。

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裾にも手縫いでのガゼット補強が。
現代のシャツの着方で裾が避けることは考えにくいですが、クラシックなシャツを物語る楽しいディテールです。

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上写真は「マリア サンタンジェロ」とコラボしたシャツの袖付け。
こちらもしっかり手縫いです。

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イタリアの“マシンメイド最高峰”との呼び声高い「ギローバー」も、ボディと袖を個別に筒にしてからの結合。

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マリア サンタンジェロの背中。
狭くカーブを描くヨーク自体が色っぽくて美しいんですよね!
衿芯、カフス芯の入れ方も絶妙ですし、すべてが入念に考え抜かれているのがイタリアのシャツです。

ただ一方で、クラシコイタリアはトレンドに鈍感な世界。
輸入ものの既製シャツをただ着るだけだと、ひと昔前の人になる心配もあり。
ビジネス(ドレス)やエレガンスシーンでは最前線にい続ける服でも、ラフな日常着に取り入れるのはなかなか難しく。
上半身スリムがもっと流行すれば活躍の場が増えそうです。
カッコよく着こなすコーディネート力にあまり自信がない人は、今回ご紹介したジュンヤ ワタナベ マンのようにエッジーな感性でつくられたシャツで手仕事シャツの魅力に浸ってみては?

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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